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28話 継がれていくモノがあります

 今回のお話は、たいした文章量ではありませんが、ちょいグロがありますので、そういうのがまったく駄目!という方は、食事の前後は避けてお読みください。

 そこまで警戒するようなモノではないと思ってますが、一応、お伝えしておきます。

 一晩明けて、みんなで朝食を済ませた雄一とホーラは、おそらく1泊するだろうと、みんなに告げて玄関先で見送られる。


「じゃ、行ってくるな?」


 駆け寄って雄一に抱きつく、アリアとミュウをギュ、と抱き締める。


 後ろで呆れた目で見ているレイアにも腕を広げるが、靴を片方脱いで投げつけてくる。


 雄一は、ふっ、そんな見え透いた攻撃は当たらんよ! と笑みを浮かべて避ける。


 それにムキになったレイアが、もう片方の靴を脱ごうと雄一から視線を外したのが勝敗を分けた。


 キュピーンと擬音が聞こえそうな目の輝きとイヤらしい笑みを浮かべた雄一が、低空飛行するように滑るようにレイアに近づく。


 レイアが雄一の接近に気付いた時には既に遅く抱きしめられ、持ちあげられる。


「レイアっ! まだまだ修行が足らんなぁ~」

「くっ、くそ! 馬鹿野郎! 離しやがれ!!」


 嬉しそうに頬ずりする雄一を、腕を突っ張って離れようとするレイアであったが、どことなく嬉しそうに口許が綻ぶ。


 雄一は、レイアを下ろすとシホーヌとアクアを見つめ、


「アクア、昨日の件、頼む」

「承りました」


 静かに頭を下げるアクアから、シホーヌに目を向けて呼ぶ。


「シホーヌ、ポトフとカレーに何も入れるなよ? 温めるだけでいいからな?」

「ちょっと、待って欲しいのですぅ! 何故、私だけお願いじゃなくて、警告なのですぅ!!」


 憤るシホーヌを見つめ、口許を隠して笑うアクアが雄一に替わって答える。


「信頼度の差じゃないでしょうか? プークスクス」


 驚愕なのですぅ! と目で訴えるようにして雄一を見つめるが、雄一に目を反らされる。


「ユウイチとアクアの…………アホタレ!!!」


 シホーヌは、うわぁぁーと声を上げ、家の奥のほうへと走るのをその場にいる者達が眺める。


「まあ、そういう訳で行ってくる。みんな、2人の言う事をしっかり聞くんだぞ?」


 雄一とホーラは、シホーヌ以外のみんなに手を振って見送られ、家を後にした。





 雄一が、青竜刀を肩に担ぎ、鼻歌を歌いながら歩くのを見ていたホーラが、微笑ましいものを見るような目をして話しかけてくる。


「ユウ、楽しそうさ」

「おう、やっぱり、仕事を楽しめなければ、辛いしな。それに、これから行く場所は行った事がない所だから楽しみでな」


 本人も忘れがちではあるが、元々は、小説で書かれる異世界の主人公のように、チーレムや、胸躍る冒険をしたかったという思いが発端でシホーヌの口車に乗った雄一である。


 勿論、双子の面倒や、自分の料理を美味しそうに食べて貰えてる姿を眺めるのも楽しい。


 だが、異世界ならではの冒険者家業をしてる時の楽しさは別腹であった。


「そういうホーラもベストに仕込んだ投げナイフを披露したいんだろ?」


 イヤらしくニヤつく雄一に、ホーラはそんな事ないさ、と顔を背けるが、耳が赤くなってるのが後ろからでも分かり、隠し切れてなかった。


 雄一は、知っている。


 昨日のオヤツの後、夕飯までとお風呂に入る前まで、必死に投げナイフの練習に打ち込んでいた事を。


 イジる気持ちが抑えきれずに、ホーラの頬をウリウリと突っつく。


 突っついている指をホーラが、ガブッと噛みに来るのに気付き、慌てて引っ込める。


 ホーラは、噛み損ねてカチンと音を鳴らすと恨めしそうに雄一を睨むのを見て、肩を竦める。


 さすがにからかい過ぎたと反省した雄一は、機嫌を戻して貰う為に必死に謝り続けた。




 そして、謝り倒して、やっと機嫌が戻ったホーラと一緒に歩く事、3時間が経とうとした頃、前方に煙が上がっているのに気付く。


「煙が上がってるな……」

「そろそろ、お昼時だから、準備じゃ?」


 確かに、ホーラの言う事のほうが自然な時間帯であるが……


「なんか、胸騒ぎがする。悪いが、少し急いで煙の下に行こう」


 村の建物が見えない距離で見える煙としては、大きく感じた雄一は、小走りしながら巴を抱え直す。


 雄一が走り出したのを見て、ホーラも慌てて、追いかけて着いていった。





 それから、30分ほど走り続けた2人は、走っていた足をゆっくりと歩く速度に落としながら悔しそうに顔を歪ませる。


 目的地のソラ村に着いた雄一達を出迎えたのは、建物が破壊されるか、燃やされるといった、見るに耐えないような光景で、ちらほらと死体らしきモノも見えるが五体満足な死体など見当たらない。


 雄一は、燃やされたモノで火が消えているモノに触れるが、火が消えてからだいぶ経っている事から、少なくとも昨日の時点、依頼を受けた段階で出発しても間に合わなかっただろうと気付くが、苛立ちは募る。


「ホーラ、生存者を捜すぞ」

「でも……」


 雄一の言葉にホーラは、否定的な言葉を言おうとするが、飲み込むと頷き、2人は村の中に入っていった。



 捜索すると言っても、小さな村であり、おそらく10件ほどの家があっただけの村だと思われ、すぐに捜索が終わってしまう。


 どうやら、ここを襲ったモンスターは移動した後のようだ。


 生存者が発見できずに、唇を噛み締めていると家から離れた森の中から、ブヒブヒという声と物音に気付いた雄一が森に飛び込む。


 3匹のオークが、群がるように何かを貪ろうとしている光景を見た雄一は、そこに飛び込み、巴を一閃する。


 オークの群がってた場所には、エルフの女性が背中から食べられている状態で倒れているのを見て、雄一は顔を顰める。


 飛び込んだ雄一を追いかけて、やっと到着したホーラであったが、悔しがる雄一になんて声をかけたらいいか悩んでいると、ある事に気付く。


「ユウ、その女の人の下に何かいる!」


 ホーラの言葉に劇的に反応を示した雄一は、そっと女性の体に触れ、


「失礼します」


 そういうと軽く持ちあげて、その女性の下を覗き込むと、白髪のエルフの少年が居る事に気付き、雄一は更に持ちあげ、そっと横にずらす。


「坊主、大丈夫か!」


 雄一は、少年の肩を掴み、揺するが反応を返されないが呼吸をしているのを確認して、ほっとする。


 しかし、瞳孔が開いたまま、呆ける少年を見つめて眉を寄せる。


 何故なら、呟くように、「お母さん」と言い続ける様を見れば、どういう状況か手に取るように分かってしまった為である。


 雄一は、少年を立たせようとするが、ペタンと力なく座ってしまい、三角座りをして死んだ母親をジッと見つめ続ける。


「ホーラ、村に行って、穴を掘る道具に使えそうなモノ捜して来てくれないか?」

「分かったさ」


 もういないとは思うが、一応、気を付けるように伝える。


 頷いたホーラが、村へと向かうのを見た雄一は、少年の隣に向かい、話しかける。


「坊主、名前は?」


 雄一は、とりあえず何でもいいから話かけようと思い、名前を聞いてみるが無反応を貫かれる。


 それから、2,3の質問などをするが、反応は同じままで雄一も少年の母親を見つめながら胸の疼きと共に思い出した事に流されないように巴を力強く握り締める。


 重い溜息を吐き、遠い目をした雄一がエルフの少年の隣に同じように座り、独白を始める。


「ある時、クソガキが、父親と母親をクソガキの考えなしの行動で、死なせてしまいました」


 雄一が、そう言葉にするとエルフの少年は、肩がビクッとさせる。


「父親の仕事の休みが急に取れたということで、家族みんなで遊びに行こうということになるのだが、クソガキは、友達と遊ぶ約束をしていたので、行きたくなかったが、無理やり連れていかれてスネていました」


 語りながら、自嘲するように口の端が上がる雄一に横目であるが、視線をこちらに向け出しているエルフの少年をチラりと見て、話を再開する。


「スネながら、目的地に向かう途中で、クソガキは、車……馬が沢山、走りまくっている街道に小さな子猫が立ち往生しているのに気付いた」


 地面の草を引き抜き、虚ろな瞳になりながら独白を続ける。


「そのクソガキは、こう思うんだ。『俺が、子猫を助けないで、誰が助けるんだ!』ってな? クソガキは、暴走するように走る馬達の間を抜けようと左右を見渡していると、父親と母親が、行くな、危ないと言ってくるのを煩わしげに聞き流すんだ」


 エルフの少年は、視線だけでなく顔をこちらに向け出す。


「制止する手を振り払って、縫うように子猫に近づき、震える子猫を抱き抱えたクソガキは、有頂天になって子猫を掲げ上げて、親に助けた事をアピールするために振り返ると、眼前に母親がいて突き飛ばされたんだ」


 歯をギシリと鳴らすが、深呼吸をして話し出す。


「クソガキのいた場所に母親が行き、クソガキは飛ばされながら悪態を吐こうと口を開きかけるが、馬と母親が衝突する様を見て、言葉を失うんだ。そのまま、飛ばされながら、柵にぶつかると腐ってたのか、パキッという音と共にクソガキは空中に放り出されようとするんだ」


 少年と目を合わせた雄一は失笑する。


「飛ばされて、空中にいるクソガキの手を駆け寄ってきた父親が手を掴み、引き寄せ、入れ替わるように父親が空中に放り出されたんだ」


 雄一は、喋り疲れたかのように溜息を吐くと一旦、話を止める。


 ジッと見つめる少年の視線を受ける。


「父親は、落ちたら明らかに助からない高さから落ち、母親は、馬に吹っ飛ばされ、どうしたらいいか分からないクソガキは、目に映る、血まみれの母親の方へとフラフラと近寄っていき、泣きたいのに泣けずに、母親を見つめるんだ。クソガキからの目で見ても、母親の命は救われないと分かるほど、酷い怪我を負っていたのを見て、クソガキは力なく、その場で座りこんでしまうんだ」


 自分でも何をしたいのか分かってない様子の雄一は、エルフの少年の頭を撫でる。


「クソガキの視線の先にいる母親が息絶え絶えという有様で呼吸を乱しながら、クソガキを呼んで、怪我はないかと聞いてくるんだ。クソガキは、心配されているのに、つい、人の心配より自分の心配しろ、て怒鳴ってしまう。そんなクソガキの対応にも母親は嬉しそうの微笑んで無事を喜ぶんだ」


 撫でていた手で、少年の服の汚れを払いつつ、話を続ける。


「虚勢を張る事で、強がっていたクソガキは、その笑顔で心が折れるんだ。今まで感謝を一杯していて、それを返したいと思ってたのに、何も返せてないのに死なないでくれと泣き付くんだ」


 最初の拗ねてたのも、甘えの裏返しだったんだよな、と溜息混じりに雄一は言う。


「そして、母親は答えるんだ。それが最後にクソガキに贈った言葉だったよ」


 空を眺めながら、雄一はその言葉を最後に黙り込み、込み上げるモノと戦うように目を瞑る。


 黙る雄一に、初めて、エルフの少年は口を開く。


「お母さんは、なんて言ったのですか?」


 雄一は、瞑っていた目を開く。



「親の愛は、返すモノじゃない、引き継ぐモノよ、と……」



 雄一の言葉を受けたエルフの少年は、瞳に涙を浮かべて、瞳から零れ落ちるのをキッカケにするように声を上げて泣き始める。


 凍った心を溶かさんとばかりに泣き続けるエルフの少年を雄一は、力強く抱き締めてやる。


 いつだって、生者が死者にしてやれる事は、泣いてやる事と思い出してやる事だけなのだから……





 雄一は、エルフの少年が泣き疲れて寝てしまうまで、抱き締めて、寝てしまうのを確認すると木にもたれさせる。


 物影に隠れているホーラを呼ぶとバツ悪そうにスコップを持って、頭を掻きながらやってくる。


 隠れていた事に一切、触れない雄一にホーラは感謝をするように会釈をするように頭を下げる。


 ホーラからスコップを受け取ると、穴を掘り、掘った穴にエルフの母親を埋めてやる。


 エルフの少年を担ぎ、一旦、村へと戻り、死体をできるだけ集めて、火葬して、火が消えるまで見守る。


 死者への祈りを済ませると雄一は、エルフの少年をおんぶすると、村を後にした。

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       雄一の孫の世代             こちら亜人ちゃん互助会~急募:男性ファミリー~  どちらも良かったら読んでみてね? 小説家になろう 勝手にランキング
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