173話 暴走らしいです
評価して頂いた方が300人を記録しました。有難うございます。
とりあえず、お決まりのタマに負けないダンスをして喜んでおります(笑)
「嘘や冗談じゃない……そんな事言う理由もないか……」
「正確に言うなら、この場で取り押さえられるなら、拘束でも構わないのですぅ。野に放つと次、出会う時は子供達は勿論、ホーラも人格を破壊されて人形にされるのですぅ」
後顧の憂いを取り除くなら一思いに仕留めるのがいいのはホーラも理解できた。中途半端に生かして逃げられたら、目も当てられない。
ホーラもただでは済ませないとは思っていたが問答無用に命を刈り取って良いのか僅かなりの躊躇を見せた。
それを見たアクアが悲しそうな顔をしながら言葉を紡ぐ。
「それに、あのドラゴンを呼び出せて、尚且つ、地竜があれだけ呼び出せたという事は100人近い人の命を捧げたはずです。もう人として真っ当に生きるのは無理でしょう」
戦争や戦いでの命のやり取りであれば、良くはないが致し方がないところがある。
命を奪い、自分の命を明日に繋げる為、家族の為と自分を偽る事で心を守れる。
だが、ジャスミンは人の命をエネルギーのようにしか見ていない。誰かの為にという訳でもなく明日を生きる為でもない。
鬱積した感情を吐き出す為にやっている。
たまたまであるがテツとのやり取りや、レイアの声かけを受けても、躊躇する様子すらない。
つまり、人として人の和に混じれない所まで行ってしまった事を示していた。
「辛い役を押し付けてごめんですぅ」
「いいさ、ちっちゃい奴らは勿論、テツもなんだかんだ言って女には甘いさ。この場でそれを実行に移せるのはアタイだけさ」
肩を竦めるホーラはジャスミンがいる方向に体を向ける。
そんなホーラにアクアは声をかける。
「だからと言って、ホーラが傷つかないという話じゃない、という事をシホーヌは謝ってるのですよ?」
そう声をかけてくるアクアとシホーヌを交互に見て背を向ける。
「有難う」
そう呟くとホーラはジャスミン目掛けて飛び出す。
投げナイフを取り出すと躊躇も見せずにジャスミンに放つ。
ジャスミンは気付かなかったが、ドラゴンがホーラの投げナイフに気付き、尻尾で薙ぎ払い、ナイフを弾く。
それでやっとホーラに狙われたと気付くジャスミン。
恐怖に顔を歪めながら、甘ったれた事を口にする。
「ヒィィ! 操ってる奴から攻撃するなんて、邪道よ!」
「はぁ? 殺し合いで急所を避け合って戦うなんて有り得ないさ? テツ、ドラゴンはアンタがしっかり抑えておきな!」
「分かりました。ドラゴンはお任せください。そちらはお願いします」
そう言うとテツは更に加速させてドラゴンを翻弄しながら、鱗をどんどん傷つけていく。
更に加速したテツを見て、ジャスミンは叫ぶ。
「コイツ、何者よ! どんなチート持ってるのよ?」
自分が持ってない能力をテツが持ってると思って、羨望を通り越して激しい嫉妬に身を焦がす。
そんなジャスミンの二の腕にナイフが刺さる。
「ぎゃぁぁ!! 痛い、痛い、痛い!!! 始めるって言ってないのに横を向いてる状態の私に攻撃するとか、頭がおかしいでしょ!!」
涙だけではなく、鼻水も垂らし、見るに耐えない顔を晒すジャスミンを相手にしているように見えないホーラは投げナイフの調子を調べるようにしながら答える。
「何度も同じ事を言わせるんじゃないさ。試合じゃない。アンタが不意打ちするのは良くて、されるのは駄目とか……アンタが背後から刺し殺した村長達に謝ってくるさ」
「私はいいの! だって主人公だから! だいたい死んだ奴にどう謝れと言うの?」
痛みから脂汗を流しながらも、まったく自分の言ってる事に間違いはないとばかりに悪態を吐いてくるジャスミン。
力みのない顔をしたホーラが、簡単だとばかりに両手に投げナイフを持ちながら答える。
「分からない? じゃ、アタイが謝らせに行かせてやるさ」
2本同時にナイフをジャスミン目掛けて投げる。
ジャスミンは情けない声を上げながら逃げ惑い、掠らせた痛みに声を上げる。
動きが明らかに素人なジャスミンをいたぶるように攻撃しているように見えるが、実の所は違った。
ホーラは今の攻撃で仕留めるつもりで投げ放っていた。
先程の腕に刺さったナイフも本当なら胸を一突きさせている予定であった。
ホーラは、雄一と出会い、投擲の才能を見出されてから一日も欠かさず腕を磨き続けてきている。
たかが、10m程しか離れてない距離で遅く、素人な動きをするようなジャスミンに狙いを外されるようなホーラではない。
武器も時間が空き次第、1日何度となくチェックをしていて不具合などはないと思いつつも、最初にナイフの調子を疑った。
投げる前にチェックした投げナイフには、なんら問題がないのは分かった上で投げたら、掠らせるだけで避けられる。
だが、チェックした投げナイフを投げる時に見つめたジャスミンを見た時、違和感があった事にホーラは気付いた。
この感覚には覚えがあった。
雄一やテツが使う歩行をされた時の距離誤認に似ていた。
おそらく、ジャスミンの心理操作が無意識に発動してるのだろうとアタリを付ける。
かなり厄介な能力である。
意識せずに発動してるようで、ホーラのような遠距離型の天敵かもしれない。使いこなしてない今ですら、この厄介さを考えると時間をかける訳にはいかないとホーラは判断する。
未だ、歩行の完全に打ち破る術はホーラにはない。
だが、1つだけ打開策だけは持っていた。
ホーラは投げナイフを掴めるだけ掴むとジャスミンがいる方向に適当に投げるように放つ。
それを何度も繰り返すホーラを見て、嘲笑うジャスミンは少し余裕を取り戻したようだ。
「何、貴方? まともに狙いもつけられないのに投げナイフなんて使ってたの? カッコイイとかが理由? 中二、乙ぅ!」
痛みから脂汗を流しながらも、ゲラゲラと笑うジャスミンであったが、不意に笑いを止める。
何故なら、ホーラが投げるナイフが前方の空中で止まり出した為である。
慌てたジャスミンが辺りを見渡すと後方も左右も刃をジャスミンに向けた状態で空中待機しているのに気付き、声を震わせる。
「アンタ、何をやってるの……」
ホーラはその言葉に反応せずに、まだ隙間がある場所にナイフを放り続ける。
「どこから、そんなにナイフを出せるのよ! もしかして、アイテムボックス持ち!?」
「はぁ? これは女の嗜みさ。教わった相手がシホーヌというところは色々、思う所はあるさ。でも、ようは使いこなすかどうかさ」
実のところ、教わったものの理屈はホーラ自身も分かってはいない。
だいたい教えたのがシホーヌで、
「ここがこうして、ズバッとですぅ! 違うのですぅ、それだとスパッとですぅ!」
といった感じで教わってる本人がさっぱり理解できなかった。
だが、数々のシホーヌ語を聞かされて、いい感じに脳がとろけ出して、ハッと我に返った時、できるようになっていたらしい。
そのおかげで無制限とは言わないがカバンを背負ってるぐらいの容量を持ち歩く事に成功していた。
閑話休題
最後の1本を投げたホーラは震えるジャスミンを見つめる。
「アンタ、何しようとしてる! この笑えない状況は何っ!!」
ジャスミンを覆うように全方向に浮いたナイフがジャスミンに狙いをつけていた。
そう、間隔がおかしくなってるなら、逃げ場がなくなる全方位からの一斉攻撃をすればいいという暴力的な、とてもホーラらしい考えである。
「もう避けようと思わないさ? 潔く終わりさ」
「このクソアマがぁぁ!!!」
そう感情を爆発させて叫ぶジャスミンを中心に力の奔流が起こり、暴れ始める。
それを見たシホーヌがアクアに頼む。
「アクア、子供達を守る結界をお願いするのですぅ!」
「はいっ!」
そうすぐに返事すると頭を抱えてしゃがむ子供達を覆う結界を生み出す。
結界に覆われて頭を抱えてた子供達は周りを見渡しながら立ち上がる。
「何が起こったの? 急に頭に手を突っ込まれたような感覚に襲われたの!」
そう呟くスゥに他の子供達も同じように思ったようで頷いて見せる。
「間に合って良かったです。もう少しで貴方達はあの女の操り人形にされるところでした」
「えっ? そうなるとホーラ姉さんとテツ兄さんも危ない?」
アクアの言葉にアリアが答えるとその可能性に気付いた子供達が2人を見つめる。
見つめる先には頭を抱えた2人が蹲っていた。
ホーラは苦痛に歪んだ顔をしつつも待機させてたナイフをジャスミンに放つが隣にいるドラゴンが発するエネルギーに弾かれる。
それを見たレイアが飛び出そうとするのをアクアが止める。
「待ちなさい。貴方がこの結界から出たら操り人形にされますよ!」
「で、でも、ホーラ姉とテツ兄がぁ!!」
涙を浮かべてアクアの手を振りほどこうとするが、アクアは頑として離さない。
「大丈夫です。シホーヌが向かってますから、2人が受けているモノに対処するはずです」
そう言いながらアクアが見つめる先ではシホーヌが走りながらホーラ達に駆け寄る姿があった。
駆け寄ったシホーヌは2人に触れ、神気を送り、正気に戻すと結界を張り、その中へと2人を引きずりこむ。
「2人共、大丈夫ですぅ?」
「あっ、はい、なんとか、ちょっと記憶が飛んでるところがありますが……」
「脳を掻きまわされたような感じで吐きそうだけど、一応、無事さ。あれがシホーヌが言ってた心理操作?」
言葉からのイメージから、かけ離れた威力を放ってるように思ったホーラが質問すると頬に汗を滴らせたシホーヌが告げる。
「違うのですぅ。暴走して、上位版に切り替わったのですぅ。心理操作は勿論、心、体のリミッターを解除させることまでできるようになってしまったのですぅ」
本当に猶予が無くなったと悔しそうにシホーヌは呟く。
それを見たホーラはテツを見つめる。
見つめられたテツは苦笑しつつ、
「勿論、お付き合いしますよ」
と告げるとホーラは、
「有難う、アンタのフォローにはいつも助かってるさ」
いつもなら決して言わないような愁傷な言葉が漏れる。
そんな2人のやり取りがおかしいと思ったシホーヌが2人を交互に見つめる。
「シホーヌさん、子供達を連れてここから避難してください」
「どうすると……まさか! それは駄目なのですぅ! ここまで進行したらユウイチが来るまで逃げるしかないですぅ!」
命をかけて、ジャスミンを止めようと腹を括った2人の気持ちを理解したシホーヌが必死に説得しようとする。
「心配してくれて有難いさ。でもね、アタイ達がやらないといくらアンタ達がいても子供達が無事逃げれるかアヤシイさ、それに……」
「そう、僕達を僕達にしてくれたユウイチさんは言いました。「取り返しがつく無茶はいくらでもやれ、取り返しがつかない無茶は覚悟を決めてから」と、これは覚悟を決める必要があると僕達は思います。もう、僕達は覚悟を決めたんです。みんなをお願いします」
そう言うと2人はシホーヌの結界から飛び出していく。
2人を止める為に動こうかと一瞬、悩むが2人の想いを無駄にはできないと判断したシホーヌは目尻に涙を浮かべながら、必死に結界を張るアクアの下へと走る。
「ユウイチのバカっ! もうちょっと融通が効いて、命惜しさに尻込みするような教育をしとくのですぅ!!」
この場にいないユウイチに文句を告げると袖で涙をシホーヌは拭った。
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