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27話 たけのこの里じゃなくて、隠れ里みたいですぅ

 逆さに氷柱が立っているような岩山が乱立する中を見渡しながら歩く双子、アリアとレイアがいた。


 『試練の洞窟』でマサムネが言うところの処置室に入ったはずの2人が目を覚ませば明らかに今まで来た事のない場所にいた。


 こんな訳の分からない場所にいつまでも居てられないと思う気持ちはあれど、ここがどこかも分からないと戻り方も分からない2人は、とりあえず、いくつかの煙が上がる場所、人が生活してそうという考えで向かっていた。


 喉に魚の小骨を引っかけたような顔をするレイアは獣道を歩きながら辺りを見渡し呟く。


「なんかさ、初めて見たはずなのに見た事ある気がするんだよな……アリアは知らない?」


 忘れてるだけなのかな? と頭を掻くレイアを見ずに真っ直ぐ見つめるアリアは小さく被り振る。


「ん、知らない。でもレイアの気持ちも分からなくない……どこか懐かしい気分になる」


 ボゥとしてるように見えるが記憶を辿るように遠い目をするアリア。


 余計に分からなくなったとばかりに溜息を吐くレイアはぼやくように言う。


「人に会ったら、ここがどこか聞いてから考えるか……アタシ等にはここがどこか分からないのに答えなんか出ないしな」


 レイアの言葉にアリアは頷き、それから2人は無口になり、辺りを見渡しながら煙が上がる先を目指して歩き出した。





 しばらく歩くと急にアリアがレイアの進路を塞ぐように腕を広げる。


 それに、つんのめるレイアは進路を邪魔したアリアに噛みつこうとする前にアリアが口を開く。


「レイア、ここは普通の村じゃないかもしれない」

「何するんだよ、って、はぁ? なんでそう思うんだよ?」


 アリアが黙って指差す方向には岩肌に覆われた一か所に自然に出来たと思えない積み方をし、壁を作るようにして道を隠すようにして作られている。


 分かりやすく言えば、教習所のコースのクランクを繰り返すようにして入り組ませて奥を見えないようにしている。


 しかも、遠目に見れば岩肌が続いているように見える。


 作りは理解したらしいレイアであったが、それが何が問題か分かってない様子に溜息を吐く。


「今、私達が歩いた道は街道じゃない。獣道と言って差し支えなかった。そこを通りやってきたら作為的に置かれた岩で中が見えないようにされてる」

「それで?」


 とことん頭を使うのが苦手とする妹に呆れる姉アリアは根気よく説明を続ける。


「私達は煙が上がるのを見たから、こっちの方向に何かあると思ってたから通り道を目で探した。でも知らなければ、行き止まりと思ったかもしれない作りが気になる」


 アリアの説明を聞いてもイマイチ理解してないような顔をするレイアはとりあえず答える。


「ここが裏口だとか、外敵から身を守るとかじゃねぇ?」

「裏口かもしれない。でも……そこまで考えに至っても分からないのは……」


 アリアはレイアの残念さに嘆くように片手で目を覆うようにする。


 そこまで残念がられてる事に目を白黒させるレイア。


 呆れるのを後廻しにするように辺りを見渡し始め、丁度良いと判断した、ちょっとした丘を見つけたアリアが指差す。


「多分、あそこからだったら中が見えるはず。良く分からない場所だから確認していく」

「あ、うん、分かった!」


 そう言うとすぐに行動を始めるレイアの背中を見つめるアリアは溜息を吐く。


「行動が早いのは良い点。でも考える事をしないのは不味い。外敵から身を守ると分かってるのにどうして気付かない……」


 あの作りをしても獣やモンスターにはあまり効果がない。


 あんな事をするぐらいなら木で作られた砦のようにした方が丈夫で耐えれるし、できるなら岩でやれば更に良い。


 だが、それをするとこの奥に何かありますよ、と告知する事と同じである。


 だとすると、おそらく対象は人。


 それも山賊類ではなく、誰にも知られたくないという意味で、という事で……


「私の考え過ぎかもしれない。でも……」


 レイアに頭を使う方向で口を酸っぱくしても鍛えれば良かったかも、と姉として責任を感じ始めたアリアはもう一度溜息を吐くとレイアを追いかけて丘を目指した。





 丘に辿りついた2人は大きな木がある場所から中を見渡す。


 レイアは目が良いがアリアは人並みなので、魔法で強化して見つめる。


「うーん、入口はさっきの所しかないぽいな……」

「ん、全方位、岩肌に囲まれるようにして村を形成、まるで……隠れ里」


 家の数も20あるかどうか、おそらく200人もいない村があり、隠れるように住むのを見て、アリアの疑惑は深まる。


 情報は欲しいが、ここに入るのは危険かもしれないと悩むアリアだが、レイアは呑気に「人がいるみたいだから話を聞きにいこう」と言う、お馬鹿さんに頭を痛める。


 2人が村を見つめていると背後から猪が駆けてくるのに気付き、身を硬くする。


 だが、猪を追うようにして飛んできた矢が猪の後頭部に突き刺さると動きが緩慢になった猪が2人の前に来たあたりで倒れる。


「よし! 仕留めた!」


 そんな嬉しそうな声と共に草むらから1人の青年が姿を現す。


 弓を背中にかけて、ナイフを取り出して猪に近寄る青年にアリアは警戒するが相手にされずに猪を腰にあったロープで目の前の大きな木に吊るして血抜きを始める。


 噴き出す血を避けるようにして飛ぶ青年は背後にいるアリアとレイアの方に向かい、2人の間を通り過ぎるようにして村がある方向を見つめて独り言を呟く。


「今日は成人の儀だから、獲物獲れなかったどうしようかと思ったが、獲れて良かった……これで面目が立つな」


 そう言うと「あっ、内臓の処理がまだだった!」と慌てた顔をする青年が吊るした猪の解体を始める。


 解体処理をする青年にレイアが声をかける。


「兄ちゃん、ちょっといい? 聞きたい事があるんだけど!」


 何の警戒も、現状をおかしいと気付いてないレイアが問いかけるがアリアは止めもせずに見守る。


 だが、青年はまるで聞こえてないかのように解体を鼻歌交じりにしていくのを見て眉尻を上げるレイアが声を荒立てる。


「無視するなよ! 兄ちゃん!」

「レイア、無駄」


 確信を得たとばかりに言うアリアはレイアを止めるが、レイアは青年を掴もうとする。


「あれっ!?」


 掴もうとしたのにそれをすり抜けるようにつんのめるレイアはたたら踏む。


 何が起きてるか分からないとクエスチョンマークを浮かべるレイアに嘆息を吐きながら答える。


「これは、おそらく記録、もしくは、誰かの記憶を私達は見せられてる。だから、お兄さんは私達を認識出来ない」

「マジかよ!」


 そう言うレイアは目の前の青年を再び掴もうとするが掴めずに眉を寄せて唸る。


 唸るレイアが隣にある木に触ると触れられているのを見て、干渉出来る物はあるようだと思うが、落ち着いて考えれば、地面を蹴る事が出来てる時点で触れれる物があるのは道理である。


「この辺の定義は良く分からないけど……」


 アリアは丘から見える村、おそらく隠れ里を見下ろし、レイアに告げる。


「なんとなく、あそこに答えがある気がする。行こう、レイア」

「おうっ!」


 頷き合う2人は先程の入口を目指して駆け降り始めた。

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