表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/467

13話 無事、冒険者になれました

 本当に高校デビューを読みにいってくれている人がいるようで有難うございます。良かったら、そちらの感想もくれても、ええんよ?(笑)

 ホーラとミラーが睨むように見つめる先にいる、無精ひげを生やした中年の二枚目といった感じの容貌ではあるが、どうも安ぽさが滲み出ていると感じさせる男がそこにいた。


 雄一はしゃがんだまま、少し様子を見ようと思ったようで静観していた。


「ダスク、ふざけた事言うんじゃないのさ、これは正真正銘、ゴブリンの耳さ!」


 ホーラはそう言うとミラーを見つめる。見つめられて頷くミラーが言葉を継いで説明する。


「はい、これは冒険者ギルドとしての目利きの判断で本物とだと断定させて頂きます」


 餓鬼の耳だと失礼な事を言うダスクを温度を感じさせない目で見つめる。


 ダスクは、ヤレヤレだと肩を竦めてホーラに近寄ると右手一本で胸倉を掴み持ち上げる。


「ホーラよぉ? お前がゴブリンと戦って勝てる訳ねぇーだろうが? そこの大男にでも体を許して、耳を分けて貰ったんだろ?」

「違うさっ! ちゃんと自分で倒したゴブリンの耳を剥いできたっ」


 胸倉を掴む男の手を必死に解こうともがく。


「そんな安売りせずに、俺が勧める娼婦をやれば、お前ならかなり稼げるぜ?」


 ホーラは「嫌だ!」と叫び、絶対に折れるものか、と男を睨む。


 コイツが、ホーラに娼婦になるのを斡旋していた奴かと、見つめる雄一の表情に冷笑が浮かぶ。


 立ち上がろうとしたミラーだったが、視線の端でイジケていた男が立ち上がるのを見ると眉間に浮いていた皺を戻し、おとなしく席に着く。


 雄一は、ホーラの胸倉を掴みイヤラシイ笑みを浮かべながらホーラを吊るし上げる右手の甲を左手で捻り、痛みから取り落とされたホーラを右手で受け止めて降ろす。


 痛みから、ギャーギャー騒ぐダスクの右手を掴み強制的に雄一は握手してくる。



 必死に雄一の握手から逃げようとしているようだが、耐えれる限界の強さで握られているダスクは、痛みからか恐怖からか、本人も何か分からないモノに背を押されるように顔を引き攣らせて脂汗を滴らせる。


 雄一は笑顔で、脂汗を流すダスクに気付いていないかのように振る舞い、礼を述べる。


「色々とホーラの心配して頂けているようで有難うございます。ですが、大丈夫です。ホーラはちゃんと冒険者をやっていけますので、娼婦に拘る必要はありませんよ」

「馬鹿野郎、4の冒険者である俺ができねぇって言ってるんだから、できねぇんだよっ!」


 4の冒険者? と疑問の声を上げると、後ろからミラーが声をかけてくる。


「冒険者のランクです。自分のランクを前に持って来て、職業を名乗ったり、名前を名乗るのが通例です」

「なるほど、つまり、その年まで頑張って、5から4にした経験豊富な貴方の肥えた目がホーラには無理と思われたと?」

「くっ、そう言う事だ。アイツには無理だってんだ」


 雄一を威嚇するように歯を剥き出しで叫ぶが、雄一には暖簾の腕押しのようで効果は、期待できないと感じたようで舌打ちをした。


 勿論、何の効果も及ぼせず、雄一は笑顔で、空いてる左手で指を鳴らすとダスクに提案してくる。


「では、ホーラがゴブリンを倒した方法を体感して頂き、それでも無理だと判断されるなら、冒険者ギルドに頼んで事実究明をお願いするということでどうでしょう?」


 雄一は、ダスクの返事を聞き返さずに周りを見渡す。


 ホーラ達が揉め出した辺りから、雄一達は視線を集めていた。


 それに気付いていた雄一が周りを見つめ、交渉を一旦止めてこちらを見つめる冒険者や、酒の肴にとばかりにニヤつく冒険者達に顔を向けて話す。


「皆さんはどう思われるでしょうか? 4の冒険者でベテランのダスクさんが言われるように、ホーラにはゴブリンを倒す事はできないと思われますか? どう思われるか分かりませんが断言できる方はきっといないのではないでしょうか?」


 雄一の芝居かかった物言いに呆れるように肩を竦める者や、酒場で管を巻いている本物のベテラン冒険者達が、雄一の意図を見抜きニヤつきを深めて「断言はできねぇーな」と叫んでくる。


 そのベテラン冒険者に頭を軽く下げ、ダスクに向き直ると、笑顔の雄一と対照的に追い詰められた表情をして忙しなく辺りを見渡すが、自分を擁護してくれるものはいないと気付き舌打ちをする。


「証明すりゃいいんだろうがぁ!」

「はい、お願いします」


 雄一は笑顔でそういうとダスクの右手を解放すると、酒場のほうに歩いていき、カウンターの中にいるマスターに問いかける。


「レモンない? あったら欲しいんだが?」

「ふん、面白そうな見世物をするようだから、くれてやるが、今度、飲みに来いよ?」


 雄一は「酒以外が置いてあるならな?」と悪戯小僧のような笑みを見せると、マスターに「酒飲めるようになって出直せ」とフンッと鼻を鳴らし、レモンを投げて寄こされる。


 レモンを受け取った雄一は、展開に着いて行けてないホーラの前に立つと笑みを浮かべて言う。


「さあ、ホーラ。ばっちり決めてこい」

「で、でも、失敗したら……」


 周りから注目されて委縮しているようで、若干青ざめた顔をしたホーラが不安そうに見つめてくる。

 雄一はレモンを持ってない左手でホーラの頭を撫でながら目線を合わせる。


「家の子にこの程度のプレッシャーで失敗するような子はいないぜ? 俺が誇りに思う家族だからな。ホーラ、お前はどこの子だ?」


 雄一の言葉を咀嚼するように深呼吸すると、口の端を上げて、雄一に挑むような笑みを見せてくる。


「当然さ、一発で決めてくるさ」


 ホーラは雄一が握るレモンを奪うようにして、ダスクに向き合う。その背中越しから雄一に声をかける。


「また、大学芋を食べたい」

「おう、また作ってやるよ」


 サムズアップして答える雄一に笑みを見せるホーラ。


 ダスクを見つめるホーラの目が、弱者の目から戦う者の目と変わり、ホーラの正面に立つダスクが、落ち着きをなくしたように慌てる。


 そんなダスクに意にも介さないホーラは、スリングを取り出すとレモンを装填する。


 酒場で酒を片手にホーラが何をしようとしているのか眺めていた冒険者達は興味深そうに見つめていたが、一部の者は何をしようとしてるか見抜いたようで、結果が見えたとばかりにダスクに憐れみの視線を送る者もいた。


 スリングを回転させ始めたホーラは、逃げ腰になってるダスクに向かって口を開く。


「剣を抜かなくていいのかい? 油断してるのなら、さっさと片付けてしまうさ?」


 ホーラの言葉で、やっと剣を抜いてない事に気付いたダスクを見ていたミラーがカウンターに凭れかかる雄一の背中に語りかける。


「勝負ありですか」

「ああ、ホーラに絡んだ時点でな」


 ホーラの圧勝だと、笑みを浮かべる雄一。


 これぽっちも、ホーラがしくじるとは疑ってない雄一は、愚か者の末路の未来を見つめていた。


 そして、雄一に未来視というアビリティがあるのかと問いたくなるような、寸分違わず、レモンをコメカミにぶつけられて昏倒するダスクの姿が冒険者ギルドで晒されて、仕留めたホーラを称える大歓声が響き渡った。



 倒れるダスクは放置されたまま、雄一達は依頼完了を手続きをミラーに取って貰っていた。


「はい、これで依頼完了を確認しました」


 そう言うとミラーは、ホーラに銅貨50枚を入れた小袋を渡し、中を確認させる。

 中に入ってる銅貨の数を数えて、あるのを確認して、ミラーにある事を告げると嬉しそうな顔をして雄一に振り返る。


「やったよ、ユウ!」

「おめでとう、ホーラ!」


 雄一は、本当に嬉しくてしょうがないと言った顔をしたホーラの笑みに釣られて笑みを深める。


 すると、ホーラは受け取った報酬が入った小袋を雄一に差し出す。


「はぁ? それは、ホーラの金だろ?」

「アタイの金は家族の金でもあるさ。ユウはアタイの何なのさ?」


 ホーラが赤面して言ってくる言葉に虚を突かれて固まりかけるが、ホーラが差し出す小袋を大事そうに受け取る。


「じゃ、預かるな? となると、ホーラのお小遣いについて考えないといけないな」


 嬉しそうにウンウンと頷くホーラの頭を撫でていると、ゴホン、と咳払いをする音に気付き、受付を見るとわざとらしく、また咳払いをする。


「まだ、話は終わっておりません」


 そう言うミラーに、首を傾げる雄一は、とりあえず聞く体勢を取る。

 今度は間を取る為と思われる咳払いをしたミラーが、笑みを浮かべて口を開く。


「ユウイチ様、貴方を冒険者ギルドの一員として歓迎いたします。これからの貴方の活躍に期待します」


 そう言うとミラーは立ち上がり、手を差し出してくる。


 雄一はその手を取って「ありがとう」と握り返す。


 握手をした瞬間、理屈ではなく、反射的にというべきか、雄一はホーラを突き飛ばす。


 ホーラは身構えてなかったので無抵抗に床を滑るように転がる。


 ホーラが居た位置に剣が突き刺すように現れ、雄一は剣の持ち主を殺気を込めて睨みつける。


「どういうつもりだ……」

「お、俺の世界じゃ、舐められたら終わりなんだよっ!」


 雄一の殺気に呼吸困難に陥りかけながら、ゼヒゼヒっと息をして言ってくるダスクにゆっくり雄一が近づいていく。


 ダスクは蛇に睨まれたカエルのように脂汗を流すだけで、目を全開に開く事しかできずに全身を震わせて、その場にかろうじて立っていた。


 そんなダスクの胸倉を掴み、持ち上げると手加減を考えているようには見えない様子の雄一はダスクを壁に投げつける。


 木造な為か、古くなっているからか分からないが壁を突き抜けて剣を抱えたまま外に転がり痛みにもがくダスクをゆっくり追い詰めながら雄一は歩く。


 剣を抱えてたせいか、前面に切り傷が見当たるが、かすり傷のようである。


 雄一はダスクが抱える安物の剣をそっと触れる。


 すると雄一から身を守るモノを奪われまいと安物の剣を我が子のように抱えようとするダスクの目を雄一が覗き込む。


 静かに怒りを秘める瞳に抵抗の無意味さを悟らされる。そう、ドラゴンに睨まれたウサギのように……


 そして、ダスクは剣を離すと震えを抑えるように自分を抱き締める。


「よう、せっかく穏やかな方法で片を付けてやろうとして、纏めてやったのに、楽しい事してくれるな?」


 鬼が笑うような顔をし、目をギラつかせる雄一を見て、涙や涎を情けなくも垂れ流し、あっああ、と無意味な言葉も漏らすダスクの目を覗き込む。


「お前が舐められようが知った事か。ホーラ、俺の家族の誰だろうが、危害を加えてみようと思ってみろ。俺がお前の後ろにいつでもいるからな?」


 ダスクの目の前に剣を刃の部分に指で掴んだ状態で持って来て、力を込めて薄氷を割るように剣を折るところを見せつける。


 それを見たダスクが白目になり気絶すると同時に、股の所から湯気が立ち昇らせる。


 匂いからすると小さいほうだけではないようだが、雄一の知った事ではなかった。



 雄一は開けた壁から冒険者ギルドに戻ってくると、中にいる冒険者達が一斉に雄一から視線を外す。


 返ってきた雄一の腰に飛び付くようにホーラは抱きつくと「ありがとう!」と何度も言いながら泣くホーラに困ったような顔をした雄一は頭を撫でてやる。


 その様子を10秒ほど眺めたミラーが声をかけてくる。


「綺麗に纏まったところで、お話があります」


 ミラーはそう言うと空いた穴のほうに顔を向けるのを見た雄一のコメカミに一滴の汗が流れる。


「事情が事情なので、冒険者ギルド側には全力でフォローは致しますが……しばらくは依頼料から天引きという事で」


 雄一は、項垂れて「お願いします……」と情けない声でミラーに伝える。



 ミラーが説明する依頼料の天引き方法の打ち合わせが済むと、雄一はホーラと肩を落としながら冒険者ギルドを後にする。


 そんな哀愁を漂わせる姿を普段なら笑いそうな冒険者達だが、出ていく雄一に誰も視線を向ける者はいなかった。





 この一件で、ダンガ冒険者ギルドに破壊神がやってきた! と二つ名として定着しそうな勢いで騒がれる事になるが、一晩経った朝、冒険者ギルドにやってきた雄一を冒険者ギルドにいる者達は生温かい視線で見つめる事になる。


 何故なら、拡散されると思われた破壊神ではなく、実際に冒険者ギルドで拡散していた二つ名が、ノーヒットというものであったからである。


 そして昨日が非番だった受付嬢は目撃する。


 カウンターで仕事していた薄ら笑いをするミラーが抵抗する様子も見せずに胸倉を掴み持ち上げて揺さぶられ、何故か半泣きだったのが攻めている雄一であった。

 そんな摩訶不思議な光景に目をパチクリとさせた昨日の事情を知らない受付嬢はそれを眺めて肩を震わせる昨日の事を知る冒険者を不思議そうに首を傾げて肩をすくめた。

 感想や誤字がありましたら、気楽に感想欄へお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
       雄一の孫の世代             こちら亜人ちゃん互助会~急募:男性ファミリー~  どちらも良かったら読んでみてね? 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ