160話 未だ癒えぬ傷跡らしいです
なんかアイ○ス、とか言われてなんとなくテツのプロポーズ話でも書いてみようかな?とか思い始めて書いちゃいました(笑)
短編で書いてるので良ければ読んでみてね?
削除も簡単そうだしね(笑)
馬車の後方で座るシホーヌとアクアが流れる景色を見ていて思い出したようで顔を見合わせ笑い出す。
それに気付いたスゥが首を傾げて問いかけた。
「どうして笑ってるの?」
「良く考えたらこの4年間でユウイチがいない状態でダンガから出たのってまだ2回目だったな、と思ったのですぅ」
「普段はそんな事が気にならない程、毎日が楽しくて忘れてましたね」
また楽しげに笑い出す2人を見たスゥは1回目を聞いていいのかと悩み、隣にいるアリアに視線を向けると頷かれる。
「確か、前回のお出かけはホーラ姉さんとテツ兄さんとポプリさんの同行者として着いて行った、あの結界の材料取りよね?」
「ええ、ベへモスの象牙を取る為に出かけた時ですね。あれは大変でしたね。元とはいえ、地の精霊の眷属であり、家で惰眠を貪ってばかりのアイナの部下だったのが野良化したものでしたから」
アイナの部下と聞いて、きっと管理してなくて放置してて、そうなったんだろうな、と痛いほどはっきりとレイア達に伝わる。
何せアイナは寝ると1週間は寝ぱなしで、お腹が減ったから起きて食べたら寝るというサイクルで生活しているグーダラ精霊獣である。
雄一の下に来たのも、「養ってくれそう、だから、寝てるところを好きに襲ってくれていい」とはっきり伝えるほどの残念な精霊獣である。
どっかの電波娘と同じ事を言っているせいか仲が良く、一緒に寝てる姿が良く見られた。
これでも4大精霊獣の一番の格と力の持ち主という馬鹿にしたようなスペック持ちである。
雄一にとっても一番扱いやすい相手なので助かっている。
なにせ、寝床とご飯さえ与えておけば問題ない相手である。
「そういえばさ、あの時、何かあった? ホーラ姉とかに聞いても適当にあしらわれたんだけど」
レイアが思い出したように2人に問うが2人は顔を見合わせるとこう答えた。
「ホーラ達が話さないなら私達から話す事はありませんね」
「とりあえず大変強い相手だったということですぅ。ユウイチが倒したドラゴンのように強くはないけどぉ、地竜ぐらいには強い相手だったのですぅ」
教えて貰えなくて不満はあるが、それとは別に5人の心に響く内容がシホーヌからもたらされた。
ホーラとポプリが11歳、テツが10歳の3人で地竜クラスの相手を屠ったという事実である。
自分達がその年齢になった時に同じように勝てるだろうかと思い、握り拳を作ってしまうほど力が入る。
長く見積もっても後3年である。
まして、ホーラとテツは雄一に指導受ける前はずぶの素人、教わった期間も1年どころか半年程度である。
なのに自分達は雄一に指導を受けるようになって2年も経つのにこの開きに少し悔しく思ってしまったのであった。
重くなった空気を嫌ったレイアが大声を上げる。
「ああっ、もう! 悔しいけど……アタシ達はアタシ達で頑張るしかない!」
悔しげに唇を尖らせるレイアを見て4人は相好を崩す。
「そうね、私達は私達、今はユウさんの指導を真面目にこなすだけ」
「うん、きっとユウ様が私達を導いてくれるのぉ!」
手綱を握るダンテは笑みを浮かべて頷き、ミュウは、頑張ると言った後、空に向かって遠吠えをした。
そう言う割に雄一の許可を取らずにこうして依頼に出ている事を棚上げする辺り、色々と幼い子供達である。
それを見てたシホーヌとアクアが顔を見合わせて首を傾げる。
「もしかして、主様から何も聞いてないんですか?」
そう声をかけられた5人は揃って息が合ってるが見て分かるように同時に振り向き、「えっ?」と言ってくる。
それを見て笑うシホーヌが言葉を繋ぐ。
「ホーラ達を意識してたのは知らなかったのですぅ。でも、貴方達はまだ本格的な訓練は受けてないのですぅ」
この言葉に5人は驚いて絶叫するように声を上げる。アリアがこんな声を出す事すら珍しい話である。
その高い声にやられたシホーヌとアクアが目を廻し、シホーヌはそのまま倒れ込むので放置し、目を廻していて倒れてないアクアの肩を揺さぶってレイアが説明を求める。
アクアが「揺らさないでぇ~ちゃんと話すので~」情けない声で言うのでレイアは渋々揺らすのをやめて手を離す。
「ふぅ、つまりですね? 今の貴方達の戦闘スタイルは確かに貴方達の適性を考えて一番のモノを主様が選んでます。ですが、今の貴方達は基礎を徹底的にやっているのですよ」
基礎をやらされてるとは分かっていたので5人はアクアを促す。
「あくまで適性がそれというだけで、今後の成長で得手不得手が出てきます。その成長の仕方で不得手を潰す育て方をするほうがいいのか、得手を伸ばす育て方がいいのかは今の段階では分からないのです」
普段、気楽にあれこれと指示されて、時折、殺す気か! と叫ばされる雄一の特訓に後先をそこまで考えられているとは考えてなかった5人は自分の掌を見つめる。
「ホーラ達は、それが見え始めていた時期だったから同時並行で進みました。ですが、貴方達は下地作りから徹底的にされている。確かに今はパッとしないかもしれない。ですが、将来的にホーラ、テツをも超える可能性を秘めています」
自分の体にそうなのかと問いかけるように掌を握ったり開いたりしながら、今までの雄一の指導を思い出す。
そして、アクアの言うように本当にホーラやテツを超える可能性があるのかと不安が過らせているとアクアが再び、口を開く。
「もっと信じてあげてください。貴方達を指導している主様を、何より、自分自身の可能性を。貴方達の血肉には主様の貴方達を信じている想いも込められているのですから」
お互いの顔を見合わせる4人と馬車を操るダンテは嬉し泣きをするように服の袖で涙を拭う。
雄一に信じて貰えてるという想いからアリアとミュウとスゥは喜びを前面に出す。
だが、そんな4人を見つめて何かを思い出すよう空を見つめる。
「信じるか……」
ボソッと呟くと時折、思い出してしまう言葉が脳裏に過る。
「俺だろうが、テツだろうが、誰もいい、それをキッカケにして、自分を信じてやるんだ。そうしたら、神様がレイアにちょっとだけチャンスをくれるさ」
以前、雄一がレイアに贈った言葉である。
レイアはこの言葉を思い出す度に否定する。
そんな都合の良い話なんてないと。
こんなにお父さんが元の優しさを取り戻して迎えに来てくれると信じてるのに、ちっともチャンスをくれない。
だから、レイアは思う。やっぱり信じてもチャンスなんてこないんだ……と。
1人、膝を抱えてその膝に顔を隠して身を縮こまらせた。
そして、夕暮れ時になった頃、レイア達は依頼のあった漁村に到着した。
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レイア達が漁村に着いた頃、ナイファ国のある一室で雄一達とゼクスは会っていた。
雄一はゼクスから渡された資料を窓際で凭れながら呼んでいると話しかけられる。
「今回の件も大事ですが、個人的にお願いしたい事があるんですよ、ユウイチ父さん」
「聞くだけは聞いてやるぞ?」
そう言いながらも資料から目を離さない雄一にゼクスは話しかける。
「お母様とスゥの事です。あの2人に挟まれる立場の僕、結構大変なんですけど?」
「それは何もしてやれんな。良い勉強だと思って苦しんで俺への被害を抑えてくれ」
シレっと責任転嫁をしてくる雄一に苦笑いを浮かべる。
ゼクスとて、ここで俺に任せろ、という雄一の姿など想像すらしていなかったので、ただの父と子の戯れぐらいのつもりである。
「良い勉強になってるだろ? 俺は本気で大変だ」
「ええ、僕は結婚相手は1人以外取る気はありません。絶対に妾など取りませんとも!」
ゼクスの言葉はまさに魂から零れ落ちるが如くのマジトーンで言うのを聞いた雄一は「英断だ」と頷く。
自分が反面教師としてゼクスに役に立っていると思える事だけが救いである。
だが、王族のゼクスには大変な道程である。
「そういう意味ではテツ兄さんは、こうなんて言ったらいいか分かりませんがクキっとやりたくなりますよね?」
「ああ、今のアイツは幸せ街道一直線だからな。心配するな、俺が責任を持って地獄を見せておく」
雄一の力強い言葉を受けて、胸が梳く思いゼクスは楽しげに頷く。
そして、資料を読み終えた雄一が気持ちを切り替えたかのように鋭い視線でゼクスを見つめるとゼクスも緩めていた頬を引き締める。
「この資料の内容はどの程度、裏が取れてる?」
「ほとんどが取れてないのが実情です。ステテコにも頼んで調べて貰ってますが、余りに範囲が広く散発的な為、今までたまたまと思われていた事ですから」
雄一は、「だろうな……」と呟く。
渋い顔をしたゼクスが雄一に視線を向ける。
その視線を受け止めた雄一は、まだ、この資料以外にもあるのかと察して、言葉を促す。
「裏どころか見た本人ですら疑っているレベルの情報なんですが、ドラゴンもいたという情報もあります」
「リューリカ、悪いが火の精霊神殿に行ってくれ。ホーエンにも手伝わせる。最悪のケースだとすれば時間をかける訳にはいかない」
「分かったのじゃ。わらわはそのままアヤツを手伝えば良いのか?」
リューリカの言葉に頷いてみせる雄一。
窓から飛び出していくリューリカを見送ると雄一もまた窓から出ようとしたところを後ろからゼクスが話しかけてくる。
「毎回、ユウイチ父さんに任せきりになって……僕に力がない為に……」
「ガキが偉そうな事を言うな。お前はお前の戦い方があるだろう? 全てができると思うのは傲慢だ。こっちは俺に任せておけ、お前のやるべき事は分かってるな?」
情けない顔を見せるゼクスは、口の端を上げる力強い笑みを見せる雄一に釣られるように笑みを浮かべ、ゼクスは頷いてみせる。
「はい! 新しい情報が入り次第、使いを出します」
ゼクスの言葉に頷いてみせて、「それでいい」と笑って見せると窓から飛び出していった。
窓辺に寄り、雄一が遠くなっていくのを見送っているとノックを忘れた自分の母親が飛び込んでくる。
頬は紅潮しており、明らかに湯上りで急いで身嗜みを整えたのが見て分かる。うなじから伝う後れ毛は、色香を感じさせる。
齢も25になるが、普段の涙なしでは語れない努力のおかげか、10代の少女達と一緒に置いても違和感を感じさせない美貌と10代にはない色香を振り撒いていた。
「ユウイチ様は?」
ゼクスの両肩を掴む母親の迫力が逆に笑いを誘い、クスクスと笑い出す。
笑うゼクスに苛立ったミレーヌは更に揺らして問うと呼吸困難になったゼクスが息絶え絶えといった有様で語る。
「ゆ、ユウイチ父さんは、た、タッチの差で出られたところです、ブフゥ」
やはり我慢できずに、噴き出してしまい、ミレーヌの目尻に涙が浮かぶ。
「何度、お手紙を出しても返事はあっても来て下さらないのに、どうして、貴方の手紙には毎度のように顔を出してくれるのでしょう?」
「僕のは、政務の話ですから」
ミレーヌは、「私のも国を動かす基盤となる重要な政務ですっ!」と憤慨するが、そんなのは建前と知ってるゼクスは笑いが収められない。
「こうなったら貴方の名前と使って呼び出しましょうか?」
「それは止めてください。大事な話の時に警戒されたら大変です!」
真剣に止めるゼクスに「冗談に決まってるでしょ?」と唇を尖らせる姿は、少しぐらいいいじゃない、と言いたげな空気があり、止めて良かったとゼクスは胸を撫で下ろす。
それからしばらく、親子漫才のようなかけ合いが続いて、ゼクスにとって良い息抜きになった。
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