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176話 宣戦布告らしいです

 シホーヌ達の治療を受けながら、ブツブツと呟くホーラは雄一を睨みつける。


「そりゃ、子供達のほうが心配なのは分かるけどさぁ? たまにはアタイを優先するように? やってくる相手が逆でも大丈夫だったんじゃないか、てアタイは思う訳さ」


 それを真横で聞かされるアクアは苦笑しながら雄一を見上げる。


「主様、ホーラはあのドラゴンを操ってる子の心理操作を受けて本音が出やすくなってるだけで大目に見てあげてくださいね?」


 それを聞いて、シホーヌに治療されてるテツを見ると治療中にも関わらず全快したような雰囲気を漂わせて両手を突き上げて叫び出す。


「ティファーニアさん! 大好きです。なので、記憶に残ってないのでもう1回チューをお願いしますっ!!」


 それを見て、ふむ、と納得した雄一はまだ騒ぐテツの首の後ろに手刀を入れる。


 入れられたテツは、ハゥッと声を上げると意識を刈り取られて白目を向いて気絶する。


「ユウイチ! 何をするのですぅ! テツのダメージは本当に危なかったのに鬼なのですぅ」

「まあ、シホーヌもいるし大丈夫だろ? あのまま叫ばせてたら子供達に有害な事を口走る恐れがあったからな」


 そう言われて、そうなのかな? と首を傾げて納得したシホーヌを見て、雄一は笑みを浮かべる。


 勿論、そんなのは建前であった。


 王都の方向に目を向け、城にいるゼクスに報告する。



 任務完了だ、ゼクス!



 力強く頷く雄一を余所にアリアとスゥとホーラと騒いでおり、戦いという空気が一切なかった。


 そんな中、放置されてるジャスミンはヒステリックに叫び、エリーゼは「まだぁ?」と困った顔をこちらに向けてくる。


「ああ、すまん。ドラゴンは始末してくれていい。女の方は生きてさえいればいいが、動けないようにしておいてくれ」

「んっ、分かった」

「ふっ、ふざけないでぇ! どうして、そんな簡単にあしらわれるのよ。私はチート持ちの主人公よ!!」


 そう叫ぶジャスミンの言葉と同時にドラゴンのブレスが止まる。


 目を向きだしたジャスミンがドラゴンを見上げる。


 見上げたドラゴンが縦に真っ二つになって体が分かれていくのを噴き出す血を浴びながら、「嘘だぁぁぁ!!」と叫んだ。


「主人公?」


 訝しい目でジャスミンを見つめて、まさか、と呟く。


 黒髪に黄色人種の特有の肌色などを見て、頭が痛そうにする雄一にアクアが苦笑して告げる。


「お気付きのようですが、主様と同じ所から来た方です」

「やっぱりそうか、だいたいの事情は理解した」


 自分を守るモノがなくなったと我に返ったジャスミンは踵を返そうとするが、踵の方に違和感を感じるとそのまま倒れ込む。


 何かが切れる感じがしたぐらいに思っただけで踵から下の感覚がほとんどない事と怪我らしい怪我もない事に恐怖を覚える。


「何をしたのっ!」

「筋を切った」

「お前に分かりやすい言葉で言うならアキレス腱を切ったと言えば、分かるだろ?」


 自分に置かれた状況に目を剥く。


 体全体を震わせて、握り拳を作ると地面を叩き始める。


「どうして、どうして、どうして! 私はどこにいても力に蹂躙される。どうして、私を容認する世界がないのっ!」


 その後もどうしてを繰り返し続けるジャスミンに雄一は律儀に答えてやる。


「同じ世界にいたから、お前がどんな奴だったか、なんとなく分かる。イジメにあってたんだろ? 俺が解釈するイジめられる奴の種類は2種類あると思ってる」


 目を血走らせたジャスミンが雄一を射殺すように見つめるが雄一は涼しい顔で受け止める。


「たまたま、親の問題、貧富の差、なんでもいい、それが目に付いた運の悪いヤツ、まあ、ここまではもう1つでも言えるかもな。問題は次だ。イジメられても、機会があってもそれをする側になろうとしないヤツ。弱い立場の気持ちになれるお人好しだ」


 このパターンの子がジャスミンのように力を得ても、みんなの為にという考えで力を使うように考える。


 中には行き過ぎる子がたまに現れ、勧善懲悪とばかりに片っ端から悪人を裁くという力づくの行動に出るのもいるが、矯正の可能性が残る。


「だが、もう1つのパターン。そう、お前みたいなのはイジめられるのは嫌だがイジメる側になって優越感は味わいたいと思うタイプだ。お前は同情から手を差し出された手を同情はいらないと手を弾き、間違ってるのは自分でなく、世間だと怨嗟の言葉を吐いて生きてきたんだろ?」


 雄一が言った言葉を聞いたジャスミンは悔しげに歯を食い縛り、視線を逃がす。どうやら心当たりはあったようである。


 良くいる寝取りはしたいが寝取られは嫌だという理不尽な考えと似ている。


 想像するぐらいまでは趣向だから致し方がないが、そこで実行するかどうかが分水嶺である。


「お前はたまたま、イジメられる側になっただけのイジメをするヤツと同じ存在だ。俺はイジメる側には容認する領域はないと考える。例え、自分がイジメられるのが嫌だからイジメるヤツの側にいただけ、と言う奴も認めない」


 雄一が言うように実行してしまったジャスミンは進退窮まったようで、半笑いを浮かべると「死ね、死ね、死ね」と壊れた玩具のように呟き続ける。


 もう言葉が無意味と諦めの溜息を零した。


 それと別に先程から目に映る変なモノが気になってたのでジャスミンを放置してシホーヌに声をかける。


「なぁ、シホーヌ。あの女から出てる糸みたいなの、天に伸びてるヤツはなんだ?」

「見えるのですぅ? あれはあの女にチートを与えてるヤツに繋がってるのですぅ。あの糸を切れたらチートは勿論、この世界に存在できず、元の世界に強制送還ですぅ」


 シホーヌの声が聞こえたようで死ねと呟いていたジャスミンが驚愕の表情で凍らせてこちらを見ていた。


「それができたら、あの女には一番堪えるだろうな」


 そう言うと雄一は手にある巴に話しかける。


「巴、いけると思うか?」

「別にわっちの力を貸さんでもご主人なら1人でもできるとは思うが……」


 雄一の肩に銀髪のキツネ耳と尻尾を生やした花魁姿の幼女が現れる。


 現れた巴を見たアリアとミュウが「ああっ!!」と大声を上げたのでびっくりして雄一は振り返るが巴は余裕の笑みで手を振ってみせる。


「じゃが、ご主人とわっちの力を合わされば糸の先のヤツに宣戦布告替わりのキツイのを送る事はできるじゃろうな?」

「それはいいな、さすがは巴だ、俺の事をよく理解してる」


 巴に笑みを見せる雄一からアリア達に視線を向けて悪戯をする子の笑みを浮かべる巴。


「当然じゃろ?」


 そう言うと雄一の頬に唇を当てる。


 それを見たアリアとスゥとミュウは大声を上げて騒ぎ出す。


「巴、子供達で遊ぶな」

「すまんのじゃ、小娘達が良い反応するのでな」


 コロコロとした笑い声を零す。


 緩んだ表情から一転、獰猛な笑みを浮かべる雄一は巴に声をかける。


「いくぞ、巴」


 雄一の言葉に頷くと巴は青竜刀に戻る。


 そして、左手に抱くレイアを治療の終えたアクアに預けると雄一は自分の中のリミッターを解除していく。


 瞳を金と青に輝かし、それが溶けあうようにして混じり合う。混じり合った色はイエローグリーンライト色に落ち着くと全身をその色のオーラで包む。


 その姿を嬉しげに見つめるシホーヌとアクア。


 普段は緩い瞳をして感情の起伏が乏しいエリーゼが頬を紅潮させる。


「綺麗、ユウイチのその魂の色、好き」


 そのオーラを巴にも纏わすと雄一は天を睨みつけて叫ぶ。


「こっちの世界で何かやる気ならまずは北川家に菓子折り1つでも持って挨拶にきやがれぇ!!」


 そう言って巴を振り抜くと雄一のオーラの色をした衝撃波がジャスミンと繋ぐ糸の根元を狙うように飛んでいくと糸が霧散する。


 霧散したと同時にジャスミンが切なげな声を上げて目尻に涙を浮かべる。どうやら力の喪失を感じたようである。


 体も透け始め、「嫌だぁ!」と騒ぎ始める。


「もう手遅れまで進行してるかもしれんが、自分からも歩み寄って理解者を作れ。みんながみんな、自分を受け入れてくれる素晴らしい世界なんてない。今度は少数でいい、友達と呼べる存在を作る努力をしろよ?」


 消える間際まで雄一に怨嗟の声をぶつけきたジャスミンを見送った雄一は目を伏せる。


「やり切れないな……」


 自分の不甲斐なさと、届かない言葉に溜息を零す事で気分を切り替えて、心配げに雄一を見る者達に笑みを浮かべた。

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       雄一の孫の世代             こちら亜人ちゃん互助会~急募:男性ファミリー~  どちらも良かったら読んでみてね? 小説家になろう 勝手にランキング
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