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37話 祭と旅行は準備が一番、浮かれます

 疲れてるせいか、眠くなる時間が早くて、大変っす(;一_一)

 雄一は、テツを連れて市場を練り歩いていた。


 歩く足を止め、立ち止まった露店のリンゴを片手に持ち、吟味しているとテツに話しかけられる。


「ユウイチさん? さっきほどから余り日持ちしないモノをメインに買われているようですが、大丈夫なのですか? 保存食などを買われてませんが?」

「ん? ああ、アクアがいるから、そこまで気にする必要はないぞ? 非常食程度は買おうとは思ってるがな」


 雄一がなんでもないように言うのを聞いて、テツが首を傾げながら聞いてくる。


「3日ほどですし、日中もそれほど暖かくならないとはいえ、凍らせないようにして、品質を維持する魔力が出せるものなんですか?」

「アクアは、水の精だからな……それぐらい朝飯前だろ?」


 雄一の言葉を聞いて、キョトンとした顔を見せると笑いだすテツ。


「ユウイチさんは、真顔で面白い事言われるから、びっくりしたじゃないですか。6属性ある精で姿が人に近いのは、トップの各属性に1人ずつって聞いてますよ? こんなとこにいるような変わり者の精霊はいないでしょ?」


 実際に変わり者の精霊がいるんだが……と言いかけるが、ある事に気付く。


 テツの様子を見て、ああ、なるほど、と納得した事があった。


 シホーヌが時折、自分が女神であると口にするが、一向に誰も驚いたりしないと不思議に思っていたが、みんなは、「残念な子が言っちゃってるよ……」ぐらいにしか思ってないという事実に行き当たった。


 そういえば、アクアもホーラに水の精霊だと胸を張って言ってる場面に遭遇した事があったが、「へぇー」と言われて終わっていたのを目撃した事があった。


 もしかしたら、アリアとレイアですら、シホーヌの事を不思議な事ができる人ぐらいにしか思ってなかったらと思うと胸が締め付けられる思いである。


「それにしても、アクアさんって普段の様子からは想像できませんけど、凄い魔法使いなんですね?」


 雄一は、テツに気付かれないように2人の為に、嗚咽と涙を洩らした。


「水の精霊ですか……どうせなら、女神様とかにも会ってみたいですね?」


 どっちも毎日会ってるよ、と伝えてやりたいが、どうやったらそれを信じさせるという術が雄一にはなかったので、両手で顔を覆って必死に嗚咽を飲み込む。


 雄一の様子に気付いたテツが声をかけてくる。


「どうしたんですか? 雄一さん?」

「いやー、現実って残酷だなってな?」


 雄一は、真実を伝えられたとして、テツや、家の子にとって、シホーヌはシホーヌでしかなく、アクアもアクアでしかないのだろうと、割り切る事にした。


 決して、放り投げた訳ではない。


 そんな事実は闇に葬ったからと雄一はなかったことにした。


「まあ、とりあえず冷蔵保存はアクアに任せれば問題ないぞ?」

「じゃ、気にせずに買えますね」


 そう言って見ていたリンゴを10個ほど詰めて貰う雄一が銅貨を払うと物騒な声が聞こえてくる。


「こんの泥棒がぁ!! 待ちやがれ、このクソガキっ!」


 雄一達は、声がする先に視線を向ける。


 視線の先には、みすぼらしい格好の幼い子が何やら抱えて逃げる姿が見え、それを追いかける頭髪が薄くなり始めている肉屋のオッサンが追いかけている。


 だが、既に息切れを始めていて逃げられそうである。


 その光景をテツは、悲しそうに見つめる。


 そんなテツの姿を見た雄一はリンゴの入っている紙袋を手渡す。


 すると不思議そうに雄一をテツは見上げてくるのに口の端を上げ、笑みを作る雄一は目を優しげに目を細める。


「テツ、お昼の訓練の時間だ。逃げてる子を追いかけて取って逃げた物を奪還して、そのリンゴを渡す訓練だ。行ってこい」

「はいっ! いってきます!!」


 嬉しそうに駆けるテツの後ろ姿を見送り、溜息を吐く。


「これじゃ、駄目だよな……」


 これでは、何も変わらないと雄一は思う。


 どうして、そんな事を考えているかと言うと今朝の冒険者ギルドに行った時、入口ですれ違った少年達を見つめるホーラが見せた後ろめたそうな表情が実はずっと前から気になっていた。


 そう、これが初めてではなかった。


 街を歩いていると時折見つけるストリートチルドレンと思われる子供達を見つけると唇を噛み締めるホーラを見た事も1度や2度じゃない。


 ホーラは、同じストリートチルドレンに負い目を感じていると雄一は見て判断していた。


 きっと、あの優しい少女は自分だけ救われたと考え、小さな胸を痛めているようだと。


 勿論、全てのストリートチルドレンを救う事など出来ない事は、ホーラとて、良く理解しているだろう。


 でも、何かできる事はないか? どうしたらいいか? と悩み続けているのではないだろうか? と雄一は、そんなホーラを見る度に思っていた。


 雄一はホーラの手を取った。


 そして、最後まで面倒を見ると誓ったのは自分だと雄一は考える。


 ここは自分の出番だと、雄一はテツの帰りを待ちながら方向性だけでも見出したいと考え続けた。





 テツが雄一の言い付け通りに事を済ませてくると店主に盗まれた肉を返却する。

 店主に感謝されたが少しも気持ちが晴れないまま雄一達は、旅の準備を終えて帰宅した。


 そろそろ空がアカネ色になりそうな気配がする頃に帰った2人は樽を井戸まで運び、テツに井戸水を汲むように指示ずる。


 そして、雄一は夕食の準備をする為に勝手口から入ろうとしたら、玄関の方から楽しそうな声がするので、勝手口から入らずに玄関に廻る。


 すると、買い物、お菓子を買いに行って帰ったと思われる6人がそこにいた。


 ミュウは別れた時のままのテンションを維持しており、はしゃぎ、無駄な動きをしながら4人の周りを走っていると前方から雄一が来た事に気付いて雄一の下へ走り、よじ登ると定位置にドッキングした。


「ユーイ! ミュウ、お菓子、一杯買ってきたっ!」


 ガゥガゥと嬉しそうに言いながら雄一の頭に抱き付き、頭を甘噛みをしてくる。


「がぅ、お菓子食べるのユーイと一緒するぅ!」

「おぅ、ありがとうな?」


 ミュウを撫でながら礼を言うと足下でアリアがズボンを引っ張って見つめる。


「アリアも一緒に食べような?」


 雄一がそういうと目を細めて、口許を緩ませたアリアが頷いてくる。


 アリアを抱き抱えて残る4人に近づいていくと大きめの紙袋を抱えるシホーヌとアクアとホーラに呆れた顔をしてるつもりのようだが口許が緩んでるレイアが雄一を見つめていた。


 そんなレイアに笑みを全開で振り撒き、手を振るがそっぽ向かれて項垂れながら浮かれる3人に声をかける。


「結構、買ったな? 3日間で食べるにしても、ちょっと多くないか?」

「大丈夫なのですぅ! お菓子を片手に話し出したら食べる手も話す口も止まらないのが女の子なのですぅ!」


 否定しようとした雄一だったが、そうなのかな? と思う気持ちが邪魔して黙り込んでしまう。


 それは、まあいい、と割り切り、違う事を口にする。


「こっちの食糧関係は揃ったけど、そっちも滞りないか?」

「ええ、ドライフルーツもビスケットも各種、押さえてあります」


 澄ました顔をしたアクアが雄一に答えるが、その答えに一抹の不安を覚える。


「お前ら2人と俺とテツはどうでもいいだろうが、4人の替えの服と下着などは買ったか?」


 シホーヌとアクアの顔を、ピキンと音が聞こえそうな固まり方をする。


 少し、頬を染めながら、あっ! と声を洩らすホーラの姿もそこにあった。


「ソファとか贅沢は言えないが、クッションとか、尻の下に敷く物を用意しないと泣きを見ると思うんだが……勿論、その紙袋に入ってるか、既に家の中だよな?」


 半眼で見つめる雄一の視線から逃げようとするように空を見つめる2人と頬を掻くホーラ。


 雄一は、アリアを地面に降ろし、空を見つめる2人の肌の調子を見るような距離から見つめ、汗を掻く2人に聞く。


「まさか、菓子しか買ってきてない……て言わないよな?」


 プルプル震える2人は、息を合わせたかのように雄一を見つめる。


 どこのケーキ屋のマスコット人形かと聞きたくなるような顔を揃ってすると持っていた紙袋を雄一に押し付ける。


「「すぐに買ってきますぅ!!」」


 脱兎の如く、2人は雄一に背を見せて走っていく。


 残されたホーラが困った顔をしながら、2人に倣って紙袋を雄一に渡す。


「アタイもだいぶ浮かれたぽいさ。急いで買ってくるから……」


 その困った顔をしながら両手を合わせて謝るホーラを見つめて溜息を零す。


「しゃーないな……夕飯は少し遅らせるから、ちゃんとしたの買ってこいよ?」


 溜息1つで許してくれた雄一にホーラは感謝を告げると2人を追いかけて、走っていった。


 残された3人に雄一は声をかける。


「夕食は少し遅れるから……テツの井戸の水汲みを手伝って手早く終わらせて5人で少し遊ぶか?」


 喜ぶ2人と仕方がないな、という顔をしつつも1人で走って井戸のほうに向かうレイアの後ろ姿を見つめて頬笑みを浮かべる。


 そして、5人で陽が沈むまで鬼ごっこをして楽しんだ。





 遊び終え、夕食の準備を始める事にする。


 夕飯は、朝の仕込みで寝かせていたヨーグルトに漬けていた鮭を使ったカツを作る事にする。


 作り方は、トンカツを作る方法と一緒でソースをトンカツソース、醤油、タルタルソースを用意すると終わりである。


 今回の肝となるは魚の臭みをどうやって嫌いな者に誤魔化せるかが勝負の分け目である。


 雄一は、主夫業1カ月ほどであるが、連戦連勝の実績が雄一を支える自信となり、不敵な笑みを見せる。


 きっと、アクアはこれを食べると……


 帰ってきた3人に、すぐに食事にすると伝え、食卓に着き、嬉しそうにカツを見つめるアクアに、「それは鮭」だと告知する。


「主様っ! 私は食べないと言ったはずです!」

「そうか、どうしても食べたくないなら、店で買ってきたクルミパンでも食べてくれ。だが、クルミパンを食べたら、お前のカツは俺が引き取るからな?」


 笑みを見せる雄一を見てアクアは首を傾げる。


 きっと怒ってくると思っていたのに、譲歩されただけでなくアクアの好きなクルミパンを差し出されて警戒した様子を見せる。


 警戒しつつ、クルミパンを受け取るが揚げられたカツから漂う匂いに心惹かれるようでゴクリと生唾を飲み込むアクア。


「さあ、他のみんなは食べよう。いただきます!」



 そして、雄一の不敗神話は更新されたらしい。

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       雄一の孫の世代             こちら亜人ちゃん互助会~急募:男性ファミリー~  どちらも良かったら読んでみてね? 小説家になろう 勝手にランキング
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