29話 とりあえず棚上げして、テツの下へと急ぐのですぅ
扉の前で座り込んでたダンテ達に悲劇が起きる。
それは突然に開かれた扉から弾き出されるようにして現れたアリアとレイアが気付けば目の前に迫っていた為である。
「がぅ!」
扉が開く前から野生のカンか、腰を浮かせ始めていたミュウはギリギリ脱出する。
スゥとダンテとヒースは当然のように逃げれなかったが飛び出してきた2人、アリアはダンテに激突し、レイアはヒースに激突したおかげでスゥは無事に済んで胸を撫で下ろす。
運があるのかないのか分からないダンテとヒースは2人に巻き込まれて転がり、最終的に双子にマウントを取られる形で止まる。
ダンテとヒースは咄嗟とは言え、抱き抱えると2人を庇うようにキャッチしたが、さすがに自分達のフォローまで手が回らなくてしこたま頭を打っていた。
「いたた……アリア、どいてよ、重いよ!?」
頭を摩るダンテが馬乗りになっているアリアが意識がはっきりしてるのを確認後、さらりと言ってのける。
幼い頃より一緒に生活してたアリアに馬乗りになられたぐらいで照れるダンテではないが、それが今回の不幸を生んだ。
「うごっ、な、何をするのアリア!?」
「ダンテが言ってる意味が分からない? 重いって何?」
ゴス、ゴスと鈍い音を静かに響かせる拳をマウント状態でダンテを殴り始める。
アリアは力もあるが、感情に乏しい表情で淡々とやってくる行動がダンテの心を削る。
必死に腕を交差して耐えるダンテは失策に気付き、フォローを入れる。
「ごめん、間違った! 見た目より軽くて驚いたぁ!」
「いつもはどれくらい重いと思ってた?」
ゴス、ゴスゴスとテンポが上がるのにダンテはフォローしたつもりが煽った事に気付き、絶望する。
自分では打開出来ないと親友に助けを求めようと隣を見たダンテは呟く。
「駄目だ、ヒースには頼れない。というより、早く脱して助けないと!!」
ダンテが見つめる先では顔を真っ赤にさせて目がグルグル回らせてるレイアがヒースに馬乗りになってラッシュを放ってる姿があった。
難しく考えなくともレイアがヒースに上に跨ってる事に気付いた瞬間、心の許容がオーバーしたのだろうと容易に理解できた。
ヒースの傍にヒースの世話係だったザバダックがいたので自分が脱出できるまで時間を稼いで貰おうと思ったが呟いている内容を聞いて諦める。
「若き頃の主人と奥さんの姿を見てるようだ……」
ヒースに2人は幼馴染で結婚したとは聞いていたが、まさか、自分達の頃、こんな事が日常にあっても不思議じゃない関係だとは思ってもなかった。
あんな強面のヒースの父親、ノースランドの知られざる過去を聞いたのはどうやらダンテのみだったようだ。
傍に居るレイアはテンパリ中でヒースは意識が飛びかけているからであった。
目頭に浮かぶ涙を拭い、懐かしいモノを見るようにするザバダックは使えないと分かったダンテは一定のリズムで殴り続けるアリアに声をかけようとするが徒労に終わる。
「いい加減にするの!」
アリアとレイアの間に入ったスゥが馬乗り状態になってるを景気付けと言わんばかりに力一杯押し退けると2,3回転転がる2人。
「あ、有難う、スゥ」
「もう! ダンテも一言多いの!」
眉尻を上げるスゥに素直に謝るダンテ。
転がりから立ち上がったアリアは拗ね気味の表情をし、レイアは飛んでた精神が戻ったようにハッとした表情を見せる。
2人が話せる状態に戻ったのを見計らったホーラが肩に手を添えて首を廻しながら聞いてくる。
「で、どうさ? 処置室とやらに入って1日が経ってるけど異常はないさ?」
ホーラにそう問われて「処置室?」とバッチリ息を慌てた2人が返事をする。
そして、お互いの顔を見合わせた瞬間、中での事を思い出した2人は出てきた扉に特攻する。
飛び込もうとするが触れず、押す事も出来ない壁の絵のようになってしまっている扉を2人は叩く。
振り返って、一番後ろにいたマサムネに怒鳴るように言う。
「扉を開けて、私達はまだ見たいモノがあった!」
「そう、お母さんが!?」
2人の言葉を聞いたマサムネは返事をせずにアリアとレイアに近寄り、ジロジロ見つめて何かに気付いて納得したように掌にポンとする。
「なるほど、君達はこの世界の生まれじゃないんだね? 確かにそういう子は時折、能力開発じゃない出来事が起こるケースはあったね?」
そう言われてアリアとレイアは驚くが、驚いたのは何も2人だけじゃない。
ホーラ達も同じように驚く。
驚くアリアとレイアに少し申し訳なさそうにするマサムネは告げる。
「残念ながら、効果があろうがなかろうが土のエネルギーで魂を加圧したから、2度は入れない」
アリアとレイアは悔しそうに拳を握り締めて俯く。
驚きから回復したダンテが2人に何か聞きたそうにするのが、ホーラが先に口を開く。
「まあ、色々と聞きたい事はあるだろうさ。それはアタイも同じだけど、いつまでもテツを放置出来ないさ。話は移動しながら……いいね?」
アリア達の事も気になるがテツの方が緊急性があると伝えるホーラに反論する者はいなかった。
ホーラはマサムネに振り返るとペコリを頭を下げる。
「バタバタで申し訳ないけど、アタイ等は行くさ。色々、やりっぱなしで悪いとは思ってるさ」
「まあ、ノンビリできる状況ではなさそうだからね。でも気を付けなよ? 畏怖に耐性を持ったからといっても土の邪精霊獣は間違いなく強敵だ」
ホーラに倣うように頭を下げる子供達の中でみんなに遅れて歩く双子が落ち込んでいるのを見てマサムネが告げる。
「確証はないけど、時間があれば他の属性の処置室を訪ねるといいよ。もしかしたら、君達が見たいと思っているモノが見れるかもしれない」
その言葉に弾けるように顔を上げるアリアとレイアは顔を見合わせた後、マサムネに「有難う!」と告げ、出口で待っているホーラ達と合流するのを見送るマサムネ。
立体映像なのに器用に溜息を吐いてみせるマサムネは壁抜けや転送したらすぐなのに無駄にホーラ達が出ていった道を辿るようにしてゆっくりと元の場所へと進む。
「今まで、あの子達のように見た子達は何かしら大きな運命を背負っていたけど、あの子達は違ったらいいよね。運命を欲しがる馬鹿はたまにいるけど、あんなの無いに越した事ないしね」
マサムネはそういう子達が苦しみ、泣きたくなるような想いをしてる姿を知っていたので運命なんて良い事があった時の理由付けぐらいでいい、という持論であった。
「何をともあれ、あの子達の行く道に幸あれ、だね。……ん?」
漸く、元の場所に戻ったマサムネは目の前にあるものを認識できずに瞬きをした後に自分の機能スキャンを一瞬で済ませる。
済ました結果、どこにも異常がない事を知り、目の前のモノが本当にあると判断すると地下50階へと続く扉に向かって叫ぶ。
「おお――い! 大きな忘れ物があるよ! 戻って来てぇ!!」
そう叫ぶマサムネの後ろではイーリンとアンがスヤスヤと眠っている。
寝返りを打つ2人の目覚めは近い、マサムネは必死であった。
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