第五話 016
○同・敷地内
拓蔵「それにしても君、ここの旅館のこと詳しいね?」
懐中電灯で前を照らし、草をかき分けながら歩く二人。
恵介「この旅館、二年前に改築したんですけど、その時に親父の仕事の手伝いで造園作業をしたんですよ」
拓蔵「ほうほう」
恵介「で、露天風呂に竹垣を設置した際に、のぞき穴っていうか……」
「この竹ほんの少しだけ隙間が空いてるなーって気になっていたことを思い出しまして」
拓蔵「よくぞ思い出してくれた!! それは今日この日のために、神様が君に与えてくれた使命だったんだよ!!」
と、親指を立てて。
恵介「ははは……そんな大げさな」
――竹垣が見えてくる。
拓蔵「おおー!! きたきたきたー!!」
恵介「ちょうど真ん中辺りに隙間が空いてますよ」
拓蔵「ありがとう!!」
恵介「じゃ、俺はこれで」
拓蔵「ええっ!? 君は良いのか!?」
恵介「はい?」
拓蔵「男のマロン!!」
恵介「ははっ、ガラじゃないですよ」
と、手を顔の横に上げて去っていく。
拓蔵「よーし!! おとこ霧島 拓蔵 43歳!!」
「少し遅めの晩ご飯、いただきまーす!! ごめんね母ちゃーん!!」
と、竹垣を覗き込む。
○同・旅館の廊下
夏「あーあ、老人ホームの団体さんが入ってきたから、ゆっくり浸かれなかったなー?」
と、旅館の廊下を歩くパジャマ姿のみんな。
夏はジャージ、春香と望美は着ぐるみパジャマ。
音葉「仕方ないよ、GWなんだし」
加奈「しかも私達はタダで入らせてもらってるんですから」
夏「そうだな」
× × ×
チーンという効果音。
――覗き場所でうつ伏せに倒れている拓蔵。
魂が抜けている。




