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88話 考えがある……私がじゃないのですぅ

 木をメインで作られた建物、雄一が居れば良き古き日本家屋を思わせる縁側を緑色の髪をした座敷わらしを思わせる丈の短い着物を着る幼女がテケテケと足音をさせそうな走り方をしながらある一室、畳を敷き詰められた部屋へと入っていく。


 入った部屋の中には白髪のエルフの少年と3人の少女が居り、入ってきた幼女に顔を向ける。


「来た」


 入ると同時にそれだけを口にする幼女は白髪のエルフの少年の横にやってきて袖を掴んで見つめてくる。


 座っていた白髪のエルフの少年は緑色の髪の幼女に笑いかける。


「有難う、ミンちゃん。来たそうですよ、ホーラ姉さん」

「やっときたさ。まったくだいぶ待たされたさ?」

「そうかしら……私は早過ぎるぐらいだと思うけど?」


 待たされ過ぎて疲れたとばかりに肩を押さえて首を廻すホーラに緑色したお茶が入った入れ物に口を付けながら逆の事を言うポプリはホーラの本音を見透かすように笑みを浮かべる。


 ただでさえ不機嫌そうな表情を見せていたホーラが更に憮然とした表情を強めてポプリを見つめた後、鼻を鳴らして顔を横に向ける。


「まったく、ポプリ姉様の言う通りです。考えるのが面倒になって放り投げてやって来てないかと思うと……せめて、こちらのメッセージぐらいは理解していてくれると良いのですが」

「まあ、ダンテも一緒ならメッセージぐらいは理解してるだろうさ。それにアンタのメッセージは私怨も混じってたから分かり難かったかも?」


 意地悪な笑みを浮かべるホーラに見つめられたリアナは目を瞑って中身の入ってない茶碗を口に付けてやり過ごす。


 そんなリアナに肩を竦めるホーラが緑色の髪をした幼女、ミンに話しかける。


「金髪の女みたいな顔したエルフがいたさ?」

「うん。でも聞いてないのが2人いた」

「2人? 5人じゃなくて7人いたのですか?」


 聞き返したポプリの言葉にミンはコクリと頷いてみせる。


 ミンに2人の特徴を聞き出すホーラ達は顔を見合わせた。


 難しい顔をするテツが顎に手を当てて口にする。


「おそらく1人はヒースでしょうね、特徴から間違いないと思いますが……」

「まったく出て行ったり帰ってきたり忙しいヤツさ、何をしたいのやら? しかし、もう1人はその特徴から心当たりを言えばアレクぐらいしか覚えがないさ?」

「うふふ、言われてみればそんな感じがしますがそれはないでしょうね」


 ポプリもホーラがそんな事をこれっぽっちも思ってないと分かりながらもからかうように返答する。


 しかし、からかうように笑みを浮かべたのは一瞬で目を細めて考え込む。


「私はテツ兄様達の交遊関係は分かりませんのではっきり言えませんが、普通の街道で連れだって歩いているならともかく……ここは偶然会った旅の道連れというのは……」

「ああ、無理がある話だね。勿論、絶対ではないけど」


 下の者、弟と妹を心配する兄の表情をするテツの袖を掴んでいたミンが軽く引っ張ってくるので顔を向ける。


「転移装置で入口に到着した」

「来たそうです。そろそろ行きましょうか?」


 ホーラ達を見渡すと頷かれて立ち上がり始める。


 テツも立ち上がり、見上げるミンの頭を優しく撫でながら「知らせてくれて有難う」と笑いかける。


 すると、ミンはコクリと頷き、撫でてくれている左手を両手で掴んで下ろし、その左手の人差し指を掴むと部屋の外へと引っ張る仕草を見せた。


 それにくすぐったそうな笑みを浮かべるテツは抵抗せずに部屋から出て縁側を歩き始める。

 ホーラ達もその様子を見て苦笑を浮かべて先を行く2人を追うように部屋を後にした。





 祠の中に本当に転移装置を発見したアリア達は早速とばかりに転移した。


 無事に転移出来たアリア達は見慣れない土で作られた壁に木材で作られたと思われる美しさを感じさせる門を感嘆して見つめていた。


 呆けるようにしていたアリア達が見つめる門が少し開き、そこから緑色の髪をした幼女に引っ張れてやってくるテツの姿を見つめて我に返るアリア達。


「テツ兄!」

「待ってたよ。きっと来ると信じてた」


 歩き寄るテツが笑みを浮かべるのを見て安堵の表情を見せるアリア達。


 ダンテの推測でテツがアリア達を信じていてくれたと思ってはいたがやはりこうしてはっきりと口にされる安心感からホッとする。


 テツがメッセージとして置いて行ってくれたカバンを手渡した直後、アリア達は背筋に氷を入れられたようにビクッとさせると硬直した。


 顔に汗を浮かべるアリア達の視線の先、仏のテツの背後の門から鬼が姿を現していた。


 鬼が2人の少女を引き連れて震えるアリア達の前にやってくると見下ろしてきた。


「アタイを待たせるとはいい度胸さ? 秒で来い」

「えええっ!!! いえ……何でもありません。ごめんなさい」


 目にも止まらぬ速度で出したナイフを見たアリア達は迷わずその場で土下座した。


 鼻を鳴らすホーラが交渉道具を懐に仕舞い、少し離れた位置で必死に風景に溶け込もうと息を顰めるヒースに目を向ける。


 急成長する前のヒースであれば万が一もあっただろうが今のガタイでは明らかに無理があった。


 そんなヒースに地面に指を突き付けるホーラ。


「えっ、僕もですか? 僕はその時はいませんでしたけど……」

「アタイに挨拶もなく出て行った。偉くなったもんさ、なぁ、ヒース?」


 口を馬鹿の子のように開いてホーラを凝視するヒース。


 何もおかしい事を言ってないとばかりにジッと見つめ返してくるホーラに代わり、ミュウが眉をキリリとさせて言ってくる。


「ホーラ、神。容赦ない。ついでに胸もない……ギャン!」

「みねうちさ」


 再び、いつの間の出したかヒースにも見えなかったホーラのパチンコを放った後の格好で見つめられて震える。


 目をグルグルと廻して倒れるミュウを見つめるアリア達は心で叫ぶ。



『パチンコでどうやって、みねうちに出来るのぉ!!』



 ミュウじゃなかったら死んでるのではないだろうかと震えるアリア達を余所にヒースは目力がある男の顔をしてホーラを見つめる。


 それを流し目で見るようにするホーラに向かってヒースは一歩近づく。


「ご挨拶、遅れました! 申し訳ありません!」

「うむ」


 飛ぶように土下座を決めてくるヒースにホーラは許しを出すように寛容に頷く。


 それを背後で呆れるように見ていたリアナの隣にいるポプリが楽しそうにクスクスと笑いながらホーラに話しかける。


「アリア達で遊ぶのはそれぐらいにしておきましょう、ホーラ? それより、もう1人の……どこに行かれました!?」


 ポプリが見慣れない顔、ハッサンの話を進めようと辺りを見渡すが姿が消えている事に気付く。


 同じように見渡すホーラとリアナの目の前で正座していたダンテが飛び上がるようにして立ち上がる。


「しまった! 少し目を離した隙に!」

「――ッ! テツ兄様もいません!」


 リアナが言うようにテツの姿もそこになかった。


 しかし、見渡す中で姿はなく姿を隠せるとすれば屋敷の中ぐらいしかないと判断したアリア達は中に駆け込む。


 慌て騒然となったアリア達が建物の中に駆け込むのをチラリと見たミンはすぐに視線を屋敷の外の何もない空間に目を向ける。


 見つめるミンはソッと一言呟く。


「テツ、死ぬな」


 ミンの言葉は誰にも拾われる事なく、そよ風に運ばれた。





 テツはハッサンに声をかけられ、連れられて後を追うようにしてアリア達から離れて行動していた。


 既にアリア達がいた場所からだいぶ離れ、門すら見えない位置にやってきていた。


 ハッサンの背を見つめるテツの表情は険しく固い。


 何故かは、ホーラにすら声をかけずにやってきた理由にもなるハッサンに言われた一言が起因していた。


「セシルから伝言を預かっている」


 そう言われたテツはその場で声を上げそうになったが鋭い殺気、ピンポイントでぶつけてくるハッサンに黙らされ、着いてくるように顎で示されて、今に至る。


 嫌な汗が拭えないテツが歩いているとハッサンが足を止めて振り返ってくる。


「この辺でいいかな? おじ様、若いと言ってもさすがに疲れるからな。だって、アラサ―だからな」

「……さっさと用件を言え」

「テツ君、気を付けてですよ! こいつ只者じゃないですねぇ……」


 テツの横に突然、姿を現した巫女姿の梓がハッサンに身構える。


 警告を発する梓に「分かっている」と告げて梓の柄に手を添える。


 気圧されるテツと違い、相変わらずヘラヘラとするハッサンが帽子の被る位置を気にするようにしているのを睨みつけていると隣から悲鳴が聞こえる。


 慌てて横を見ると肩から腰の辺りへと真っ二つに斬られた梓の姿があった。


 斬られた梓が霧が晴れるように消えるのを見てテツが叫ぶ。


「梓さん!」

「ウチは大丈夫ですよ! 一時的に姿が出せないだけですからねぇ……テツ君、正面!!」


 梓の言葉に反応したテツが顔を前に向けるとお互いの鼻が当たるぐらいに近づけてきたハッサンの顔がそこにあった。


「くっ……」


 呻く事しか出来ずに棒立ちするテツの喉元に剣、小太刀タイプの刃が当てられてた為、身動きが取れずにいた。


 気合い負けはしないとばかりにハッサンの目を睨み返すテツに苦笑いするハッサン。


「どうやった?」

「そんな種明かしすると思ってる? これでも、おじ様の飯のタネよ。まあ、それはともかく伝言を伝えないとね~」


 テツの喉元に添えていた小太刀を外して離れるハッサンを睨み続けるテツに続ける。


「ツヴァイ……ああ、そう言っても分からないか。『救国の英雄』のクローンさ、あれを瞬殺出来ないなんて情けないだってさ? それで再試験としておじ様が派遣されたって話なんだけどね」

「お前はセシルの仲間なのか!」


 梓を抜き放ち、臨戦態勢に入るテツがハッサンを睨むが突然、肩に手を置かれて慌てて横を見ると正面にいたはずのハッサンがそこにいた。


 間違いなく油断していなかったテツに気付かせずに隣に移動していたハッサンが先程までいた場所を横目で見つめるが当然、姿は無くなっていた。


 茫然と足下を見つめるテツの肩をポンポンと労わるように叩くハッサン。


「まあ、慌てるな。今日は伝言を伝えに来たのと自己紹介に来ただけさ、俺の名前はハッサン、39歳。アラサ―さ」


 そうヘラヘラした笑いを浮かべるハッサンがテツに背を向けて離れる。


 まったくハッサンの動きを捉えられなかったテツは拳を握り締める。


 そんな様子のテツを見て思い出したように話し出す。


「そうそう、おじ様はセシルの仲間じゃない。再戦を申し込んでるんだけど色好い返事が貰えなくてね……でも、君を殺せば相手してくれるとやっと言ってくれた」


 ハッサンの言葉に下唇を噛み締めるテツはハッサンでも勝てない相手、セシルとの自分の力の差を感じさせられ、悔しさで体が震える。


「まあ、そういう訳で風の邪精霊獣が居る場所で待ってるよ」


 無警戒に背を向けて手を振って去るハッサンにテツが声をかける。


「ここでやるって言い出さないのか?」

「言ったでしょ、自己紹介しに来たって? それにね……あのガキンチョ達にちょっとだけ愛着も持っちゃたし、不意打ちみたいな形で尊敬する兄ちゃんを殺したと思われるのも頂けないからねぇ」


 両手を広げて肩を竦めるハッサンが顔だけをこちらに向けてテツを見つめる。


 見つめられたテツは背筋に鉄の棒を突っ込まれたような感覚に襲われる。


「だが、逃げたら最初にあのガキンチョから殺す。剣を極める為、おじ様を負かせた相手、セシルと再戦する為ならば、どんな手でも使う」


 そう言って去っていくハッサンの姿が見えなくなるとテツは膝から地面に付く。


「くそぅ……」


 テツは拳を振り上げ、地面を殴りつけた。





 テツとハッサンのやり取りを離れていた位置で眺める者達がいた。


 長い黒髪を後ろで縛る黒い忍者衣装を着る大男に肩車される赤い忍者衣装を着る幼女が目の前にある頭をペチペチと叩く。


「おい、月の字。あのままだとあのエルフの坊主は間違いなく殺されるぞ?」


 腕組みをしたまま黙る月影の両端に金髪のピンクの忍者衣装の少女と青い忍者衣装の青い髪の少女が月影の二の腕を掴んで揺する。


「大変なのですぅ、大変なのですぅ!」

「何か出来る事は?」


 それでも微動だしない月影は膝を着いて悔しそうにするテツの背をジッと見つめた後、背を向ける。


 何もせずに背を向けた事に驚きを見せる少女2人が逞しい腰に抱き着いて去るのを止めるようと奮闘する。


 そんな行動をする2人に嘆息するように首の後ろを掴みネコを持ち上げるようにして2人を自分の眼前に連れてくる。


「俺に考えがある。黙って着いてこい」

「あるならさっさと言うのですぅ!」

「どうなるかと思いました……」


 落ち着いたのを見て、2人を離すと再び歩き始める月影の肩にいる赤月は不敵に笑みを浮かべる。


「では、お手並み拝見じゃな?」


 くっくく、と笑う赤月が手を翳して生み出した黒い球体を月影にへばりつくようにした金月と水月を巻き込むようにしてぶつける。


 黒い球体が収束するように小さくなって消えたその場には誰も居なくなって、遠くからテツの憤りからくる叫び声が響き渡った。




 4章  了

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       雄一の孫の世代             こちら亜人ちゃん互助会~急募:男性ファミリー~  どちらも良かったら読んでみてね? 小説家になろう 勝手にランキング
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