第五話 018
○同・はなれのトイレ前の廊下(2時半)
トイレ前の廊下で待っている夏。
――トイレから出てくる春香。
夏「な? 何も無かっただろ?」
春香「そうだねー」
――コツン、コツンと木の棒の音が響く。
二人「ひっ!?」
夏「き、気のせいだろ」
――コツン、コツン。
春香「やっぱりいたんだ!? 片足になった兵隊さんの幽霊!!」
夏「ばっ、お前そんなのいるわけねえだろ!?」
春香「でもなっちゃんにも聞こえてるよね!? この音」
――コツン、コツン。
夏「ちょっとまて、後ろから聞こえる。音が段々近づいてるぞ!?」
春香「これ振り向いたら絶対にいるパターンだよ!! 何があっても振り向いたら駄目だよ、なっちゃん!!」
――コツン。
静寂。
春香「足音が……、やんだ……」
夏「ほらー、やっぱ空耳だったんだよー?」
春香「そ、そうだねー」
二人「あはははは!!」
北川「おい」
二人「ぎゃああああー!!」
と、抱き合って振り向く。
北川「そこに立たれると邪魔なんだけど」
――後ろに立つ松葉杖をついた北川。
夏「(道をあけて)何だ北川かー……」
北川「何だとは何だ!?」
夏「まぎらわしいなー。早く行ってこいよ」
北川「はいはい……」
と、トイレに入る。
× × ×
北川「ん? まだ戻ってなかったのか?」
と、トイレの前に立っている二人を見て。
夏「いや……お前一人だけ残して先に帰れないだろ?」
北川「は?」
春香「うんうん、三人だったら幽霊が出ても怖くないとか、全然思ってないから!!」
北川「あーっ!!」
と、窓の外を指差して。
二人「(抱き合って)ぎゃああああー!!」
北川「何怖がってんだ? ほら、来てみろ」
と、窓から外を見て。
――星空を見上げる三人。
春香「わー!!」
北川「学校の武道場でずっと練習をしていたら、こんな光景に気付かなかったかもな?」
夏「ああ……」
× × ×
春香「なっちゃんもう行こうよー?」
と、二人から少し離れたところで。
夏「おう、ちょっと待ってー」
「なあ北川……」
と、隣に立つ北川を見て。
北川「何だ?」
夏「今思い出した」
北川「何を?」
夏「ウチ、お前との約束……守れなかった」
「……ごめんな」
北川「……え」
夏「でも少しだけど、一緒にスワンボートに乗れて良かった」
「(星空を見上げて)凄く……楽しかった」
北川「(星空を見上げて)フッ……そうか」
と、口元が少し緩む。




