幕間 気付きと向き合う事
この幕間とセットにされてる、いつもの人物紹介にいつもにない事が掲載されております。お暇があれば閲覧して見てください。
雄一に呼び出されて各地を飛んで廻ってたホーエンは、雄一の指示で召喚陣を破壊して回っていた。
そして、雄一と合流して情報交換した後、別れてリューリカに火の精霊神殿まで送り届けられていた。
「さて、わらわはダーリンのご飯と人肌が恋しいから帰るとするのじゃ」
「いや、本来はここに来てるのが帰ってきたなんだが……言っても無駄なんだろうな」
リューリカの物言いに呆れを滲ませたホーエンが肩を竦める。
それを言われて、理屈ではそうだった事にリューリカが今、気付いた顔をする。
「それなりに向こうの生活に満足してダーリンの子を宿したら帰ってくるのじゃ」
こんな短い時間ですら、忘れていたリューリカの言葉をどこまで信用したらいいやら、と呆れを隠さずに伝える。
「まあ、火の精霊獣である事を忘れないでくれたら、とりあえずいい」
「くっくく、お主、前はイケ好かん奴じゃったが、少し男を上げたのじゃ」
リューリカは「ダーリンには遠く及ばんがな」と笑い飛ばす。
そう言われたホーエンは自分は何か変わったのだろうかと自問する。
変わってないと言えば変わってないと思う。だが、雄一に頼まれ事をして各地を飛び回ってる時、普段ならアグートが癇癪を起してないかな? ぐらいしか考えなかった。
しかし、今回の調査中は、ふと気を緩ませると神殿に残してきた子供達の事を考えていた。
アグートの料理が不味いと言って泣かせてないだろうか、好き嫌い言わず、ちゃんと食べてるだろうか? 最近、夜泣きが収まったチビは大丈夫だろうか、と気付けば考えていた。
「そうだな、守るべきモノを持つという事は良いことだ。そのキッカケをくれた雄一には感謝している」
子供達を世話するようになって、ホーエンは雄一の懐の大きさを強く感じるようになった。
何故なら、もし、今の自分が、過去の自分が雄一にしたような事をされたら、と思うの身が凍る思いである。
もし、負けてしまったら、守り切れずに犠牲を出してしまったらと思うと怖くてしょうがない。
雄一のように勝利を収めた時、ホーエンは雄一のように相手に間違いに気付かせるチャンスを与えられるだろうかと考える。
その想像に首を横に振る。
チャンス以前にその時に怒りに任せて殺していたであろう。
だが、雄一はホーエンの命を見逃した。
子供達の教育に悪いからと嘯いて……
もっと沢山の人、ひいては子供達を守れる可能性を繋ぐ事を選択した。
だから、きっと雄一がホーエンに孤児の面倒を見ろというのは最終通告だったとホーエンは今だから分かる。
受けなかったら、近い内に本当に殺され、受けても、それを感じられずに子供達を蔑ろにしたら魂まで斬り刻まれた未来が容易に想像できる。
「本当に雄一の言葉は聞き流せないな。聞き流すには恐ろし過ぎる」
「当然じゃ、伊達に四大精霊獣が全て、嫁になりにきたりせんのじゃ」
胸を張るリューリカに苦笑する。
すぐに表情を引き締めるホーエンはリューリカに質問する。
「リューリカは今回の件、どう考えてる?」
「そうじゃな、わらわは頭を使うのは得意ではない。だが、どうも鼻につく嫌な匂いが蔓延しようとしておるように思うのじゃ」
そのセリフを聞いたホーエンは頭を悩ませる。
召喚陣を破壊して回ってる最中からホーエンも何やら気持ち悪さを感じていた。だから、この別れ際に思いきって意見を求めた。
これもまた、雄一に出会う前のホーエンならば他人に意見など求めなかった変化である。
リューリカの意見を聞いたホーエンは腹が決まったようで頷く。
「リューリカ、雄一に伝言を頼めるか?」
「引き続き調べる、と?」
犬歯を見せて笑うリューリカに頷く事で応えるホーエン。
「やはり、これで終わりとは思えん。今回のヤツは早い段階で押さえられたから良かったものの、次はこうも上手くいくか分からん」
「そうじゃの、ダーリンも元を断たんと終わらんと言っておったのじゃ」
雄一がゼクスから受けた依頼は、モンスターの不自然な出現であった。
それを調べて回り、原因が召喚陣である事を突きとめ、破壊して回ったが、どうやら大がかりな何かをしようとしてるように感じた。
雄一もホーエンと同じ意見だとは言っていたが、それ以上に気になる事があるとも言っていた。
その結果次第で動き方を考えると伝えられていた。
「アイツはアイツで動くだろうが、俺はそういう方針で動く」
「大変だとは思うが、しっかりと頑張るのじゃ。しかとダーリンには伝えておくのじゃ」
そう言うとリューリカは空を舞って、ダンガの方向へと飛び去っていく。
飛び去るリューリカを見送りながらホーエンは呟く。
「本当に大変なのは、俺じゃない。今頃、アイツは大一番をしてる頃か……」
そう言うとホーエンは火の精霊神殿へと歩き始めた。
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ダンガの北側にある平原、いつも雄一が子供達を鍛えている場所で、一人、月明かりに照らされている雄一がいた。
背後に気配を感じた雄一はゆっくりと振り返るとそこにいたのは呼び出したシホーヌとアクアの2人であった。
静かに雄一の下へと近寄ってくる2人は雄一まで後2歩で触れ合える距離で足を止めて雄一を見上げる。
しばらく黙って見つめ合っていた3人であったが雄一が口火を切る。
2人の名を呼んだ雄一は、2人に触れれる距離に近づき、2人の肩を触れてビクッとされるが動揺を押し殺して話始める。
「アリア、レイアの事、そして、今回の件、俺に伏せている事を話して、いや、俺は聞かないといけない」
それからしばらく虫の鳴く声だけが静かに響き渡った。
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