54話 掛け合わせは大事だのですぅ。えっ、違うのですぅ?
振り返り、困った笑みを見せる少年、ヒースは面影はあれど、素知らぬふりをされれば勘違いかな? と思わせる変化を遂げてアリア達の前にいた。
幼さがだいぶナリを顰めて、どんどん父、ノースランドに似てきたヒースをびっくりとしか表現出来ない様子の一同であったがダンテが口火を切る。
「裏切り者ぉぉ!!」
いきなり叫ぶダンテは踵を返し離れた壁の方に走っていく。
ローブを羽織っているので、見慣れているアリア達ですらワンピースを着た少女が泣きながら走っているようにしか見えずに苦笑いを洩らす。
ダンテの奇行のおかげでショック状態から立ち直った一同。
どうやら、元々、再会した時点で男らしさでの勝負で負けが決まってたような出来事だったがダンテ自身は『もしかしたら?』ぐらいには可能性を夢見てたらしく、現実を突き付けられて壊れたようだ。
走り去ったダンテからヒースに視線を向けるスゥがマジマジと見つめる。
「本当にヒースですの? まるで別人なの、どうやったら1カ月でそこまで成長できるの?」
「がぅ、ミュウと同じぐらい」
スゥが話しかける傍ら、ミュウはヒースの隣に立って背比べをするが僅かにヒースの方が大きい事を知るとムスッと拗ねるミュウに弱った笑みを浮かべるヒース。
呆けるレイアに見上げられてる事に気付いたヒースは頬を掻きながら口を開く。
「えーと、うん、僕はヒースだよ。なんか自分で証明するのって変な気分だけど」
「大きくなった理由の答えの催促の前に聞くべきだったの。ヒース、貴方、1カ月以上の間、連絡も寄こさずにどこにいたの?」
眉を寄せて腰に両手を置き、怒ってます、と分かりやすい表情で伝えるスゥにタジタジになるヒースに追撃するスゥは「数日前までザガンで待ってたの」と言われる。
スゥがそう言い募るのを横で見ていたレイアはウンウンと頷き、自分もそれが聞きたかったと言いたげにヒースを見つめる。
「……修行だよ。体が大きくなったのも修行の過程で」
「筋肉付けたら身長が伸びたみたいな? そんな馬鹿な事ある訳ないの! もし、それが本当ならそんな馬鹿みたいな事……」
「いや、まったく不可能な話でもないらしいよ、僕が昔に聞いた話通りだったらね?」
呆れるスゥの背後から目元を腕でゴシゴシと擦りながら帰ってきたダンテが答える。
少し泣いて馬鹿をした事で立ち直ったらしい司令塔ダンテが浴びる注目に応えて頷く。
「僕はレンさんからの授業で掛け合わせする魔法があるって聞いた事があるんだ」
当時のダンテは水魔法を使い始めたばかりだった為、試すどころではなかったが知識としては教えられていた。
「でも僕はそんな応用は先の先だと思って詳しく聞いてなかったんだけど、ポロネの一件で改めて知ろうとしたんだ。何故ならポロネの力『断絶』は光と闇の掛け合わせだった」
「そういえば……召喚する最低条件は知る事、理解する事」
スゥも同じように魔法の基礎知識の先を進めた授業で学んだ事を思い出し頷く。
黙っているアリアも頷くが基礎知識だけで終わらせたレイアとミュウはさっぱりといった様子で首を捻り、レイアの頭から湯気が上がる。
「その掛け合わせの中で『時』というのがあるらしいんだ。何を掛け合わせたらいいかも分からないんだけどね」
「それでヒースが大きくなったってことか? あ、そういえばメグ姉の魔法も『時空魔法』じゃなかったっけ?」
レイアが恵の事を思い出し、ダンテに告げると難しい顔をして歯切れ悪く答える。
「間違いという訳じゃない思うんだけど、劣化コピー、もしくは別物のように思っていいってレンさんが言ってた」
ダンテも同じ事を思って質問した事があったようで答えるが正解が分からないという結論に行き着くと自然にみんなの視線がヒースに集まる。
ヒースは時間を気にするような素振りを見せながら答える。
「多分、ダンテの言う通りなんじゃないかな? 僕も理屈は聞かされてないし、行使してるところを目撃した訳じゃないから断言はできないけど」
そう答えたヒースが話を切りたそうにしてるのを遮るようにスゥが口を挟む。
「そんな未知の力を行使が出来て、瀕死だったとはいえ、あの大カエルを一刀両断したヒースを鍛えた……」
「ヒース、話が……」
スゥの言葉に今まで黙っていたアリアの言葉が被り、お互い黙ってしまう。
スゥはアリアがヒースに謝罪したい気持ちがある事を知っていたし、アリアはスゥの質問はこの場にいる者達の知りたい事である事を理解していた。
お見合い状態に陥った2人から視線を切ったヒースはダンテを見つめる。
「ごめん、みんな、僕は帰ってきた訳じゃない。今も修行中なんだ」
「修行中? この荒れた国でかい?」
「それは……」
ダンテの質問に答えようとしたヒースの言葉を遮る沢山の足音がこちらに向かってくるのに気付いて、アリア達はそちらに目を向けるとデングラとリアナを先頭に何百人いる? と聞きたくなる兵に追われている姿があった。
息絶え絶えといった様子のデングラと違い、まだ余力がありそうなリアナが叫ぶ。
「大カエルを倒したのなら報告しなさい! いつまで無駄に走らされるのですか!」
「ああ、ごめん!」
リアナの怒気に当てられたようにアリア達は首を竦めて、ダンテとヒースは「ごめんなさい、ごめんなさい」とペコペコと謝る。
現状、顔見知りでもなく関係者ではないとも言えるヒースが条件反射で謝る。
何故か謝ってた事に気付いて驚くヒース。
「ついクセで……」
「ヒースも反射の領域まで……」
ルルールーという音が聞こえてきそうな静かに涙を流すダンテに「ち、違う!」と被り振るヒースは大刀を構えてこちらに向かってくる兵達に相対する。
「ここは僕が切り開くよ。『暴走する奴等を叩きのめしてこい。首謀者はきっちりと仕留めろ』これが師匠に言われた内容だ。みんなは逃げて、また会おう」
絶句するアリア達から兵達の方に目を向けたヒースが「はあぁぁ!!」と気を吐くと駆け抜けるようにやってきたリアナに縛ったヒースの髪を掴まれ、引っ張られる。
釣られるようにアリア達も走り出す。
「イタタッ!」
「馬鹿ですか? 馬鹿なんですね? 何の為に逃げてるとお思いです? 我が国の兵に悪さを考えてる者はいません。勘違いしてるだけの大馬鹿者達と分かっているから逃げきろうとしてるんですよ!?」
いきなり引っ張られたのでたたら踏むようにして走っていたヒースであったがすぐに体勢を整え、痛そうに頭を撫でる。
「大丈夫、死なないように祈って斬るから大丈夫のはず! 死んでなければいいよね?」
「本物の馬鹿なんですね! 振り切ったら事情を説明して差し上げますから今は走りなさい!」
軽く飛び上がったリアナがヒースの頭を叩く。
叩かれたヒースは「遅くなると師匠の罰が厳しいんだけど……」と項垂れるがキッと睨むリアナが怖いようで着いて行く事にしたようだ。
渋々走るヒースの背を見ながら走るレイアの口許には優しげな笑みが浮かぶ。
「昔のホーラ姉とテツ兄みたいだ……ちょっとだけ……うん、ちょっとだけ」
照れ臭そうにするレイアがモゴモゴと自分だけに聞こえないように呟く。
「適当な時のオトウサンと少し似てる」
嬉しいのか恥ずかしいのか分からなくなっているレイアは何かを誤魔化すように歯を見せる大きな笑みを浮かべた。
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