観察する猫
暫く観察すること数分。この子達の性格はなんとなくわかった。
最年長であろうエルフのアービィンは見た感じの知的な雰囲気通りで、このグループの頭脳的なポジションなのだろ、冷静な判断力を兼ね添えた大人びた少年といった印象だ。服装が違えば全く奴隷には見えることはなかっただろう。
常に何に関しても無関心・無表情に見える犬っ子垂れ耳美少女のエクレアはあまり会話に参加はしてこないが、所々で瞳の中に無邪気な少女の顔を覗かせる。実は内面は年相応の無邪気な女の子なんだろうな。
そして直情型というのがよく似合う、このメンバーでは完全に盛り上げ役としての地位を確立しているであろう元気爆発少女シャトルナは今も俺のことを離してはくれない。相当気に入られたようだ。自分から離れないのは断じてセクハラ的な要因ではない!断じて!
最後が最年少でオドオドした感じが可愛くて守ってやりたくなる男の子クラムだが、この子は本当にアービィンのことを信頼しているのだろう、ずっと彼の近くにいて隠れるようにこちらを見てくる。母性本能というものがあれば瞬殺だったであろう。男で助かった。
こんな感じか。皆まだまだ俺からしたら子供だ。こんな子供達を捕まえて売り飛ばすつもりだなんてあの強欲商人は本当に許せないな。奴隷商人の下衆顔を思い出して怒りがフツフツと湧き上がる。
しかし今の状況は困った。抜け出せない。シャトルナとエクレアに捕まってる為俺は今現在身動きが取れない状態なのだ。普通に考えたら嬉しい状況なんだろうが、今はそれどころではない。時間が許される状況ならずっとこのままでもいいくらいに幸せなんだけどね?
着実に街に向けて向かっているはずだ。多分この子達もそれには気づいているのだろう。気づいていながらその不安に気づかないように自分を騙して、その気持ちを押し殺して和やかな雰囲気を必死に出してるんだろう。助けてあげたい。俺は心からそう思えた。勿論自分も助かりたいけどね。
俺の能力でこの場で使えそうなのは観察眼だな、相手のステータスとか見れるのかな?ちょっとやってみるか。そういう軽い気持ちだった。使い方だけどどういう感じなのか?チュートリアルとかあれば楽なんだが、ゲームではないんだよな?取り敢えず先ずはアービィンからと思い真剣に見つめてみる。アービィンも何故か此方を見てくる。すると不思議なことにステータス画面の様な表記が現れ文字が浮かんで見える。
==================
名前:アービィン・ストラプ・ダーミリオン
種族:エルフ
レベル:15
職業:奴隷
スキル
聴覚強化Lv3
暗視強化Lv4
白魔法Lv3
赤魔法Lv1
弓術Lv2
気配察知Lv1
ユニークスキル
万物の調べLv3
称号
森の賢者
====================
むむアービィンは魔法とユニークスキル持ちとは優秀なんだな。意外とユニークスキルは皆持ってるもんなのかもね。折角三つも持ってたのでチートで人生(猫生)イージーモードだと思っていたのに、残念だ。
万物の調べとは?どう言う能力なのか?気になるところではあるな。
そして気になるのは新たな項目の『称号』と『職業』だな。森の賢者かなんとなく納得のいく称号ではあるがこれはどんな効果があるのか…要検討だな。
職業に関してはまあゲームとかでよくある感じだろう、戦士とか魔法使いとか、今回は奴隷になってるがこれは仕方ないのだろう。それにしても驚いたことにアービィンはレベル高いな。(自分と比べると)それとも俺が特別弱いのだろうか?ちょっと凹むな。それはわからないがとりあえずアービィン君を基準に他の子達も見てみよう。
次は犬っ子エクレアだ。
======================
名前:エクレア
種族:獣人属 犬耳族
レベル:3
職業:奴隷
スキル
嗅覚強化Lv2
聴覚強化LV2
噛み付き攻撃Lv1
尻尾自在Lv2
魅了Lv3
称号
辛い過去
=======================
ふむエクレアちゃん…称号辛い過去って…何があったの!?
ちょっと怖くて何も聞けない。すごい気になるけどそっとしてあげた方が良さそうだよね。レベルはどーやらアービィン君が高いみたいだね、スキルもユニークは珍しいのかもしれない。攻撃方法もなんとなくわかる項目が多い、こう見ると観察眼かなりいい能力だな。そして魅了か、恐ろしい子だ、将来化けそうだな。
そして快活少女シャルトナちゃんは…
=======================
名前:シャルトナ
種族:人間
レベル:2
職業:奴隷
スキル:無し
スキル:少しの勇気
称号:楽天家
=======================
シャルトナちゃんは…と目立ったものは…どー考えても馬鹿にしてるよね?
称号楽天家ってどちらかというとマイナスなイメージなんだが、よく言えばポジティブってことかな。どっちともとれるが称号に関しては保留だな自分が取ってから考えよう。スキルの少しの勇気というのも全く効果がわからない。
最後が最年少のクラムだ。
===================
名前:クラム
種族:人間
レベル:1
職業:奴隷
スキル:無し
称号
トラウマ
慎重な心
====================
う…まあこの年齢でこんな状況にあるんだからな。トラウマになってしまっても仕方ないことだよね、慎重な心も当然だと思う。なるほどスキル称号は自分の行動や起こった事柄によって習得できるということ、レベルは戦闘やら経験を重ねることで上げていくといった感じだろう。アービィンが高いのは見た目に反して魔法が使えることから見てある程度経験を重ねているのだろう。
観察眼のお陰でかなり情報は得られた。悪い感じの子は居らず皆純真で優しそうな子達ばかりだ。そろそろこの子達と会話を試みてみよう、というかそもそも喋れるのだろうか?猫になってからまだ声を出してないのでどんな感じの声かわからない。ニャーしか言えなかったらどうしよう。凄くドスの効いた声とか、変声、ダミ声とか勘弁して欲しいところだ。俺は意を決して声を掛けることにする。
「キ↑ ミタチ!」
うわ一言目の音程がかなり外れた…恥ずかしい。しかし予想外にも4人は驚きのあまりポカーンという擬音が聞こえそうなほど唖然としている。もっと驚くとか、気持ち悪いとか、かっこいいとかなんか反応ないの!?因みに俺はもし猫がいきなり話したら気持ち悪いと思ってしまうだろう。
咳払いをして再チャレンジ
「君たち、私の声が聞こえるかにゃ?」
良かったしっかり話せるし、声も変といったことはなさそうだ、どことなく『な行』が『にゃ行』といった感じに聞こえたが多分気のせいだ。
「喋った…?」
「。。。。」
「この子話せるの!?」
「アービィン今喋ってたよね?」
皆それぞれ疑問の声をあげる。アービィンは沈黙しなにやら考えている様だ。クラムはまた怯える様にアービィンの影に隠れ、シャルトナは驚きよりも感激といった表情を浮かべ、エクレアは完全に驚愕している様だ。(あまり表情は変わらないが)
これはまずかったか?いや…でもこのまま会話せずに何とかすることは不可能だと思う。俺はもし逆の立場で言われたら先ず信用できない台詞を今から吐かなければならない。
「私は悪い猫じゃにゃいよ?」
やっぱり『な行』がおかしいよ!自分で言ってて信用できない台詞だなと思う、しかし他にどう言っていいのかわからないんだ仕方ない。
「そうなんだ?良かった~うしうしぃ~」
そう言って撫でくり回すシャルトナと、
「喋る猫さん…可愛い」
そう呟くエクレアの顔は明らかに明るくなり無機質な顔から笑顔がこぼれる。先程以上にフリフリと尻尾がリズムを刻んでいる様はまるでメトロノームの様だった。
二人は今の台詞で納得してくれたらしい。流石に警戒しなすぎだよ?ちょっと叔父さんもびっくりしたよ?飴玉あげたら付いてくタイプだよね。これは流石に指導していかないとだめだろと密かに心の中で思う。
二人とは対照的にクラムはオドオドしながらアービィンを伺い、アービィンは俺を直視したまま油断なく見定めている。これが本来普通の反応だろうと俺も思う。
「貴方は魔物ですか?」
警戒を解かずにアービィンが問いかける。完全に疑いの眼光だ。そりゃそうだよね、魔物だったら何かと危険そうだもんね?
「うーん魔物にゃんだけどね多分、でも君たちを襲うとか危害を加えるつもりはにゃいし、寧ろ協力してここから逃げ出したいんだけど。。。」
ここから逃げたい気持ちは一緒だし協力してくれるはずだと思い提案してみる。
「驚きました、今まで喋る魔物なんて見たことがなかったもので、しかも貴女は知性ある魔物のように見えますね」
そんなに褒められるとは、ちょっと話しただけなんだけどね?この世界の魔物ってそんなに間抜けなのかな?と不思議に思う。しかし状況によってはあえて間抜けな魔物を演じて油断を誘うってのもありだな。まだ警戒の色を解いてない様子のアービィンは油断なく俺の一挙一動を観察している。
「貴方からは…変ですね邪悪な気配を一切感じません普通は魔物というだけで邪悪な気配が漏れ出てしまうものなんですけど?貴女は本当に魔物なんですか?」
気配とかあるんだ?やっぱり!その要素はゲーム、漫画では絶対外せない!それにしても魔物は邪悪な気配確定なんだね。正直ゲームとかだと魔物は完全悪役になってるけど、実際の所は人間の方が醜いところあるし、現実世界になったとして本当に魔物は絶対の悪なのかどうなのかね?
勇者は4人パーティとかで魔王1人を袋叩きにしたりもするし正々堂々とやるにも魔物側が強すぎるだろうし難しいんだろうな~魔物も実は生きるために仕方なく人間を襲ってるとかだって可能性も無きにしも非ずだもんな。まあでも世の中は弱肉強食で勝者こそが正義なんだろう。ということで無理やり納得することにした。
とりあえず今回は邪悪な気配とやらが出てなくて良かった。
「アービィンこんなに可愛い猫さんが悪いわけないでしょ!」
「うん可愛い」
シャルトナが全力で俺を支援してくれている、それを肯定するようにエクレアが頷く。可愛いって関係ないよね?うん…嬉しい半面君たちのその根拠のない自信が怖いよ。二人に白い目で見られ始めたアービィンは少しやりにくそうに苦笑を浮かべる。
「僕たちもここから出たいのは一緒ですし是非協力したいのですが、といっても何か手はあるのですか?」
ふむ当然の疑問だよね。今の現状ヤツが向かってるであろう町は長く見積もってもあと数時間と予想している既に日は落ちているし夜通し走る可能性はこの危険そうな世界では少ないんじゃないだろうか?明け方には着くと最悪予想しておこうそれまでにある程度の作戦を考えねばならない。
とりあえずは4人が知っている情報をまとめてみた。やつの名前はローゼン奴隷商人でああ見えて元冒険者らしい。仲間は今のところ見てないので一人の可能性が高い。普通はこういった森の中で弱い商人での一人旅はありえないことも考えるとやつはそれなりの手練と予想ができる。つまり逃げ出すならヤツが目の前にいない今が最大のチャンスになるわけだ。
もし町についてしまい、頑丈な檻とかに閉じ込められれば逃げるのは更に困難になる。逃げるなら…今でしょ?という訳だな。さて脱獄といってもいざ方法を考えるとなると難しいな。手っ取り早くアービィンの魔法で壊せたら楽なんだけどな。。。
ん?壊す?
鉄格子に触れてみる、触った感触的には素材は鉄なのかな?この世界の物質はわからないけどそのくらいの硬度はありそうだ。素手でこれを捻じ曲げたり壊すことは不可能だな。
そう思い自分の手を見て思い出す。
あ、俺ってもう人間じゃないんだった。手は毛むくじゃらで強靭な筋肉、あれ?この強靭な肉体ならもしかして!
ふん!!
だよね、ビクともしない。諦めかけてそこであることに気が付いた。掌を見つめる、爪がないな、これ出せないかな?と手に力を入れると爪がニョキリと生えてきた。普段は収納可能かこれは便利だな。かなり鋭い、これは期待できそうだ。
「これでどうだ!?」
ガキン!!
想定ではこれで切り裂いて鉄をスパリと切れるはずだったが。虚しい金属音が鳴り響く。ダメか____鉄格子は軽く傷が入った程度だった。
【蒼紫は切り裂き攻撃を習得した】
お?なんか頭の中に文字が浮かび、声が響く。切り裂き攻撃を習得したみたいだ、なるほど行動することで技を覚えていくのか。てことは無駄ではなかったわけだねこの行動は、さていきなりの俺の行動に後ろで不安がってる子達になんて言い訳をしようか。