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231話 そこにお前の幸せはあるのか? らしいです

 まだ暫定的ではありますが、更新を再開します。再開などのスケジュールやネット小説大賞についての諸々のご報告が活動報告に上げておりますので一読お願いします。

 雄一が試練と称した戦いで実力差を見せつけられた、次の日、テツは打ち捨てられた見張り台で呆けながら空を見つめていた。


 テツ自身もいつの間にここに来たか覚えてないが、辺りを見渡すとなんとなく自分がどこにいるか理解する。


「あはは……レイアが膝を抱えてた場所にきちゃってたか……」


 そう、テツがいる場所は過去、ザガンの城壁の見張り台になっていた場所で、巴にボコボコにされたレイアが膝を抱えてた場所であった。


 テツは、1人になって考え事をしたいから来ただけなのか、それともレイアのように誰かに探して欲しいと思って、ここにいるのかと考えると苦笑いを洩らす。


「前者であって欲しいなぁ」


 先日、偉そうにレイアに口を聞いたばかりで同じ場所で呆けていた理由が同じだったと知られたら、テツは旅に出たいと思う、と考えていた。


「旅か、うん、悪くないかもしれない」


 思い付きではあったが、そういう未来があってもいいのでは、と頭をもたげる。


 ずっと、雄一達、特にホーラと行動する事でアチコチには行っていたが、自分が行きたい場所ではなく、依頼先という意味でしか行っていない。


 当てもない行き先も考えずに大陸を歩く自分を夢想するが、すぐに顔を顰めると首を横に振る。


「僕は何を馬鹿な事を考えてる。まだ何も成せてないというのにっ!」


 溢れる感情を抑えきれずに座ってるレンガを拳で殴る。


 どう考えても勝てない相手だと分かりながらも、戦いを挑む悲壮な覚悟を決めたテツの父の顔、テツに覆い被さる温かい母の温もりと安心させる為に笑みを浮かべる死を覚悟した顔がテツの脳裏に過る。


「2人が生きた証も、父さんと母さんが間違ってなかったと証明もできてない……」


 テツは歯を食い縛って口の端から血が垂れるのに気付くと袖で拭う。


 昂っている自分を落ち着かせるように深呼吸しながら、再び空を見つめる。


 そして、テツは再試験と雄一に与えられた言葉を思い出していた。



「テツ、再試験だ。試験内容は、『何故、お前は自分の命を大事にしないか』だ」



 テツは、雄一の言葉はどういう意味だろう、と考える。


 確かに無茶をする事はある。


 だが、父と母に胸を張る為にしたい事、そして、ティファーニアを幸せにするという叶えたい願いがある。

 だから、決して死にたいと考えていない。


「そう、僕は死にたいなどと思ってない……」


 呟いたテツは空を見つめながら思考の迷路に迷い込んだ。




 それから、しばらくすると人の気配に気付いて、慌てて身を起こす。


 だいぶ、呆けていたようですぐ近くに来てるのに気付いてなかったと気配の元を見つめると見知った2人であった。


 壊れかけた通路を幼女を抱っこしながら、下を覗き込みながらおそるおそる歩くシャーロットの姿がそこにあった。


「シャーロットさん、何をしてるんですか。危ないですよ!」

「おや? もしかして、今頃、私が来た事に気付いたのか? この距離まで来るまで反応しないから無視されてるのかと泣きそうになってた」


 シャーロットは自分が抱える幼女、メリーに「なぁ?」と同意を求めるとメリーも何が楽しいのか分からないが、ヘラッと笑いながら「なぁ?」と真似をする。


 そう言うシャーロットとテツの距離は10歩程の距離しかなかった。


 普段のテツなら、寝てても、この倍の距離があろうとも反応していただろう。


 いかに自分が普段と違う状態か、こんな形で気付かされて苦笑いしか浮かばない。


 そんなテツに笑みを浮かべながら歩いてたせいか、シャーロットはバランスを崩したようで少ない足場でふらつきだす。


「危ない、シャーロットさん!」

「馬鹿にしないで貰おう。確かに君達のように超人的な動きはできないが、これぐらいで落ちるような鍛え方はしていない」


 ドヤ顔をするシャーロットの言動と行動が危険フラグにしか感じられないテツがハラハラしながら見つめる。


 まあ、任せろ、と表情で語るシャーロットは、見られている事でテンションが上がったのか、ズンズンと歩き出す。


「あっ!」


 その短い悲鳴と共にシャーロットの足場がいきなり崩れる。


 調子に乗ったシャーロットが脆くなっていた足場を踏み抜いた。


 テツは嫌な予感ほど当たる、と思いながらシャーロットに飛び付き抱き抱えると風魔法で足場を作り、テツがいた場所に戻ってくる。


「テツ、済まない。助かった」

「気を付けてください! メリーも一緒なんですよ!」


 やや興奮気味のテツに叱られて、シャーロットはシュンと落ち込むが、抱えられたメリーは驚きで目を大きくしていたが、無事だと分かると嬉しそうに落ち込むシャーロットの頬を叩く。


 メリーの様子を見て、毒気が抜かれたテツは大きく溜息を零す。


 今が好機と判断したシャーロットは、地面に座り込むと自分の前を叩いてテツにも座るように示す。


「こんな所に何の用ですか?」


 ここで拒否をしても話が進まないと思ってか、姉達の教育で女性には極力逆らわないという事を魂に刻まれたモノがそうさせるのかは不明だが渋々、座るテツ。


「いや、なに、テツが主に『何故、お前は自分の命を大事にしないか』という言葉を投げかけられた、とホーラから聞いて悶々としてるのではないかと思って、巴に居場所を聞いてやってきた」


 確かに思い悩んでいたのは事実だが、それをシャーロットが気付き、何か言ってくるような気の使い方ができるタイプだとテツは思っていなかった。


 そんな事より、驚いたのがシャーロットが聞いたと言った巴が素直に教えた事が何より驚きだった。

 だが、それと同時に巴はどんな広い探査ができるのだろうかと関係ない事も考えた。


「シャーロットさんが言うように悩んでいましたが、シャーロットさんにそれに対する答えがあるのですか?」


 若干、シャーロットには無理だろうと遠回しに言うようにテツが言う。どうやら、今回の事は、だいぶ苛立ってるようで珍しく毒があった。


 だが、そんな事を気にした風でないシャーロットは、笑みを浮かべ「勿論だとも!」と自信ありげに豊かな胸を隠した鎧を叩く。


「何故なら、私も似たような思いを持っていたからな?」


 そう言いながら過去を思い出すようにザガンの街並みを見つめるシャーロットの横顔をテツは見つめる。


「テツ。お前は、死んだ父、母の誇りを守り、テファを幸せにしたいから、命を大事にしてると思ってるのではないか?」


 まさに先程それを考えていたテツだったので、驚きが顔に出るのを見たシャーロットは、やはりか、と溜息混じりに肩を竦められる。


「私は、母を早くに失くし、父も失くした。そして、父から伯爵の地位を受け継いだ」


 テツもシャーロットが北川家にやってくるまでの話はだいたい聞いていたので、黙って続きを聞く。


「父から受け継いだモノは地位だけではなく、誇りもだと自分に言い聞かせて、背伸びをし続けてもやり遂げると奮起したモノだ」


 その当時の事を今から思うと恥ずかしいとシャーロットは、テツに照れ笑いを見せる。


「空回りに空回りを繰り返し、気付けば、捨て石扱いでナイファ国、王子のゼクラバース様と婚約するハミュ王女の護衛として国外に出された。そんな時に主に出会った」


 そこからの経緯は知ってる事を確認してくるシャーロットにテツは頷いてみせた。


 頷き返すシャーロットは、過去の自分を呆れたのか鼻で笑うように空に視線を向ける。


「メリーと仲良くなり、楽しいと思い始めた頃、母国の騎士達が主が住まう場所を襲いにやってきた。それに立ち向かっている時に思ったのだ。私は、何の為に戦うのだろう? と」


 空を見つめていたシャーロットはテツを見つめる。


「テツ、お前が戦う理由は何だ?」


 テツを見つめるシャーロットの瞳はいつもに増して澄んで強い意思が込められていた。


 それに尻込みするように声音を震わせるテツが答える。


「そ、それは、父さんと母さんとティファーニアさんの為に……」

「その中にテツの幸せの為に戦うという理由はあるか?」


 テツが答え切る前にシャーロットが畳みかける。


 絶句するテツはシャーロットを凝視するが凝視されたシャーロットは怯まずに話を続ける。


「私は、主達に触れ、自分が見た事がない、知らなかった事を体験した事で、追い込まれた時、死にたくない、と強く思ったよ。騎士としては情けない話だがな」


 自嘲するシャーロットは落ち着ける為か胸に掌を当てるが、テツには祈っているように見えた。


「私は、追い込まれた時、死にたくない、と思った同時にメリーと楽しいを一杯したい、あの夢のような場所を実現した主に仕えたい、そう、強く、強く幸せになりたい、と願った」

「し、シャーロットさんは、それでいいかもしれない! 父さんと母さんは僕を守って死んだ! 僕には成さなければならない事があるんだ!」


 余裕のない顔をするテツが、シャーロットを怯えるように後ろに尻を擦りながら下がる。


 そう叫んだテツを感情が籠らない瞳で見つめるシャーロットは、弾まない声でテツの胸を打つ言葉を放つ。


「それはつまり、テツと同じく両親を死なせたメリーにも同じ事をしろ、という事か?」


 シャーロットの言葉が胸に突き刺さったテツは顔を歪めると俯く。


 淡々とした声音でシャーロットは離し続けた。


「私はテツの考えを否定する。メリーは幸せになるべきだ。勿論、テツ、お前もだ」


 2人の話が理解できないが真面目な話をしてるとだけ分かるのか、おとなしくしているメリーに笑いかけながらシャーロットは頭を撫で続ける。


「好きに生きて、楽しい人生だった、と胸を張れる事が両親への最大の恩の返し方ではないだろうか? だから、私はメリーにそれをさせようと思っている」


 俯くテツの肩に手を置くシャーロット。


「テツ、お前が本当にやりたい事、願いはなんだ?」


 そう言うシャーロットの言葉に弾かれたように立ち上がるテツの瞳に力強い意思が宿っているのを見たシャーロットは笑みを浮かべる。


「主は、不合格と言われたホーラとポプリが体を張って再考を求め、昨日の場所で奮闘する2人を相手をしている。行くのだろう?」


 シャーロットの言葉に頷くテツは、


「有難うございます。ユウイチさんが出した問題の答えが分かった気がしました!」


 そう言うと一礼するとテツは見張り台から飛び出していく。


 飛び出したテツが地面に着地すると砂地に足を取られる事なく、疾走する様を見つめながらシャーロットは頬に汗を一滴垂らしていた。


「テツ、お前らしいと言えばらしいが、まだ答えに行き着いてないのに走り出すか……まあ、言葉に簡単にできることではないのかもしれないが……」


 シャーロットは辺りを見渡し、溜息を零す。


「せめて、私を降ろしてから行って欲しかったな……」


 唯一の歩いて降りれる道はシャーロット自身が踏み抜いて潰してしまったので壁を伝いながら降りるしかない。

 シャーロットは重い鎧とメリーを抱えて降りれる訳がなかった。


 鎧を脱いで、地面目掛けて放り投げる。


 それを見つめながら、過去の自分なら絶対にしなかっただろうな、と苦笑した後、辺りを必死に見渡す。


 誰もいない事を確認するとシャツの中に両手を戻すとゴソゴソとし出す。


 再び、両手をシャツから出すと右手には白い布地があった。シャーロットのサラシである。


 鎧を着るのに抑えつける為に巻いていたものだ。


 良く見るとシャツが盛り上がり、ディータに迫る胸が自己主張していた。


 そのサラシを利用してメルが落ちないように、おんぶして縛りながら頬を赤くする。


「こんな所、他の男性は勿論、主には見せれない。早く降りてしまおう」


 四苦八苦しながらシャーロットは降りたそうだが、それをホーラが見ていたら舌打ちが止まらない理由で降りるのに苦労したらしい。

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