幕間 簡単な事と難しい事
ついに70万文字突破~
つくづく思うんですが、バイブルの目算ってアマアマですよ。
前作の高校デビューは書く前にこれぐらいの文字数で終わるだろうと思ってた文字数の3倍かかりましたよ(笑)
今作は、そろそろ……ば……げふんげふん(笑)
残念ながら文字数の予定は読み切れてません。しかし、ストーリーは、時折、雄一やテツが暴走してヒヤっとする事もありますが、ここまでのストーリーはタイトルを決める前に考えた通りに進んでおりますので、そちらは心配しないでくださいね?(笑)
「ヘックッシ!」
悪寒を感じて、くしゃみをすると身を震わせる金髪オールバックの男が自分の肩を抱くようにする。
「この感じはアニキじゃないですね……」
長い付き合いの悪寒と酷似している事に目を反らす男、リホウは溜息を零す。
ノンビリさせる気はないとばかりに横から飛び出してくるオークにうんざりした様子を見せながらも腰に下げている長剣で一刀で絶命させる。
「どうして、精霊がいるような場所はこうモンスターの強さと遭遇頻度が半端ないんですかね?」
長剣についた血を振り落としながら愚痴る。
以前に物見遊山で風の精霊神殿に行った時もそんな目に遭ったな……とリホウは項垂れる。
土の精霊神殿は行った事はないがきっと似たり寄ったりなのだろうと思う。
残る水の精霊神殿は、雄一から聞く限り周辺はそうであった事を聞いたが、風の精霊神殿が結構綺麗だったので、水の精霊神殿はどうだったかと雄一から聞いたリホウは、アクアに甘いモノを差し入れた。
雄一はこう言っていた。
「神殿? そんなものないぞ。泉の傍にコケだらけの神像があっただけだ」
その言葉を聞いた瞬間、水の精霊の扱いの酷さに演技ではなく目端に涙を浮かべるというレアなリホウの姿があった。
ちなみにリホウはアクアが水の精霊である事を疑っていない。
力に関してもそうだが、リホウが知る限り、精霊は総じて精神的に幼いところがあるという事を知っていた為である。そんなリホウにしても、アクアはギリギリだったようで信じるのに少しの時間を要した。
補足だが、リホウはシホーヌが女神というのは信じていない。単純に行いや言動からそう思っているのではなく、無神論者なだけである。なので、精霊の類だと思っていた。
などと考えていると火の精霊神殿が見えてくる。
それを見た率直な感想は、無駄に華美な装飾を施しているな、である。例えるならパルテノン神殿の柱に巻き付く龍の彫刻されているようなモノと言ったら伝わるだろうか?
やれやれ、と肩を竦めてリホウは火の精霊神殿へと足を進めた。
火の精霊神殿に入っていくと呼び止められる。
「今は立ち入りを禁止している。日を改めて出直せ」
その声がする方向へとリホウが顔を向けると、お坊さんの格好に少し似たような服装をし、剃髪の男前がこちらを見ていた。
その男を見て、リホウは、僅差で自分の勝ちと両手を使って髪を整えると話しかける。
「そいつは困りますねぇ。伝言の1つも届けられないようだと、さすがに折檻されても文句も言えませんのでね?」
肩を竦めるリホウに同情するように剃髪の男は目を瞑る。
「厳しい上役がいるようだな」
「ええ、とてもね。貴方も折檻を受けたから知ってるでしょ?」
思わずといった風に顔を顰め、眉間にキツイ皺ができる。
ニヤニヤしたリホウが、白々しく言葉を繋ぐ。
「あれぇ? 3日ほど前の事すら既にお忘れですか?」
「やはり、雄一の所の者か。アイツの関係者だと追い返せないな。私の名前はホーエン、その様子だともう知っているようだが礼儀だからな」
イヤラシイ手を使う為に自己紹介をしなかったリホウを責めるようにホーエンは自己紹介を済ませると鼻を鳴らせる。
それに苦笑してしまったリホウは、素直に「失礼しました」と頭を下げる。
「私はリホウ。ユウイチ様のところでコミュニティ代表代理をさせて頂いております」
またもや、嫌な返し手をされたホーエンは苦虫を噛み締めたような顔をする。
ここは、リホウが嫌そうな顔をしながら渋々、挨拶してくるものと思っていた。なのに、笑み1つ浮かべて素直に謝辞し、自己紹介されてしまえば、先程の嫌味が子供の我儘のようになってしまうからである。
色々、諦めるように大きく息を吐くホーエンはぼやきを洩らす。
「あの男の敵に廻ったが最後という事か……これから先の事を思うと気が重いな」
「いえいえ、アニキはそんな小さな男じゃありませんよ。懐広き人ですから」
目を細めて口許に柔らかい笑みを浮かべるリホウを見て、楽しげに笑みを浮かべたホーエンが目を伏せる。
「なるほど、こちら次第という事か……すまない、立ち話もなんだ、たいした持て成しはできんが茶ぐらいなら出せる」
そう言ったホーエンは「こっちだ」と言うと無防備に背を向ける。
ホーエンの思いっきりの良い行動を見て、長い付き合いになるような楽しい予感を感じた。
▼
ホーエンに着いて歩く事、10分ほど歩く。
それなりに歩いていると自覚があるが目的地にはまだ着いてないようである。
この無駄に広い神殿を眺める。
水の精霊の神殿をここの一角に作ってやってくれないかと思いながら歩いていたら、雄一に言われていた転移させられた家がどうなったかという事を思い出したリホウが問いかける。
「転移させた家はどうしたんです?」
「もう元の位置に戻させた」
ホーエンの話では昨日の話らしい。
それから更に5分程歩くと大きな扉の前でホーエンが立ち止まる。
「中に傷心のアグートがいる。俺をからかったような言動は控えてくれ」
少しトゲを感じるが、雄一の折檻済みの女性を虐めるような趣味はリホウは持ち合わせてなかったので苦笑いをしながら頷く。
リホウの頷く姿を確認したホーエンが目の前の扉を開くと先導する。
中に入るとこれもまた無駄に豪華な作りで金銀を使った贅沢なモノではないが、彫刻や、壁や柱に施された掘りモノが手間暇かかっているのを感じさせる。
その奥に大きなクッションに顔から突っ込んでる豊かな赤い髪をポニーテールにしたチャイナドレスの少女がいた。
ホーエンの後ろを歩く形でそちらに向かっていると、こちらに気付いたようで少女が顔を上げる。
そして、ホーエンの後ろにいるリホウに目が行くとガバッと立ち上がる。
「しばらく、誰とも会わないって言ったでしょ、追い返してっ!」
追い返して、と言ったにも関わらず、火球を作りだす。
それを見たリホウは、傷心と聞いていたが、これほど余裕がない状態に追い詰めた雄一は何をしたのだろうと困った顔をしながら頬を掻く。
少女の行動にたいした反応を見せないホーエンが肩を竦めながら伝える。
「いいのか、アグート? そいつは、あの男の使いだぞ」
我を忘れたように反射で攻撃をしようとしていたアグートの活動が止まり、生み出され大きく成り始めていた火球も霧散する。
止まったと思ったのも一瞬で、カタカタと震え出すアグートは眉尻に涙を溜めていく。
クッションを掴むとそれを盾にするようにして隠れる。片目だけを覗かせる。
「わ、私はもう何もしてないっ! 悪い子から良い子になったの! だから、もう許してぇ!」
アーン、アーンと子供のように泣き出すアグートをどうしたらとホーエンを見つめるリホウ。
そのリホウに溜息を吐くと説明してくる。
「どうやら、あの男、雄一に叩きつけられた最後の殺気がトドメになったようでな。アイツ絡みの話になると幼児退行するトラウマになったらしい」
ここにいない雄一を思い、相変わらず容赦ないな、と苦笑する。
しかし、今回持ってきた話は、この状況を考えての話なのかと思えるような展開に驚く。さすがにここまで雄一が読み切っているとは、テツと別ベクトルで雄一信者のリホウといえど、ないだろうと思う。
それでも、なんとタイミングの良い展開である。
「火の精霊のアグートですね? 私はリホウと言います。アニキから伝言を預かってます」
「こ、怖い、聞きたくないっ!」
怯えてクッションに顔を沈めるアグートであるが近寄ったホーエンが震える肩に優しく手を置き、「聞かないほうが怖いと思うぞ? 大丈夫、俺も一緒に聞いてやる」と伝えると目だけをリホウに向ける。
2人に頷いてみせるリホウは、「悪い話ではありませんよ」と頷いてみせる。
「では、アニキの伝言を伝えますね。今回の戦争で生まれた戦災孤児、パラメキ国側だけで良いので引き取って成人とされる10歳まで育てろ、だそうです」
「……それだけで良いのか?」
リホウの言葉に拍子抜けをするように言うホーエンにリホウは呆れた表情を見せる。
ホーエンが傍に居る事でいくらか落ち着いたアグートはブチブチと愚痴り出す。
「どうして、精霊である私が人の子の面倒を見なくちゃならないのよ」
「やりたくなかったら、やらなくてもいいですけど、きっとアニキが飛んできますよ?」
再び、恐慌状態に陥るアグートを必死に宥めるホーエンが目でリホウを責める。
その瞳にリホウは被り振る。
「アグートには最初から呆れてたので特に言いませんが、先程のセリフは失望しましたよ、ホーエン」
悲しそうに見つめるリホウに「どういう事だ」と聞き返すホーエンに更に失望したようで、再び、被り振る。
「子供を育てるのが、それだけ、と言える貴方に失望したと言っているのです」
リホウの言葉をどう捉えていいか分からないホーエンが必死に頭を巡らせ始める。
だが、答えの片鱗すら見つからないようではあるが重要であると感じたらしく頭を下げてリホウに答えを求める。
それに応じるようにリホウは雄一に言われた言葉を告げる。
「アニキがパラメキ国と戦争になる示唆をした時に俺に言った言葉です。『戦争を始めるのは、子供を寝かしつけるより簡単だ。戦争を止めるより、親を悼んで泣く子の涙を止める方が難しい』です。分かりますか? この意味が」
当然のようにアグートにはさっぱり伝わっていないようだが、ホーエンにはひっかり程度には伝わったようである。
その様子を見たリホウは雄一の判断は間違っていないと頷く。
この2人は決定的に足りてないモノがある。確かに今は反省をし、次はしないと本当に思ってはいるだろう。
だが、この2人の常識、無意識の外側で不幸にする者を量産する恐れがある。
「やはり、アニキはしっかり見ている。貴方達がこの伝言をどう扱うかはこの場では聞きません。アニキには、これからの2人の行動を見守って貰うように伝えておきます」
そう言うと踵を返すリホウをホーエンが呼び止める。
「ちょっと待ってくれ! それはどういう意味なんだ」
訳が分からないとばかりに顔を顰めるホーエンにリホウは微笑んでみせる。
ここで微笑まれるとは思ってなかったホーエンは固まる。
「これは、俺の判断ですが、貴方達はアニキの伝言を実行したほうがいい。アニキがどうこうではなく、それをする事で貴方達に欠けているモノに気付ける」
そう言うリホウを止める言葉が思い付かないホーエンは部屋から出ていくのを見送る。
そして、来た道をそのまま遡るように歩くと無事に外に出る。
しばらく森を歩いて、火の精霊神殿が見えなくなった頃に振り返る。
「勝手して返事を聞かずに勢いで出てきましたが、折檻確定ですかね?」
情けない顔をするリホウであるが、その表情には後悔の2文字はなかった。すべき事をし、職務を全うしたと自負していた。
きっと雄一ならこの心意気を汲んでくれると信じるが、それはそれ、と言われて折檻される未来しか想像できないリホウは突然、声を上げる。
「しまった、お茶を御馳走になるのを忘れた……」
泣きっ面に蜂といった風に肩を落とすリホウは腰に下げている革袋型の水筒に口をして、革の匂いが染みついた臭い水に項垂れる。
格好を付けて久しぶりのまともな飲み物を飲み損ねたリホウは、ブルーになった気分を盛り上げる為に鼻歌を歌いながら雄一達が帰っていると思われるダンガを目指して歩き始めた。
当然のように鼻歌に釣られた神殿周りのモンスターに囲まれて、半泣きにさせられたリホウの話は語るほどの意外なものではなかった。
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