157話 休日出勤、家族サービスは今度らしいです
台風やら雨が増える今日この頃ですが、季節の変わり目というやつですかね~
ポプリの手紙を読み進める度に雄一は唸り続ける。
そんな雄一がコメカミを掻いて困った顔して手紙から視線を上げたのを見計らってホーラが声をかける。
「ポプリはなんて?」
そう言いながら、雄一の傍にやってきたホーラは許可も取らずに雄一の手から手紙を奪い取る。
雄一もまた守る気があった訳ではないので色々諦めた顔をするのみである。
奪ったポプリの手紙を読み進めていくと唸った雄一と違い、進めば進むほど、呆れ、半眼になっていく。
「ついにあの馬鹿、言葉を選ばなくなったさ……」
ポプリの手紙にはこう書かれていた。
『再三のお誘いのお手紙をお送りしましたが、来て頂けないのは、全てを求める強欲な私のせいと理解しました。
なので、女王としての恥ずかしくない振る舞いを持ってお伝えしたいと思います。
細かい事はいいです。
ただ、私を孕ましにパラメキ国にいらっしゃってください。
私はいつでも準備万端、お肌を磨いてお待ちしております。
以前にユウイチさんは仰いました。出されたモノは食せ、と
運が良ければ1度で済みます。痛くないので大丈夫です。
そうそう、関係ない話ですが、良いお香を手に入れました。男性がとても男らしくなるモノとの話です。とても珍しいそうなので、それだけでも体感されにおいでませ、ええ、決して何も致しません。ポプリは嘘を申した事はありませんので……
貴方の愛人のポプリより愛を込めて』
頭を抱える雄一がホーラを見つめる。
「どう思う?」
「どうもこうもないさ。行ったら最後、ポプリが満足するまで逃がさないに決まってる。一番、呆れるのが、嘘を申した事は、とか突っ込み待ちかとアタイは思わず手紙を破りそうになったさ」
怒りを露わにするホーラの手元にあった手紙は既に紙吹雪のように床に落ちていた。相変わらず、感情的になると口より先に手が出るところはまだまだである。
ホーラの怒りの形相にビビった訳ではないが目を反らすとアリアが視界に入る。
「それは明らかな罠。行っちゃ駄目、ユウさん」
ウィンナーを突き刺し、ガブッと齧りながら言ってくる。
最近、アリアもそういう事を口にするようになってきた。これが成長かと嬉しくもあったが、どうもアリアに対して邪推が混じるようになったと雄一は苦悩する。
将来、お父さんのお嫁さんになる、的な話だと思っていたのだが、アリアの隣で憮然な表情をするスゥの様子と兼ね合わせると不安になる今日この頃である。
「ポプリさんの手紙と一緒に来ていると考えるとお兄様の手紙もお母様絡みじゃないかと疑ってしまうの!」
ブツブツの呟くスゥは、 「お母様もいい加減諦めたらいいのに!」と憤慨したと思えば、満面の笑みを雄一に向ける。
「ユウ様、お母様相手は後2~3年頑張ってのらりくらりと避けて欲しいの。別に王家に血を入れる相手は何もお母様である必要はないのぉ!」
染まる頬を隠すように手で覆うスゥは、はにかむ。
いつからであろう。
スゥが雄一の事をユウパパからユウ様に呼び方を変えたのは何時のことだろうか、と頭を悩ませる。
雄一の記憶違いでなければ1年ほど前からだったと記憶するが、その頃から妙にアリアとの距離が近寄り、喧嘩したり、仲良くし出したりと忙しくなったように思う。
何故か、2人を見ていると初めて行った王都から帰った直後のホーラとポプリを思い出してしまう。
きっと気にし過ぎかもしれないと雄一は爽やかな朝の空を見つめる。
そんなスゥに雄一は曖昧な笑みを浮かべながらゼクスの手紙の封を切る。
それを見ていた周りの者達は似たような内容だろうと思い、苦笑を浮かべる。
雄一もスゥの言う通りだったら嫌だな、と思いつつ目を通していく。
すると周りの予想を裏切り、雄一の読む目は真面目なモノになっていった。
読み終えた手紙を懐に仕舞うとエリーゼをどかして立ち上がる。
「シホーヌ、アクア。俺はしばらく家を空ける。留守を頼む」
「分かったのですぅ。お土産は忘れたら泣くのですぅ」
「はい、行ってらっしゃいませ。私は、甘いモノがいいです」
雄一の言葉に説明も求めず、反論もしないシホーヌとアクアだが、ちゃっかりとお土産を希望する。
そんな2人に苦笑いする雄一はレンに視線を向ける。
「子供達の勉強とあの2人のフォローを頼めるか? アイナも必要なら叩き起こしてくれ」
「はいはい、気を付けてね」
食事をとっくに済ませて、窓際で煙草のようなモノを吹かしていたレンに頼むと気軽にOKをくれた。
頼むべき相手には頼んだ雄一は立ち上がると対面に座ってた少女がテーブルを叩いて立ち上がる。
「ちょっと、待てっ!」
雄一を止めたのは意外な事にレイアであった。
そんなレイアを見て、あっ、と呟き、バツ悪そうに頭を掻く。
「今日はこれから冒険者ギルドに行って依頼を受けて連れて行ってくれるって話だっただろっ!」
最近、訓練が順調に進んできたので実践も交える事で雄一が依頼を受けて、レイア達にやらせて監督するという事をやっていた。
冒険者は10歳からしかなれず、まだ冒険者になれないレイア達なのでこういう方法でしかできない為である。
今回で4回目をする予定であった。
自分達の力を知る機会としてレイア達はとても楽しみにしている。取り分け、レイアはすごく楽しみにしてた。
ブゥ、と拗ねる顔をするレイアにタジタジになる雄一は後ずさる。
「スマン、緊急なんだ! リューリカ、エリーゼ、悪いが2人は俺に着いて来てくれ」
もう1度、手を合わせて謝る雄一は自分の所にやってくるリューリカとエリーゼを連れて玄関に駆け出す。
逃げるように出ていく雄一を追いかけるように5人の少年少女は駆ける。
玄関を出ると水龍に乗る雄一が既に空を飛んでいた。
「バカ野郎!」
レイアの罵倒が青い空に響き渡った。
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雄一が飛び去った後、レイア達は玄関前に座り込み、難しい顔をしていた。
「くそう、せっかく楽しみにしてたのに! 今度こそ、討伐依頼を受けさせて貰えるはずだったのによぉ」
相変わらず、ブツブツと呟くレイアは、遊びに連れて行ってくれると言われてたのに仕事でドタキャンされた子供そのものである。
怒ってる内容が遊びに連れていって貰うではなく、討伐依頼というのが殺伐としているがレイア達もいつもそれを想定して訓練を頑張っているので仕方がないところである。
「仕方がないよ。ユウイチさんも色々しないといけない事もあるんだから……」
消極的に雄一をフォローするダンテだがレイアに睨まれて、涙目にさせられる。
何か手がないかと悩むレイアにミュウが提案する。
「ユーイが駄目なら、ホーラ?」
「その手があったっ!」
勢い良く立ち上がるレイアであるが、すぐに座りこむ事になる。
「ああ、無理。アタイとテツはコミュニティの尻拭いの為に2~3日かかるから連れて行ってやれないさ」
ホーラに聞く前に既に返事をされたレイアが力なく座り込む。だが、すぐに目を輝かす。
「ダン達に頼めば……」
「アイツ等は、パラメキ国の冒険者ギルドの救援依頼で昨日出たさ。どんなに早く帰っても1週間は無理だね」
ダン、トラン、ラルクは、1の冒険者昇格間際と言われるほどの冒険者に育っていた。
なので、指名依頼も良く入るが、ギルドからの指名は今回が初めてであり、息込んで出かけて行った。
おそらく、この依頼を無事果たせば、1の冒険者になるだろうと周りは思っている。
だが、北川家の面子は、おそらく1の冒険者の昇格を蹴るだろうと思っていた。
昔の3人なら緊張しながらも受けただろうが、今の心の傷が癒えない彼ら3人は自身が納得するまでなろうとはしないと北川家の面子は理解していた。
そんな事は知らない5人は気落ちする。レイアは絶望的といった表情を浮かべる。
そんな5人に「諦めな」と告げて、テツを呼ぶホーラは出かけていく。
つまらなさそうにホーラ達を見送る5人の後ろにシホーヌとアクアがやってくる。
「今日のお洗濯は済んだのですぅ」
「私も今日はスケジュールが空いてるんですよねぇ~」
脈絡もなく話し始める2人だが、アリアは嘆息すると視線を反らし、ミュウとスゥとダンテは首を傾げる。
誰にも相手にされず、固まる2人。
「よしっ! こうなったら、リホウとミラーに直談判だっ!」
「無駄だと思う」
バッサリとレイアの考えを切ってみせるアリア。
一瞬怯む様子を見せたレイアであったが踏ん張る。
「やってみないと分からないだろっ!」
唇を尖らせたレイアは意固地になり、冒険者ギルドへ向かって歩き出す。
そのレイアに嘆息するアリアは仕方がないとばかりに、シホーヌ達の様子を窺うミュウ達に声をかけてからレイアの後を追った。
アリアに呼ばれたミュウとスゥはすぐにシホーヌ達に興味を失ったようでアリアの横に行く。
しかし、笑顔で語り合ったままの状態でフリーズする2人を放置してもいいものかと悩むダンテだったが、4人の背中が遠くなってるのに気付いて慌てて追いかける。
取り残されたシホーヌ達の目尻に光るモノがあったが誰にも気づかれる事なく頬を伝った。
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