89話 あっちこっちで大変なのですぅ
お待たせしました。やっと再開させて貰います!
屋敷に入ったホーラは呆れるように疲れたと頭を掻き毟る。
「まったくアリア達を待たされて苛立ってるってのにテツもアタイを待たせるとはいい度胸さ?」
「テツ兄様に限って、お馬鹿さん達と同じという事はないと……」
「いい度胸はリアナなの。ちょっと強いからって馬鹿にし過ぎなの!」
リアナの言葉にスゥが可愛らしく口の端を引っ張って威嚇する横で剣呑な表情をするアリアがモーニングスターを磨く。
その2人に歯牙にもかけないリアナは鼻を鳴らし背を向ける。
背を向ける時に2人の顔、いや、目を見て自分に対する怯えが消えている事に肩を竦める。
「あれほど力の差を見せつけられたのに……本当に馬鹿」
リアナの呟きは誰にも拾われる事なく、聞き逃された。
庭先をキョロキョロしても見当たらない。財閥の日本家屋のように凄まじく大きいので建物の裏や中に居ればここから目視で探すのは無理であった。
「とはいえ、テツ兄様が誰にも何も言わずにあの場から離れるのも不自然です。手分けして探しましょう」
「そうですね、少々、テツ君らしくない行動に思いますしね」
顎に手を添えて考えるポプリがリアナの言葉を支持する。
はぁ、大袈裟に溜息を洩らすホーラが腰に両手を当てて妹達を見渡して指示を出す。
「じゃ、散開。あの馬鹿を連れてきな」
ホーラが出した指示に軍隊の上官の命令を受けた新兵のようにビシッと敬礼するアリア達と「はい」と静かに頷くリアナは踵を返すと日本家屋の敷地内へと散開して動き出す。
それを見送ったホーラが少々ウンザリした表情を浮かべて軽く宙を眺めた。この状況でずっと黙っていたのが珍しい内の一人、背後にいてアリア達と一緒しなかったテツより幼い弟に振り返る。
「言いたい事があるから残ったさ? さっさと言いな」
「そうですね、アリア達に聞かせるのは躊躇ったから、なのでしょ? 珍しくホーラが気を使ってたのですから言ってしまいなさい」
ホーラと同じように振り返ったポプリが微笑を浮かべて弟、ダンテに声をかける。
判断力、状況分析力などで一目置くダンテが緊張を強いられた目で耐えるようにする姿を見て只事ではないと気を引き締める。
そんなダンテが俯いて踏ん切りが付かない様子から想像される状況を考えて眉を顰めるホーラがダンテに近づく。
「そんなにヤバい奴さ? あのアレク似だったおっさんは」
「……少なくとも僕はずっと警戒してました、いえ、この場所に来る転移装置を扱う前から」
拳を握り締めて悔しそうにするダンテが絞り出すように言ってくる。
「しかし、ホーラさん達と出会って意識を一瞬逸らした後、僕はハッサンさんを見失った、いえ、違う。忘れた、存在も警戒心も……」
悔しそうに見えたダンテであったがそうじゃないかもしれないと感じた姉2人、ホーラとポプリは顔を見合わせる。
ダンテが感じているモノを気付いた様子の2人を見て、震える体を誤魔化すように下唇を噛み締める。
「ホーラさん、ポプリさん、いなくなったのに気付かなかったのは本当なんですね……これで疑惑が確信に変わりました。ハッサンさんはお二人を出しぬける強者、おそらくツヴァイよりも強い」
「ツヴァイ? 誰ですか」
「……ユウイチさんの複製、ゼグラシア王国で戦った彼です。転移装置前で戦いましたが前よりも強くなってました……既にヒースでは一対一で戦いにならない程に」
ポプリの質問に答えたダンテの内容に2人は絶句する。
ゼグラシア王国で再会したヒースの飛躍といって良い成長には2人も一目を置いていた。まだ自分達の領域に達するには時間を要するとは思っていたがそれでもアリア達と比べれば2,3歩先を進む存在だと思っていた。
ダンテはハッサンに会ってから転移装置前で戦った内容を要点を絞って2人に説明する。
状況を理解した2人はハッサンの認識を改める。
悔しげに舌打ちするホーラを横目にするポプリがダンテに話しかける。
「ダンテが騒がず、私達に説明している。つまり……」
「はい、おそらくハッサンさんの狙いはテツさんで、会うのが目的なのか、伝える事があったんだと思います」
「少なくとも今回は殺しが目的じゃない……という訳さ?」
ホーラの言葉に頷いてみせるが少し迷いを見せつつも2人を見上げるダンテが補足するように言ってくる。
「はい。ただ、本当に殺しが目的であればこんなに静かじゃないでしょう。テツさんに反撃させる前に殺せるなら場所を変えずにこの場でして、連れ出したりしないでしょうから」
「となるとテツは……」
「ええ、おそらく屋敷内ではなく外でしょうね」
頷き合う姉2人、ダンテを見つめた。
「アタイ達はテツを捜しに行ってくるさ。アンタはどうするさ?」
「僕も行きます」
「では、行きましょう」
先導するように前を行く姉2人を追うようにして歩くダンテはずっと黙ったままだった、もう1人、門の上の屋根で四肢を付いてジッとするピンク色の長い髪で扇情的なバンドゥビキニに短パン姿の少女に声をかける。
「ミュウも一緒に行く?」
「いい。ミュウ、ここでテツを待つ」
そう、と少し悲しそうに言うダンテは気付いていた。
ダンテは状況、分析から。
ミュウは本能から感じ取っていた。
おそらく、テツはハッサンに戦わずして敗北しただろうと……
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屋敷内でテツを捜索中のリアナは広い庭にやってきていた。
辺りを見渡すがテツの姿を見つける事が出来ずに嘆息するリアナであったが弾かれるように振り返る。
リアナの背後から足音がしたからではあるが、それに気付けたのが思ったより近い距離であった為であった。
振り返った先にいたのはどこか緊張していたレイアである。
油断してた訳でもないし、レイアも足音を忍ばせてた様子もないにも関わらずリアナは気付くのに遅れた。
近寄ってくるレイアを俯瞰的に見て、リアナは理由に気付いた。
レイアの歩行に変化があった為であるが、どうやら本人は自覚症状が無いらしい事も見抜いていた。
こんな短期間で頭が悪いレイアにそれを叩き込んだのはどんな達人だろうと考えていると近寄ってきていたレイアが距離にして数歩といった所で立ち止まる。
そして、緊張からか、頬に一滴の汗が流しながら拳を突き出して口の端を上げて笑う。
「オトウサンの服をかけて……もう一度、勝負だ、リアナ!」
そう宣言するレイアをリアナは強い視線で見つめた。
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