73話 何してた? なのですぅ
ダンガの北の森にある泉から出発したダンテは旧シキル共和国にあるテツの地図に示されていた寂れた港町に到着した。
馬車を乗り継ぎながら到着したダンテはアリア達と別れてから10日が経っている事を思い出しながら港に通じる道を歩いていた。
「そういえば、アリア達と集合する時間とか決めてなかったな……」
あの時、冷静に判断したつもりだったダンテであったが、やはり色々と熱くなっていたようで大ポカをやらかしていた。
悔やむ前に、とりあえず船が調達出来るかどうかを確認するのが今、やるべき事だと気持ちを切り替えるダンテは違う不安に駆られる。
「良く考えたら到着するのが僕が最初と限らない? アリア達なら1日待ってこなかったら僕を放っていく可能性が……」
怖い可能性を考えてしまい、紛らわす為に口にしたと同時に背中を叩かれ、良い音が響く。
「イタタ……げっ!」
叩かれた背中を撫でようとしながら振り返ると最悪のタイミングで要らない事を口にしたとダンテは後悔から嫌な汗を流す。
「ダンテ、酷いの! 私達はそんな薄情じゃないの!」
可愛らしく頬を膨らませるスゥとその背後にはアリアがウンウンと頷く姿があった。
特に悪意があった訳ではなく、不安を紛らわせるつもりで言っただけであったが素直に謝るダンテ。
「ごめんね。合流する日時を指定してなかったから会えるかどうかの不安を紛らわそうとしただけなんだ」
「大丈夫、スゥも不安だったから強く言ってる。私もダンテの不安を昨日の夜に着いた時に先に島に行ってようかと悩んだ」
アリアは昨日の夜でスゥは一昨日の昼に到着したらしい。
ダンテはアリアの言葉を聞いて半眼になる。
「スゥは待っててくれる気だっただろうけど、アリアは待つ気なかったじゃない」
「ん、だから、私はダンテを叩いてない」
思わず、「なるほど」と納得させられるダンテは苦笑いを洩らす。
アリアとスゥだけかな、と問いかけるダンテにスゥはミュウも到着していて今は港で釣りをしていると伝えてくる。
ミュウと合流する為にダンテ達は港へと歩みを再開させる。
隣に歩くアリアとスゥを見つめると2人の顔には別れた直後の自信を剥ぎ取られた時よりも前より良い意味で自信に溢れる笑みを浮かべていた。
「2人共、良い手応えがあったみたいだね?」
ダンテの言葉に頷く2人。
「うん。やっとリホウさんが教える気になってくれて分かった事が増えたの。今、ダンテに一番伝えたいのはポロネの一件で危ない橋を渡ったって事なの」
「そんなに危ない事だったの?」
「そう、危なかった……ダンテが」
スゥの言葉にダンテは噴き出し咳き込む。
アリアはダンテを気遣うように背中を撫で貰い、落ち着きを取り戻してスゥに詰め寄る。
「どうして僕が!?」
「光文字に扱える素養がある人は滅多にある事じゃないらしいけど、そうでない人が光文字に魔力を通わせると大爆発が起きる可能性が高いらしいの」
はぁ……と魂が抜けるような溜息を洩らすダンテは精霊門を開こうとした時の事を思い出す。
精霊門を維持し、魔力を高めている時に制御の甘い魔力を送りこんでいたらと思うと大爆発では済まなかったかもしれないと背筋に冷たい汗が流れる。
命拾いしたとホッと胸を撫で下ろすとある事を思い出す。
「あの時、僕の傍でスゥは気絶してたよね? 危なかったの僕だけじゃ……」
「うっ! 確かになの……下手したら気絶したまま絶命したかもしれないの」
「結果、2人が無事で何より。次やる時に対策を取ればいい」
項垂れる2人の肩を優しく叩くアリア。
そのアリアの行動が少しおかしいと感じるダンテは良く考えたら、スゥが叩いた時も便乗しなかったりと珍しい行動に出ていた。
今もアリアをジッと見つめているのに「何?」と聞き返したり、ジロジロ見られてる事に不機嫌そうになる様子も見せずに自分の髪を指で梳いて御満悦の様子を見せる。
その様子を見ていてある事に気付いたダンテは隣にいるスゥに小声で質問する。
「アリアの様子がおかしい。妙に余裕があるし……そうそう、アリアは髪をセットする時は櫛を使うのに手軽に手櫛で髪型を崩すような事してない?」
「さすがはダンテ。私とアリアに伊達に鍛えられてないの。そう、アリアの髪を良く見てみるの」
そう言われて見つめるダンテはやたらと手櫛をするアリアを見て気付く。
ダンテが気付いた事を知ったスゥが憮然とした表情で言う。
「アリアは質問待ちしてるの……腹立つの!」
「あはは……ねぇ、アリア。いつもより髪が綺麗じゃない?」
「ダンテは見るべきところを良く見てる」
ムフンと言いたげに胸を張るアリアに苦笑いしか出来ないダンテ。
元々、黒々とした綺麗な髪であったが艶やかさが増した弾力を感じさせる髪をアリアは披露していた。
確かに女の子であるアリアはレイアとミュウと違い、髪の手入れをしている事は実験台にされてきているのでダンテ自身が良く分かっていた。
「何があったの? この10日間に?」
「シズカさんに極意を伝授して貰った」
どうやらアリアは髪を綺麗にするテクニックを学んだらしい。
ダンテを押し退けてアリアの胸倉を掴むスゥが悔しそうに揺する。
「アリア、私達は友達なの! その極意を教えて欲しいの!」
「無理。門外不出」
アリアとスゥが騒いでるのを横目で見るダンテは溜息を洩らす。
もしかしたら真面目に自分と向き合ったのは自分だけなのでは? と不安に駆られていると誰かに呼ばれた気がしたダンテが振り返る。
見つめる先には疲労困憊な様子のレイアがやってくるのを見て駆け寄る。
「大丈夫かい!?」
駆け寄ったダンテがレイアに肩を貸すようにして並んで歩き出す。
アリアとスゥもじゃれ合いから脱し、レイアの下にやってくる。
歩くのもやっとそうなレイアを心配し出す2人を遮るようにダンテが質問し出す。
「レイア、その怪我はどうしたんだい?」
「ああ、これは修行を先生に付けて貰った時のだな……ッ!」
喋ってるレイアは口の端が切れてた場所の傷口が広がったようで眉を寄せる。
一瞬、痛そうにしたがたいした事がなさそうな事に安堵するアリア達はレイアに先生とはと聞き出そうと口を開く。
「先生?」
「ホーエンさんに鍛えて貰ってたから」
その言葉に納得したダンテが同じように四苦八苦してきたように見えるレイアを仲間のように歓迎を表明するように両手を広げて頷く。
「レイアの様子から相当激しい訓練だったんだね」
「激しいのは間違いないんだけど……アタシがした事といえば……ガードしてただけでタコ殴りにされて、昨日の夜に先生が仕上がったと言ってここの港町の入口に捨てられた」
ポカーンとするアリアとスゥを見つめたダンテはレイアと向き合い、深い溜息を零す。
「もしかして、みんな徒労に終わった?」
まだ見ぬミュウをそっちのけでダンテは諦めるように項垂れた。
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