214話 巴の洗礼らしいです
マジで寒くなってきましたな。
それと年末年始の予定を考えだす今日この頃……
レイアを泣かせて、雄一が凹まされた、次の日、今日もいつも通り……ではなく得物、巴がない状態の雄一がソリを走らせていた。
どことなく不安そうにしている雄一が珍しく、ポプリが声をかける。
「やっぱり慣れ親しんだ武器がないと不安なのですか?」
可愛らしく首を傾げるポプリが雄一に問いかける。基本的にポプリは未だに雄一に対しては多少緊張するせいか、可愛い子ぶる事が地で出てくるようだ。
「いや、巴がやり過ぎないかな……と心配しててな」
眉を寄せる雄一は困った顔をする。
そんな雄一の反応がくるとは思ってなかったポプリは、表情を固める。
ポプリの後ろで座っていたホーラが、投げナイフを弄りながら気のない振りして話しかけてくる。
「勘違いじゃないと思うけど、アタイ達、巴に嫌われてるよね?」
ホーラがそう言ったのを聞いたテツが、「そうだったんですか?」と驚いた顔を見せる。
雄一が言葉を選ぶように空を見つめる。
「嫌ってるか、正確じゃないな。納得、違うな、認めてなかったが正しいか。まあ、それは俺が甘やかしているからと、2人の時に良くお小言を言われてな」
「そ、それが行儀見習いか何かですよね?」
雄一が甘いと言われている事が、是非、これであって欲しいと願い、頬を引き攣らせながら聞くポプリ。
「いや、戦いというモノの教え方についてだ」
絶句する3人に気付きながらも続きを口にする。
「確かに俺も自覚症状はあった。だが、それは時間が解決するという展開でも良いのではないかと思っていてな。いや、やはり俺が甘いか、その時間がその時まで足りるかは誰も保障できないからな」
そう言われる3人は今までの雄一の指示や訓練を思い出して、あれで甘かったのか! と身震いをしてしまう。
それを横目で見ていた雄一が被り振りながら言ってくる。
「そう言う意味じゃない。だがな、ホーラとテツ、ポプリは長い事いなかったから巴が話す機会がなかったが、お前ら2人は、その時がきたらできるかもしれないとは最近は渋々思ってたようだ。特にテツ、お前はその時がきたら、一番できるだろうと認められてたようだぞ?」
テツは雄一の言葉を聞いて喜びを前面に出すが、ホーラは眉を寄せて言ってくる。
「まだ、何の事か分からないけど、アタイ等で、そうならアリア達なら……」
「恥ずかしい話だが、まったくその辺りは教えてやれてない。そのせいで、かなり不安になってる」
一応、手加減はするように言い含めたが、あの気位の高い巴が雄一相手なら、ともかく、他の相手にどの程度、我慢できるか分かったものではなかった。
心を鬼にして教える覚悟が雄一にあったのなら、巴に強く言い含める事もできたが、ホーラ達以上に厳しい事ができないアリア達に教える事が出来なかった。
首を傾げるテツが雄一に聞いてくる。
「認められた事は素直に嬉しいんですが、ユウイチさんが教える事を躊躇している事って何なんですか?」
「戦い、強くなる為に必要な……」
道を切り開いていくうえで重要になるモノであった。
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レイア達はヒースの屋敷の入口が見える噴水の傍で立って待っていた。
ヒースとの約束の時間がまだあるせいか、やたらと自分達の後ろの噴水の淵で腰掛ける丈の短い黒い着物を攻めた着方をする幼女の花魁姿のキツネの獣人が気になった。
巴だ。
ポリシーでもあるのか、巻き上げられた銀髪整えながらキセルを吹かしていた。
「ん? 煙草に興味があるのか? ガキタレには、まだ早いのじゃ」
かっかか、と笑いながら、こっそり見つめてるつもりのレイア達に言ってのける。
頬を膨らませたミュウが巴の前にやってくると指を突き付ける。
「マキマキ頭! 今日はミュウが勝つ!」
ミュウは、時折、現れて、小馬鹿にするように勝負事を吹っ掛けて勝ち逃げされ続けている。
勘違いをしていると、ミュウを窘めようとしたスゥであったが、まるでタイミングを合わせるようにして、吸った紫煙をミュウとスゥに吹きかける巴。
咳き込む2人を笑いながら言う。
「そう急くな、犬。そんな事言わずとも、立てなくなるまで相手してやるのじゃ」
咳き込みながら、スゥはどういう事なのだろうかと眉を寄せる。
アリアを見つめると首を横に振られる。
「駄目、まったく心が読めない。色もなく透明」
「精霊もあの人を恐れて、僕に何も教えてくれません」
ダンテがアリアの後を継いで、そう言いながら震える。
「あの人の事は教えてくれませんが、精霊が僕達に逃げろ、と言ってます」
「良いぞ? 逃げたいならいくらでも逃げるのじゃ。宿のベットでおとなしくしてるというなら、わっちは決して追いかけたりしない、誓ってやるのじゃ」
キセルを咥えながら、楽しげに妖艶に笑ってみせる。
気圧されて溜まるかとレイアが叫ぼうとした時、
「皆さん! お待たせしました」
レイア達に駆け寄るヒースに気付くと怒鳴るのを止めて振り向く。
レイア達の空気がおかしい事に気付いたヒースが「どうしました?」と問いかける。
「何でもない。とりあえず『試練の洞窟』に行こう!」
「駄目じゃ」
そう言うレイアの言葉をバッサリと切る巴。
先程の事から怒り心頭だったレイアは巴の胸倉を掴み上げ、怒鳴る。
「さっきから、癇に障る言い方ばかりしやがって! アタシ達は『試練の洞窟』に行く為に今日、来てるんだ! 邪魔するな!」
「今日の引率者は、わっちじゃ。ご主人に全権を与えられた。つまり、わっちの言葉が絶対じゃ。今日という今日は、お前達に教えてやらんといかんのでな」
巴はキセルを吹かせながら、「ついてくるのじゃ」と言うと歩き始める。
迷いを見せるアリア達であったが、レイアは鼻を鳴らすと巴と反対側、『試練の洞窟』の方向に歩き始めようとすると何故か地面にキスしていた。
「いったーぁ! 何がどうなってるんだ?」
鼻を押さえて振り返るとキセルを咥えた巴がニヤニヤと笑いながらレイアを見つめていた。
「犯人はお前かよっ!」
「聞かんと分からん阿呆か? わっち以外に誰がおるよ?」
本当に楽しそう、かっかか、と笑う。
意地になったレイアが駆け出そうとするとその勢いのまま、再び、地面にキスさせられ、先程より強く打ち付け、鼻血を流す。
「おやおや、血化粧か? まだ、それはガキタレには早いぞ?」
鼻を押さえて血を止めようとするレイアはワナワナと震えると巴の範囲から飛ぶ事で離れようと思ったようで跳躍する。
しかし、一歩も距離を稼げず、同じ場所、地面にキスさせられる。
今度は、首をかなり捻ったようで痛みにもがき苦しみのた打ち回る。
そんなレイアの頭をポックリ下駄で踏み抜く。
「まったく、ご主人が甘やかすから、逆らって良い相手と駄目な相手が分からんようになるのじゃ」
更に踏みつけて激痛の為、悲鳴も上げられないレイアを周りの冒険者達を見つめて我に返ると、我先とばかり逃げ出す。
巴の異常性を恐れた為である。
一流の冒険者達は、あれは逆らってはいけない者と識別した。
「レイアの頭から足をどけるのっ!!」
そう叫ぶスゥは、あのままだとレイアの命が危ないと判断して剣を抜いて飛びかかる。
アリア達、ヒースも囲むようにして巴に襲いかかる。
気付けば、腹部に衝撃を受け、全員吹き飛ばされる。
起き上がると未だ、レイアの頭を踏みながらキセルを吹かす巴の姿があった。
巴はレイアの頭から足をどけるとアリア目掛けてレイアを蹴っ飛ばす。
バウンドしながらアリアの下に届けられたレイアに飛び付いて容体を調べると意識はないが生きている事に安堵する。
「癒してやるがいいのじゃ。まだ本題も始まってないのじゃ」
アリアは巴を警戒しながら、レイアに回復魔法を行使していく。
傷が癒えると意識を失っていたレイアが目を覚ます。
目を覚ましたレイアが巴に気付くと顔を真っ赤にさせ、拳を震わせるが飛びかかろうとしない。
良く見ると足が震えている所から恐怖が刻まれたようであった。
「もう次は言わんのじゃ。ついてこい」
背を向ける巴を見つめるレイア達は渋々、その背を追って歩き始めた。
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しばらく歩き続けた場所は、ザガンに来てから訓練に使っていた場所であった。
そこに着くと巴は振り返ってレイア達を見つめる。
「さて、わっちはご主人と違って優しく教えてやろうとは思わん。体に心に刻んでやるのじゃ。全員でわっちを殺す気でかかってこい」
キセルを咥えたままの自然体で言う巴を見つめるレイア達は先程やられた事が頭に過り、動けずにいた。
それに呆れた顔をした巴が紫煙を深々と吐き出す。
「攻めるのが苦手なら先に言うのじゃ。しょうがないから、こっちから……」
そう巴が言った瞬間、レイアは気付けば巴の傍に立っていた。
いや、引き寄せられたように感じたが、実際に動いたのは巴で突然、目の前に現れたから、そう感じただけであった。
レイアは声を上げる暇も貰えず、空中、巴の目線の高さで浮かされてる状態でキセルで上下交互に叩き続けられる。
「これぐらい、ゆっくりにすれば、ガキタレにも見えるはずじゃ。早く助けんとこのガキタレはおっちぬぞ?」
真っ先に動こうとしたアリアであったが、巴に見つめられただけで動けなくなる。巴の威圧で身動きが取れない。
「レイアさん!」
そう叫ぶヒースが上段からシミタ―を振り下ろそうとして、巴に威圧をかけられ、一瞬怯むが斬りかかる。
巴が、「ほぅ……」と獰猛な笑みを浮かべるとキセルでヒースを吹き飛ばしながら、廻し蹴りをレイアに放ち、再び、アリアの前に飛ばす。
「まだ始まったばかりじゃ、そのガキタレを起こせ」
そう言うと巴はミュウの目の前に飛ぶとレイアにしたようにミュウもキセルで空中で殴打し続ける。
それを見て恐慌状態になったダンテがウォーターボールを乱射させるが全て掻き消される。
木の葉のように舞うように殴られるミュウを涙で滲む瞳で見つめながら、レイアを癒す。
「どうして、ユウさん……」
巴がこういう事をする可能性を雄一が見抜けなかったとは思えないアリアは、唇を噛み締めながら呟く。
きっと意味はあると信じたいがあの狂犬のような巴に殺される恐怖が付いて回るアリアは内なる雄一に問いかけ続けた。
そして、巴は一巡させるように全員を殴打して、癒されたのを確認するとニタァと笑う。
「もう一度じゃ」
そう言う巴にヒースは恐怖に顔を歪ませながらも剣を構えるが、レイア達は恐怖に歪んだ表情をすると一斉に逃げ出す。
それを見た巴は鼻を鳴らすと一瞬で全員叩き伏せる。
全員、意識は残っているようだが、レイア達は涙を流しながら必死に這って逃げようとする。
レイアが震える声で巴に呟く。
「ば、化け物……」
「わっちを誰だと思ってた? 最強の男の刃であり、刀匠ミチルダ最高傑作の巴ぞ?」
つまらないモノを見つめるような瞳の巴が紫煙を吸う。
「やはりな、ガキタレ達には、戦いという生存競争をするうえで、もっとも大事な物が欠けておったのじゃ」
溜息を吐くように紫煙を吐き出す巴は、「これも全てはご主人が甘過ぎるからじゃ」と愚痴りながら、無様な姿を晒すレイア達を見つめる。
「そう、ガキタレ共にはなかった。じゃが、あの小僧にはあったようじゃぞ?」
そう言いながら、笑みを浮かべる巴の視線の先を追いかけるとシミタ―を杖代わりにして立ち上がろうとするヒースの姿があった。
全身を血で濡らし、優しげな笑みを浮かべていた顔は異形の者のように鬼気迫る表情をさせていた。
どう軽く見積もってもレイア達より重症なヒースは立ち上がる。
「僕はこんな訳も分からない所で死ねない、僕には叶えたい願いがあるんだ……つ、強く、もっと強くなりたいっ!!」
立ち上がるだけでも必死なヒースに近づく巴を見て、レイア達はトドメを刺しに行ったと疑いもなく思った。
だが、巴は好意的な笑みを浮かべて、ヒースの頬に背伸びして手を伸ばして触れる。
「良いぞ、ホーラという小娘より見所があるのじゃ。安心せい、わっちが今より強い男にしてやるのじゃ。じゃが、今は眠れ、男」
その言葉と共にヒースは白目を剥いてうつ伏せに倒れる。
倒れたヒースにキセルに入っていた火種を落とす。
落とした先から、みるみると傷が塞がって行く。
それを満足そうに見つめた巴はヒースを両手で担ぐようにするとレイア達の下に戻ってくる。
「まだ、何が足りてないか分かっておらんようじゃな? この男にあってお前らにないモノ、それは渇望じゃ。求めて止まないモノ。生き残る、強くなりたい、成し遂げたいという強い思いがガキタレ共にはない」
あると言いたいが、今、ヒースの鬼気迫る姿を見たばかりで尚且つ、巴に逆らう気力のないレイア達は黙り込む。
その内心を見抜いたようで鼻を分かり易く鳴らす巴はレイアの目の前にやってくる。
「ガキタレ、お前は以前あの2人に連れられて、ご主人の死合を盗み見たはずじゃ。それを見たはずなのに何故、学ぼうとしなかったのじゃ、どうして、教えを請う為に頭を下げなんだ。あの時、ガキタレも衝撃を受けたはずじゃ」
気付かれてないと思っていたレイアは驚愕の表情を浮かべて、目を大きく見開く。
見切りを付けるように首を横に振る巴はレイアを見下す。
「もう冒険者を目指すのは辞めろ、クソガキ」
そう言うとポックリ下駄でレイアの顎を蹴り抜いて意識を刈り取った。
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