33話 道を作ってやる、ん? 街道を行くのでいらないのですぅ
土の邪精霊獣に特攻しようとしてたヒースが青いオーラに気付いた少し後、今まで進行を防いでいた魔力の奔流がなくなり、たたら踏む。
目を白黒させるヒースに何かに気付いた素振りのティリティアが叫ぶ。
「そこの子、すぐに逃げて! そこは危ない!」
そう言われたヒースであったが近くにいたレイアと顔を見合わせて、どうしたらいいか、と迷いを見せるなか、土の邪精霊獣に出来た亀裂から更に強い青いオーラが漏れ出す。
漏れる青いオーラを見て、さすがの2人も危ない意味を理解して踵を返して逃げ出す。
だが、亀裂から漏れ出す青いオーラが強くなる速度が上がり、乾いた音がしたと思った瞬間、2人の背後から大爆発が起きる。
爆発の余波を背中で受けた2人は勢い良く吹き飛び、地面に叩き付けられそうになるのを仲良く前転する事で回避するが、その勢いのまま壁に激突した。
「大丈夫なの、2人共!」
心配するスゥが声をかけるが変な体勢ではあるが無事を知らせるように手を振り返すレイアとヒースの様子に安堵のため息を吐く。
ホーラ達も無事と分かり、安堵して前方、土の邪精霊獣が居た方向に目を向けると土埃が立ちこめており、視界が悪いがこちらにやってくる影に気付く。
そこから出てくる少年、全身血だらけのアルビノエルフ、テツの姿が現れる。
「ただいま、戻りました」
「まったくさ、どっかで寄り道してるのかと思ったさ?」
鼻を鳴らすホーラはいつものやり取りをするように悪態を付くが、いつもより声音が優しげであった。
苦笑いするテツがホーラの目の前にやってくると限界がきたのか膝を着く。
「テツ兄さん!」
心配げな声を出すアリアがテツを支えるように背中から抱くようにして寝かせると回復魔法を行使する。
あまり感情を見せないアリアが泣きそうになっているのを頭を撫でるテツは苦笑する。
「大丈夫だよ、アリア。見た目ほど酷くないから」
「嘘、テツ兄さんは嘘吐き!」
回復が主のアリアにあっさりと嘘を見抜かれて困ったテツが顔を背けると喜びを見せる弟、妹の中に思い詰める表情をする少年を見つける。
1人、離れた位置から見つめる少年、ヒースにテツは声が届く大きさで話しかける。
「君が思い詰める事はない。これは俺の意思で勝手した事だ」
「違う……僕の考えが浅かったばかりに……」
悔恨の思いに苦しむヒースを見つめるテツは自分がした事は間違いでなかった、と安堵するように柔らかい笑みを浮かべる。
ヒースは今すぐは無理かもしれないが、いつか、雄一風に言うなら良い男になる素養があると思う。
あそこまで醜態を晒したヒースが逃げずにこの場にきて、頑張ろうとした。そして、今ある現状で満足してない。
普通であれば逃げ出しているだろう。正しかろうが、命の危機を身を持って体感した後、それに立ち向かえる者など、そう居るモノではない。
なにせ、仲の良い友達に「お前など嫌いだ、絶交だ!」と顔を真っ赤にして唾を飛ばす勢いで怒鳴られて、それでも付き合いをしていきたい、頭を下げに行ける者がどれくらいいるだろう?
口で行ける、という者は多いだろうが、適当な理由を付けて「自分は悪くない」「友達はアイツだけじゃない」と逃げる者の方が多い。
命が関わらない事ですら難しいのに、ヒースはそれを乗り越えて、ここにいる。
テツは、結果ではなく過程に意味がある事を知っているので落ち込むヒースに何かを言おうとするがそれは叶わなくなる。
土の邪精霊獣からテツが飛び出した事で土埃が舞って視界が悪くなってた場所から突風が起きたかのようにホーラ達に襲いかかる。
「いきなり何事さ!」
そう唾棄するように叫ぶホーラの視界にゴロゴロと転がるようにやってくるティリティアを見つける。
転がりくるティリティアを足で踏むようにして止めるホーラが質問する。
「何がどうなってるさ!?」
「私、これでも土の精霊なんですけど、もうちょっとマシな確保の仕方あるでしょ?」
拗ねるように唇を尖らせるティリティアであったがすぐにどうでも良さそうな顔になると寝ようとする。
それにイラッとした表情を浮かべたホーラが更に強く踏む。
「いいから説明するさ!」
「痛い、痛い! 分かったから!」
寝るのを諦めたと判断したホーラが踏む力を調整すると「どけて?」と言ってくるティリティアを無視して話を促す。
シクシクと泣き真似をするティリティアだったが少し踏む力を加えられた瞬間に話し始める。
「乱暴ねえ? 起きたみたいよ」
「何がさ?」
そう問いかけるホーラも聞かなくても答えに行き着く。行き着いていない者がいないと言うのが正しい。
「3年前にユウイチちゃんが倒したおかげで内側からの攻撃に弱かったみたいでテツ君の攻撃で土の邪精霊獣は倒されたんだけど、それがキッカケかな、起きた『ホウライ』が」
ティリティアがそう言うのを待っていたかのように土煙が消し飛ぶようにして視界がクリアになると目を覚ました『ホウライ』がこちらを見ていた。
それを見たホーラ達は飛び退くようにして身構える。
テツも立とうとするがアリアに抱き抱えられて後方へと引きずられる。
「駄目、テツ兄さんはこれ以上無理すると本当に危ない」
立ち上がろうとするテツを必死に止まらせようとするアリアを援護するようにホーラも言う。
「寝てな、下手に動かれて射線上に入られたら面倒さ」
「……分かりました」
泣きそうなアリアとホーラの言葉に載せられる労わりを感じるテツは飲み込んで大人しくする事を決める。
身構えるホーラ達を脅威どころか岩やモニュメントを眺める程度にしか感じてないように辺りを見渡す。
「ふむ、土の邪精霊獣を殺せるような実力者はいなさそうだが、まあ、いい。目を覚ました目の前にお前、アリアが居たのは嬉しい誤算だ」
そう言うとニヤァと笑う『ホウライ』が一歩前に出るのを見たアリアはテツを強く抱き締める。
「「お父さん」」
アリアに視線を固定していた事もあるが、『ホウライ』に視野外にされていたレイアとヒースが叫ぶ。
鬱陶しげにチラリと視線をやる『ホウライ』だったが、すぐに二度見する。
「そうか、土の邪精霊獣を屠ったのはソレか!」
アリアの方向から体ごとレイアとヒースに向ける『ホウライ』が放つ殺気に2人は硬直する。
「レイア、ヒース、逃げるんだっ!」
危険を感じたテツが大声で避難を訴えるが硬直が解けただけでテツの声を起点にしたように飛び出してきた『ホウライ』から逃げれるように見えなかった。
「間に合え!」
「ちっ!」
慌ててはいたが、咄嗟に反応したホーラとダンテが『ホウライ』に攻撃を放つ。
ホーラは短剣を投げて爆発させ、ダンテが水球を同時に放ってしまった事で威力が減退させて『ホウライ』に眉を寄せさせるぐらいにしか効果がなかった。
そして、いつの間に忍び寄ったか誰も気付かなかったが、その反対側からミュウが飛び出して斬りかかる。
「がぅがぅ、があぁぁ!!」
斬りかかるに合わせて遠吠えを加えるが、煩わしいとばかりに右腕で薙ぎ払われ、吹き飛ばされるミュウ。
ミュウが稼いでくれた時間で逃げる動作に入れた2人であったが速度に違いがあり過ぎて、ヒースは『ホウライ』に掴まりそうになる。
それを見たレイアがヒースの肩を蹴っ飛ばして逃がすと逆にレイアが捕まり、『ホウライ』に首を掴まれる。
「邪魔をするか、レイア。言ったはずだ。お前はいらん!」
拳を振り被る『ホウライ』であったが、一瞬の躊躇と泣きそうな表情が見えた気がしたがすぐに無価値なものを見つめる目になると振り下ろそうとするのを青きオーラの塊がぶつかり、レイアを掴んだままの『ホウライ』を吹き飛ばす。
「テツ兄さん、駄目!」
そう、間に入ったのは血だらけで今の動きでまた傷口が開いたテツであった。
溢れるような血を流すテツは荒い息を吐きながらアリアを見つめる。
「こちらこそ駄目だよ、アリア。自分がどうなってもレイアを守るつもりだったんだろう? 兄である俺が容認しないよ」
微笑むテツを凝視する『ホウライ』は「なるほど、こいつなら土の邪精霊獣にも対抗出来たかもしれん」と危険人物として見つめる。
覚束ない足取りでレイアに蹴られて放心気味に立ちあがるヒースの下に向かう。
「て、テツさん……」
負け犬のような目を向けるヒースにテツは梓の鞘で強く殴りつける。
口の端から血を流すヒースを強い瞳で睨むテツが言う。
「目の前の男が例え、本物の父親だろうが、偽者だろうが、女に助けられても奮い立てないのはクズだ! 俺が道を作ってやる。男なら口でなく、行動で示してみろ!」
何かを言おうとするヒースであったが、『ホウライ』に首を持たれて苦しそうにするレイアを見つめた。
そして、自分の中で何かが灯るのを感じたヒースにザバダックが「坊っちゃん!」と呼ばれ見つめる。
「ご主人は、ここでヘタれる事を決して許さん」
「うん!」
梓を構えるテツの背後に立つヒースにテツが話しかける。
「行けるか?」
「はい、いつでも!」
身を低くして弓が矢を放つように前傾姿勢になったテツが飛び出し、それに続くようにヒースは見えない剣を握り締めて飛び出した。
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