第五話 013
○内川荘玄関前のベンチ(夕)
ベンチに腰掛け、右足を動かす北川。
南姉「まいど!! 北川はん」
と、ママチャリで現れる南 友江。ジャージ姿。
北川「南姉!? どうした? こんなところまで……妹の様子見か?」
南姉「まあそんなところや」
と、北川の隣に座って。
北川「山梨学園は部長不在で大丈夫なのか? 今日も練習しているんだろ?」
南姉「ちょちょいと抜け出してきただけや、それにウチがいなくても全然問題あらへん」
北川「まあそっちはメンバーがメンバーだけに、各自が何をすべきか、しっかりと分かっているということか……」
南姉「そやなー。ウチらは試合に出る順番も固定されてるからなー」
北川「先鋒はスピードの松沢か?」
[山梨学園附属高校の武道場内で練習する松沢を写す]
南姉「当たりー。先鋒は勢いが大切やからなー」
北川「次鋒は蹴りの竹谷」
[竹谷の練習風景を写す]
南姉「さすが北川はん。竹やんの蹴りにはウチかて敵いまへんわ」
北川「中堅は投げの梅田」
[梅田の練習風景を写す]
南姉「まぁ、あの体格はウチから見てもうらやましいわなー」
北川「副将は飛ばして――」
南姉「いやなんでやねん!! ウチウチ!!」
北川「そして大将の柏原」
[柏原の練習風景を写す]
南姉「ゆかごんは今年もインターハイ優勝を狙てるで」
「ほんま、天才はウチらと見てる景色が違うんやろなー……って、固定メンバーの順番言い当てとるやないか!?」
「(きょろきょろ)どっから情報が漏れたんや!?」
北川「何を言っている。去年のインターハイ団体戦の順番を言っただけだ」
南姉「そういえば北川はんも去年、個人戦でインターハイに出とったっけ?」
北川「補欠枠だけどな」
南姉「そっかー、ほな今年も油断できひんな? まぁほうとう杯は怪我で出れないって聞いたけど……」
北川「うむ……」
南「お姉ちゃん!? どうしてここに?」
と、夏と恵介以外の部員がやってくる。
みんな「お姉ちゃん!?」
南姉「まいど、愛江の姉の南 友江です。一応、山梨学園附属高校空手道部の部長をやらしてもらってますわ」
大木「山梨学園……」
加奈「(真中を見て)強いんですか?」
真中「(うなずいて)大会の優勝候補ですよ」
南姉「なんや? 姉が妹の様子を見に来たらあかんのか?」
春香「なんか喋り方が全然違うねー?」
南姉「そやねん。ウチら姉妹は小さいころに離ればなれになって、ウチだけが大阪で育てられたんや……」
と、涙を拭いながら。
南姉「ってなんでやねん!!」
――ヒューッと風が吹き、落ち葉が舞う。
南「ふ、二人とも小学校までは大阪育ちなんです」
真中「そうだったんだー?」
南姉「まあウチは妹みたいに簡単に関西弁を捨てたりはせえへんけどな?」
南「か、関東に来たら標準語をしゃべるのが普通でしょ?」
南姉「普通か……。せやな、でも普通のことしてたらウチらには勝てへんで?」
南「分かってる。私はお姉ちゃんに追いつきたくて、ずっと背中を追いかけてきた」
「でもお姉ちゃんと同じ土俵だと、何時まで経ってもお姉ちゃんに追いつけないと思って……それで違う学校を選んだんだから!!」
南姉「あんたがウチと違う学校を選んだその勇気は、素直にうれしいし姉として誇りに思う」
「後はそれを大会で証明してみー? あんたの選択が本当におおてたかどうか」
南「(うつむいて)……」
真中「大丈夫だよ南ちゃん!!」
南「……うん」
夏「あれ!? この前の?」
と、夏と恵介がやってくる。
南姉「あー、あの時の……」
夏「何だよみんな? しけた面して」
南姉「まあ立花はんもせいぜい頑張ってください。でも優勝はウチら山梨学園がもろて行きますから」
――ママチャリにまたがる南姉。
南姉「ほなお邪魔しましたー」
と、ママチャリをフラフラとこぎながら片手を上げて。
夏「さすが優勝候補、余裕の表情だな……」
恵介「ああ……」
と、南姉の背中を見ながら。
――ガシャンと横に倒れる南姉の後姿。
夏「あ、こけた……」




