278話 火中のクリを拾う者、飛び込む者らしいです
アリア達がペーシア王国へ出る商隊の護衛として早朝に出発した。
その出発の時にも一悶着があり、雄一が暴れるという惨事が起こりかけたが、学校で寝起きする子供達が雄一に挑んだ。
アリア達の旅立ちを祝うつもりもあったが、子供達が兄と慕うテツが一方的に雄一にやられたのを昨晩見た子供達が判官贔屓よろしく、と敵討ちに討って出た。
ワラワラと雄一にしがみ付き元気の良い子はよじ登ると雄一を転ばせる。
「ユウイチ父さんが転んだぞ! フォーメーションAだぁ!」
そう言うと組み体操で見られるピラミッドを雄一を下敷きにするようにして形成する。
ここに雄一の墓石が完成した。
子供達が上に居る為に振り払えない雄一はアリア達に涙を流しながらカムバックを訴えるが普通に「いってきます」される。
真っ白になった雄一が見送るなか、子供ピラミッドの下敷きにされる横にルーニュが工事現場の人のような格好で現れる。
『親馬鹿、ここに死す』
という立て看板を杭で打つといい仕事をしたとばかりに額の汗を拭い、去って行った。
などと早朝にあった午前中、テツは旅支度をしていた。
別にアリア達と一緒に出ても良かったのだが、出る前に済ませて欲しいという仕事をリホウに泣き付かれて早朝の内にホーラ達と3人で済ましていた為であった。
アリア達は商隊と身軽に馬車1台で走れるテツ達ならば、急がなくても今日中には合流できる目算もあったのでゆっくりと準備をしていた。
ホーラ達は足りないモノがあるとかで3人で市場へと出かけていたので、テツはみんなで共有する準備、調理道具や食糧などを借りてきた馬車に載せる為に倉庫へと向かっていた。
倉庫に向かう為に女の子が寝起きする建屋の横を通り過ぎようとした時、ルーニュに引きずられるアイナの姿を発見する。
2人とも大きいTシャツをパジャマ代わりにしているようでズルズルと引きずられるアイナなど色気も何もない白いパンツもお腹も見せているが気にした様子もなく寝ぼけ眼をテツに向けると手を上げてくる。
「やぁ、テツちゃん」
「おはようございます、アイナさん」
下着を露出させるアイナを見ても普通の様子のテツは挨拶を交わす。
さすがに三頭身バージョンのアイナに恥ずかしさを覚えないようであった。
「ん? テツちゃんどこか行くの?」
テツが食糧などを入れる大きな袋を持ってるのを見てアイナが聞いてくる。
「ええ、ユウイチさんに頼まれてしばらくペーシア王国に行ってきます」
「へぇ~ペーシア王国にねぇ~。あっ、そうだ、ペーシア王国に行くなら1つ頼まれてくれない?」
思い出した、と言わんばかりに目を大きく開き、といっても相変わらず眠そうに目をトロンとはさせているが少しだけ目を覚ましたような顔をする。
テツは何だろう? と首を傾げながらも快く了承して何をしたらいいか聞く。
「2年前にテツちゃん達に宝玉を運んで貰ったでしょ? 今、どうなってるか見てきて欲しいかな?」
「何か問題が発生したのですか?」
ティリティアから受け取った小さいが土の宝玉をペーシア王国の地盤沈下を止める為ににテツ達が地下に持って行った。
もし、あれに何か問題があれば、その危機の再来を意味するのでテツが緩んだ瞳を鋭くする。
テツに見つめられたアイナは相変わらず緩んだ瞳でヒラヒラと手を振ってみせる。
「多分、そんな大袈裟な事ない、ない。土の宝玉が機能してる限り、害為せる相手がいないかな? 勿論、力づくでなんとかできるけど、したら私は勿論、ユウイチちゃんも気付くしね?」
だから、大丈夫、ティリティアがサボってない限り、と言うのを後付けされたテツは力強く頷く。
「必ず確認しておきます!」
アイナ同様、怠惰の象徴のようなティリティアがサボらない可能性を考えると頭が痛い。
以前のやり取りからして部下に丸投げのような事を言ってたティリティアならば有り得る話であった。
「じゃあ、お願いねぇ?」
そう言うと再び、ルーニュに引っ張られて食堂の方へと姿を消す。
起きたところのようだが、寝る為に食事に行った2人の自由さにテツは苦笑を浮かべて倉庫を目指して歩く。
アイナに頼まれた事がキッカケにテツは、アリア達の様子を見るだけで暇を持て余しそうだと思っていたが、意外と暇はないかもしれない予感を感じてぼやく。
「これはダンガに居た方が平穏だったという暗示じゃないといいんだけど?」
雲一つない青空を眺めながら深い溜息を吐いた。
▼
商隊の馬車の1つの荷台の後ろにアリア達の姿があった。
意気揚々の出発をしたアリア達だったが、街が見えなくなった現在では静かであった。
荷台の後ろの縁で腰掛けるようにしてたアリアとレイアが呼吸を合わせたかのように振り返り、静かになってる要因のダンテとミュウを見つめる。
ダンガを出る時に知ったある事が原因でそれまで修学旅行に行く子供の駅のホーム状態の賑やかさであったが一気にお葬式状態になっていた。
2人して頭を抱えて何も言わなくなったので質問し辛いアリア達であったが、スゥが目配せしてヒースをけしかける。
内心、気心知れたアリア達がするべきではないのか、とは思ったがここで泣き事を言って男気を下げる、主にアリアの好感度を下げるのは避けたいヒースは意を決して問いかける。
「どうしたの? ちょっと前まで元気だったのに……こう言ったらなんだけど、ミュウが頭を抱えて悩むなんて想像もした事ないんだけど?」
「ディータ、来る」
ヒースに問いかけられたミュウはボソっと声を洩らす。
えっ? と聞き返すヒースはディータという名前に心当たりがなくてアリア達を見つめる。
その視線にレイアが応える。
「ディータというのはダンテの実の姉。ダンガを出る時に買い物帰りのエルフが声をかけてきただろ? あれがディータ」
「ああ、あの美人でスタイルのいい人がダンテのお姉さん? 確か、『後からホーラ達と一緒に後を追います』って言ってたから一緒に来るの?」
ヒースがダンテに羨望の眼差しを送るのを見てレイアは舌打ちをするが、今回のヒースの羨望の眼差しは他人に自慢できる兄弟、姉妹がいる事に対するものからきている。
なにせ、ヒースの兄弟はダメダメでできる限り他人様に知られたくはないからであった。
「いいな、ダンテは?」
「確かに姉さんは自慢できるところもあるけど……駄目な人なんだ。そのぉ、ホーラさんより手加減を知らないのが物凄く危ない」
何かを思い出すように震えるダンテを見て、やっと分かったとばかりにスゥが嘆息すると代わりに説明してくれる。
「凄く腕が立つ人なの。多分、私達が全員で挑んでも圧倒されると思う。だけど戦闘力が問題な訳じゃないの……こう、と思うと簡単に考えを変えない、特にユウ様が私達に空を飛ぶ方法を教えたと冗談で言っても信じて私達が何を言おうが崖から蹴落としかねない人なの」
「冗談だよね?」
「いや、マジマジ、ダンテが水の加護を受けたと聞いたディータがアイツと同じ事ができると信じて滝壺に放り込まれた事があるから」
水の加護を受けた当時5歳のダンテは嬉しくてしょうがないと笑みを弾けさせる姉ディータに必死に思い留まらせようと奮闘したが放り込まれた恐怖が蘇ったのか顔を青くして震える。
ちなみにたまたま近くを散歩してたシホーヌとアクアが発見してアクアが救出して恐怖を刻み込まれただけで命には別条はなかった。
その時、アクアから説明を受けて誤解してた事を知った姉が大泣きして抱き締めた。
それから1カ月、ディータは滝の上から滝壺に飛び込むという荒行を雨が降ろうが行われた。
決して悪い姉ではないが極端な行動が目に余るのがダンテの悩みだが、今回の件でディータが何を考えているかと色々考えると怖い。
綺麗な人なのに……とドン引きするヒースは首を傾げる。
「ダンテはともかく、他のみんなは来ると聞いてもそういう考えに至らないと言う事はほとんど被害を受けた事がないんだよね?」
ヒースに聞かれたアリア達が頷くと更に質問を重ねる。
「じゃ、なんでミュウが頭を抱えてるの?」
「多分だけどよ、ミュウはディータに折檻される事が多かったからじゃ?」
ミュウは良く盗み食いなどを働く常習犯で、雄一の代行でディータが動く事が多い。しかもディータの職場といっても過言ではない台所での事件となるとほとんどがディータが出張る事が多かった。
その為、ミュウはディータの怖さを骨身に沁みていたが、盗み食いを止めれないミュウはディータから逃げるのがライフワークであったが逃げれた事など1度としてなかった。
「ディータ、ミュウを木に吊るして1日ほっといた……」
「えっ? 1日……えーと、トイ……」
「ストップなの。ミュウも女の子、エチケットは大事なの!」
真剣な顔をしたスゥがヒースの肩を掴んで射殺すように見つめてくる。
エチケット大事、とウンウンと頷くヒースは長いモノに巻かれる事を選んだ。
「そういえば、さっき名前が出たホーラさんも手加減が甘いんだよね?」
「まあ、そうだな?」
ヒースの言葉に頷くレイアに「一緒に来るんだよね?」と続けてくるが、同じように頷かれる。
先行きが怖いと思ったヒースはダンテを見つめた後、アリア達をグルッと一周して見るとダンテに話しかける。
「ダンテの所には怖い女の人が多いんだね?」
そう言ってくるヒースの言葉に頷く訳にはいかないダンテはアリア達を見た後にヒースに目配せする。
『逃げろ』
合図を送るが首を傾げるヒースの肩を立ち上がって近寄ったアリアが掴む。
「ヒース、最後の言葉の意味をゆっくりと聞かせて貰う」
ハッ、と我に返るヒースが振り返るとダンテを除く、アリア達が笑みを浮かべてヒースを見つめていた。
襟首を掴まれるヒースとダンテ。
「ちょ、ちょっと待って、なんで僕まで!?」
そして、ヒースとダンテの悲鳴がのどかな草原に響き渡った。
御者をしていたオジサンが後ろの騒がしい子供達の声を聞きながら、元気だな~と笑いながら馬車の手綱を握り直した。
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