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74話 ちょっぴり苦いのですぅ

 レイアに肩を貸しながらダンテはとりあえずは船を調達しなくては、と港にやってきた。


 アリアとスゥはダンテの指示で食糧の確保を頼んだ。


 ダンテ達が来るのを待ってる間に市場などを見て廻って碌なものがなかったから見る必要はないと愚痴っていたが、転移装置の周りがどうなってるか分からない。

 もっと言えば転移先はマサムネの話が本当なら空の上と言ってた以上、分かれというのが無理な話である。


 なので日持ちする物で出来れば携帯が楽なものを少しでも買ってくるようにとダンテは言い聞かせた。


 それを見送ったダンテは船を捜すのにレイアを連れて廻るのは効率的ではないと判断して釣りをしているミュウにまず預ける為にアリア達から聞いた場所へと向かっていた。


 アリア達に聞いた場所周辺に着いたダンテは辺りをキョロキョロと見渡す。


「聞いた話ではこの辺りのはずなんだけど……」

「なぁ、ダンテ。あそこにいるのミュウじゃない?」


 レイアに指を差された方向を見るとピンク色の髪をした少女が波止場で魚に齧り付いている姿があった。


 ダンテとレイアは頷き合うとそちらに近づいていくとミュウであると確信したと同時にレイアが呼ぶとミュウが魚を咥えたまま振り返る。


 振り返ったミュウを見た瞬間、レイアが叫ぶ。


「ああっ! その魚、高くてすげー美味いヤツだ!」


 突然、耳元で叫ばれたダンテが蹲ろうとするとレイアはダンテの肩から離れて、後、一齧りできるぐらいの身を残す高級魚を目指して走る。


「うわ、レイア元気……肩貸す必要なかった」


 げんなりするダンテをチラリと見たミュウは走ってくるレイアに目を向け、手元にある魚の身を見つめ頷く。


「がう」

「ああああ――――ッ!」


 最後の一口をパクリと食べてしまうミュウを見てレイアが世界が終わったかのような絶叫を上げて頭を両手で抱える。


 絶叫するレイアを見てウンウンと頷き、モグモグと咀嚼して飲み込んだミュウは手を合わせて、ごちそうさまでしたをする。


 頭と骨だけになった高級魚を手にするミュウが海に体を向ける。


証拠隠滅リリース

「リリースじゃねぇ!!」


 立ち上がったレイアが海に食べ終えた魚を捨てたミュウの胸倉を掴んで揺する。


 半泣きのレイアの様子から相当食べたかったのだろうな、と嘆息するダンテ。


 揺するレイアが「さっきのはあの美味しいヤツだよな!?」と叫び、ミュウが「そんな魚、知らない。ない、ない」と空っぽの掌を見せてプルプルと首を振ってみせる。


 呆れるダンテもミュウに近づいて手を上げるとミュウはキリリとした良い表情を見せて同じように気楽に手を上げてくる。


「やあ、お待たせ、ミュウ。早速で悪いけど船を調達してくるから面倒見ててくれる?」


 まだ諦めが付かないのかミュウを揺するレイアを指差すとミュウはガゥと気持ちよく快諾してくれた。


「じゃ、お願いね?」


 そう言って離れるダンテの耳に「アタシも食べたかったのに!」と愚痴るレイアの言葉に「またきっと釣れる」と竿を取って糸を垂らすミュウ。


 何気なく振り返ったダンテが見たミュウが糸目のように目を閉じて口をムニムニさせるのを見て首を傾げる。


「あれ? なんかミュウの雰囲気……変わった?」


 何が変化したのかと考えるが分からないダンテは止めてしまった足を動かし、船を貸してくれそうな人を捜しに歩き出した。





 探し出して、しばらくの時が流れた。


 捜し続けたダンテであったが船を貸してくれる人を見つけられずにいた。


 港をうろついている内に食糧調達が済んだアリアとスゥと合流して一緒に捜しているが分かった事は1つであった。


「最近、船を2隻を貸し出したせいで余剰の船がないか……」


 どうやら、この港で船を借りた者が2組いたらしい。


 その1組は間違いなくホーラ達であろうが、こんなタイミングでもう1組もいたのは不運としか言えない。


 確かに港を見渡しても遊んでる船はなく、荷降ろしや積み込みをしてる船以外は停泊していなかった。


「この小規模な港に確かに余剰の船はほとんどないのは当然なの」

「ダンテ、魔法で吹っ飛んだり、空中を生活魔法の風で走る……水牢で移動とか?」

「ムリムリ、あの地図から見た距離でそんな方法で行けたとして辿りついたと同時に力尽きるよ」


 そんな事が出来るのは雄一やテツぐらいだ、と首を振るダンテにやっぱりそうかと言わんばかりに頷くアリア。


 次点でクロを運用するというアイディアを出してきたアリアであったが、ホーラに殺される覚悟があるなら、とダンテに言われたと同時にあっさり撤回する。


 考える事に煮だったスゥが「こうなったら奪うの!」と物騒な事を港で呟く。


 慌てた様子で辺りを見渡すがどうやら聞かれずに済んだようでダンテは安堵の息を吐く。


「何言い出すの、スゥ! 倫理を取り除いたロジカルな意見は? まるでリホウさんが言いそうな事を……」

「うっ……謝るからそれと似てるみたいに言わないで欲しいの……」


 思考が似通ってる事が酷くショックだったらしく、涙目になって鼻を啜るスゥ。


 そんなに嫌なんだ……思いながら頷くダンテが周りを見渡すと港に居る人達がダンテ達を見ていた。


 聞かれたか、もしくは、スゥを泣かせたダンテを非難、「男の子が女の子を泣かせてる」と言われるのかとドキドキさせられる。


「おいおい、女の子同士、仲良くしとこうな?」

「3人共、可愛い子じゃねぇーか? 泣いてるより笑ってろ」


 そう言われたダンテはスゥにペコリと頭を下げた後、港の人達にニッコリと笑ってみせる。


 笑うダンテを横目でチラリと見るアリアとスゥには分かった。


 ダンテは泣いている。笑いながら見えない涙を流しながら必死に立っていると……


 ダンテを見習い、港の人達にお辞儀をした2人は立ったまま気絶したのかと疑うダンテを引きずってミュウが居る場所へと歩き始めた。





 なんとか復帰したダンテと一緒にミュウが釣りする場所へと向かう3人であったが船の調達をどうしたものかと頭を抱える。


 悩むダンテは誰かに呼ばれた気がして振り返る。


「やっぱりダンテだ……アリアとスゥも!」


 ダンテ達に声をかけてきた人物を見て声を上げる。


「ヒース!?」


 そこに現れたのはゼグラシア王国を出た初めの夜に姿を消したヒースであった。


 驚くダンテ達の下に駆け寄ってきたヒースが手を上げて挨拶してくる。


「やあ、半月ぶりぐらい? それはともかく、良いところでダンテ達と出会えた! 手を貸してくれないか?」

「えっ? 僕達もやる事はあるからどの程度か聞いてからしか答えられないんだけど……」


 前回、ヒースに力を貸して貰えて切り抜けた場面が一杯あり、当然、協力する事はやぶさかではないがダンテ達も風の精霊神殿に向かわないといけない。


 若干消極的なダンテ達に申し訳なさそうにヒースは言ってくる。


「師匠に風の精霊神殿に届け物を持って行くように言われたんだけど、その手前の転移装置が1人じゃどうにもならないんだ……手を貸してくれない?」

「風の精霊神殿!?」


 ヒースがダンテ達と同じ目的地を口にした事に驚いて顔を見合わせる。


 驚くダンテ達にびっくりしたヒースが首を捻るのを見てスゥが言う。


「私達も風の精霊神殿に行こうとしてたところなの……でも船が……」

「僕と同じ目的地? 船なら僕が押さえているのがあるから丁度いいよ!」

「なるほど、ヒースがもう1組の船を借りた人という事」


 納得するように頷くアリアに「もう1組?」と聞き返すヒースにホーラ達も借りたと伝えると驚かれる。


 驚いたヒースが辺りを見渡した後、ダンテに目を向ける。


「そう言われてみれば、ホーラさん達がいないね?」

「色々あってね……」


 聞きたそうにしているヒースにダンテは「まずはレイアとミュウと合流してからね?」と告げ、4人は2人が居る場所へと急いだ。





 レイアとミュウと合流したダンテ達は時間が惜しいとヒースが借りた船に乗り込み転移装置がある場所へと船を出した。


 船での移動中にヒースと別れてからの事を説明を済ませた。


 その話を聞くと凄く納得がいった風に頷き、リアナの考え方に理解を示した。


「うん……ゼグラシア王国でみんなを見た時に僕もちょっと同じ事を思ったよ」

「どうして! と数日前の私達なら言ったと思うの。でも、どうして言ってくれなかったの?」


 スゥが聞き返すとヒースは言い辛そうに言ってくる。


「土の邪精霊獣の一件の時は僕の方がもっと酷かった。でも、師匠と出会い、甘えなどを叩きのめされて少しずつ気付かされた。だからと言って自分で気付いた事でもなく気付いたばかりの事を偉そうな事を言うべきか……ね?」


 ヒースが苦笑いして言ってくるのを見てアリア達も頷くしかなかった。


 仮にヒースがあの時に言ったとして力を付けたから見下されたと思わなかったかと言えば自信はないとアリア達も冷静に考える。


 それと同時に納得させるならリアナのように実力で叩きのめされないときっと理解はしなかったであろう事も今は気付いている。


 変な空気になったのを矛先を変えようとするヒースがリアナ戦の感想を口にする。


「でも、やり方が力技だと思うけど攻め方は考えてるよね?」

「例えば?」


 聞き返すアリアにヒースは頭の中で順序良く並べるようにして話し出す。


「各個人に対する対処の仕方が無駄がないよね? 僕がリアナの立場なら全員に力任せの攻撃をして無駄が多いから全然違うよ。あっ、でも1つだけ僕も同じ事したと思える事があった」


 思い付いたように人差し指を立てるヒースにアリア達の視線が集まる。


 少し照れた様子を見せるヒースが告げる。


「僕も間違いなく初めにダンテを潰しにかかる。間違いなくダンテがいてこそのこのパーティの強さだからね」

「まあ……な? 確かにダンテが落ちた後、アタシ達はボロ負けしたし、否定出来ない」


 認めるしかないがヒースに言われると悔しさと恥ずかしさで赤面しそうになるのに耐えるレイアが仏頂面で言う。


 それを見たヒースがレイアが怒るのを我慢してると勘違いして更に話の矛先を少し変える。


「それはそうと、みんなを見た時に思ったんだけど強くなってない? 雰囲気が違う気がするんだ」

「まあ、確かに僕達も自分達と向き合う為に各自バラバラに数日行動したけど……変わってるように見えるの?」


 聞き返すダンテにヒースはその数日の事を聞いてくるので各自が素直にあった事を簡単に話す。


 聞き出したヒースが納得したように頷き、アリア達を見渡し話し始める。


「うん、師匠に鍛えられるようになって相手の強さをなんとなく肌で感じられるようになったんだ。今のみんなならリアナも前回のように余裕はないと思うよ?」


 余裕はないが結果は変わらないと言われたアリア達は憮然とするがあくまで成長のキッカケを手にしただけだと自覚症状はあったので致し方がないと頷き合う。


 特に不満そうな女の子にタジタジになりながらヒースは続ける。


「前だったらダンテを真っ先に潰そうとしただろうけど、少し悩むだろうね?」

「がぅ、ヒースならどうする?」


 ジッと見てくるミュウに少し困った顔をするヒースはウーン、と唸るようにして腕組みをする。


「そうだね……僕なら悩むけどまずはやっぱりダンテを潰しにかかるかな?」

「次は?」


 珍しく食い付くミュウにアリア達も顔を向け合い首を傾げる。


「悩むけど……4人の中で無視できないという意味で突破力でレイアかな?」

「えええ! アタシ? 突破力ならミュウじゃないのかよ」

「がぅ、ミュウ、ヒースの目、信じる」


 驚くレイアがミュウを推すがミュウは納得とばかりに頷き、もう話に興味がないとばかりに船先に行って進行方向を静かに見つめる。


 ワタワタと困るレイアとヒースの考えとそれをあっさりと納得してみせたミュウの行動にも翻弄される3人。


「ヒース、それは君の肌で分かる強さという話だけの判断かい?」

「それもあるけど、ホーエンさんって確か火の精霊の加護を手にした凄く強い人だよね? その人がレイアに防戦させて『仕上がった』と言ったんでしょ?」

「ああ、うん……」


 戸惑うレイアが頷くを見てヒースが曇りのない笑みを見せる。


「じゃ、間違いなくレイアは強くなってるよ。それはレイアを良く理解した人かレイアと真剣に戦った相手以外には分からない。だから、僕は良く分かる」


 レイアを良く理解したと言われてレイアは赤面して俯く。


 君の事は僕は良く知っている、いつも見つめていると言われたかのように感じたレイアにとって告白されたような恥ずかしさに身悶えしそうになるのを耐えるのが精一杯であった。


 幸せの絶頂のレイアの耳元に口を寄せる半眼のスゥは空を舞うレイアを叩き落とす。


「ヒースが言ってるのはザガンでレイアと一対一でやった時の話なの」

「わ、分かってるって……もうちょっと夢を見させてくれてもいいだろ?」


 ガックリと肩を落とすレイアとちょっと意地悪だったかな? と眉をハの字にするスゥを見るヒースが首を傾げる。


 ほんのり苦い現実を噛み締めるレイアを余所に船は転移装置がある島へと進み、遠目に島が見え始めた。

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