第五話 008
○同・スワンボート乗り場
桟橋には数台のスワンボート。
恵介「(腕組みで)せっかく河口湖に来たんだから、これに乗らないとな」
野宮「うおおおお!! ここここここれは……。カップルがキャッキャキャッキャとラブラブで漕ぐ伝説のー!!」
大木「ただのスワンボートだろ……大げさなんだよのんべえは」
恵介「本当だ!? これは伝説の――」
夏「お前もか!!」
恵介「これからレギュラー五人には、このスワンボートで河口湖大橋まで行って戻ってくる競争をしてもらう」
五人「はい!!」
恵介「ジャンケンをして勝った人から二人一組に組んでけー」
× × ×
野宮と大木、真中と南、夏一人が横一列に立っている。
夏「えーっと、ウチ余ったんだけど……。一人だと明らかにハンデがあるよな?」
恵介「んー、そうだなー。よし、北川」
北川「はい」
恵介「夏と一緒に組め」
夏「はー!?」
北川「分かりましたコーチ」
と、夏の隣に並んで。
夏「何言ってんだよ!? 北川は怪我してんだぞ? これだと全然ハンデが解消されてないじゃねーか!?」
恵介「ん? ハンデなら十分解消されただろ?」
「これでみんな、体重のハンデが無くなった」
夏「そっちかよ!?」
× × ×
スワンボートに乗り、横一列に並んでいる三組。
――桟橋に立つ部員たち。北川の松葉杖は春香が持っている。
野宮「(手を挙げて)はーい、コーチー」
恵介「なんだー」
野宮「チーム名を決めていいですかー?」
恵介「好きにしろー」
野宮「(ガッツポーズで)よし!!」
「(指差して)じゃあ、まなっぺ・みなみんのチームは『チーム七三』!!」
真中「ええっ!? 私たち、七三分けの要素皆無なんですけど!?」
南「そ、それに野宮先輩が勝手に決めてるし……」
野宮「(指差して)夏ちゃん・がわやんのチームは『チーム北川組』!!」
北川「(うなずいて)うむ。いいだろう」
夏「いいのかよ!?」
野宮「そして私と大ちゃんは『チーム、クルンテープ・プラマハーナコーン・アモーンラッタナコーシン・マヒンタラーユッタヤー・ マハ――』」
みんな「長いよ!!」
加奈「世界一長いタイの都市名ですよね!?」
野宮「正解!! いやー、この前がんばって覚えたから、ちょっと言ってみたかったんだー」
みんな「おい!!」
野宮「分かった分かった。じゃあ『チームのんべえ』でいいよ」
大木「(ぼそっと)マジかよ……」
恵介「よーし、それではこれからレースを開始する!! 最後のチームは例のごとく罰ゲームなー」
六人「はい!!」
音葉「頑張れ夏ー!!」
夏「おう、絶対に優勝してやる!!」
恵介「いくぞー!! よーい、ドン!!」
野宮「うおおおお!! 飛ばすぞ大ちゃん!! 勝負はスタートダッシュが肝心だ!!」
大木「はいよ……」
と、猛ダッシュ。
真中「最後まで頑張ろうね!? 南ちゃん!!」
南「う、うん!!」
と、二番手を走行。
[以下、顔アップで]
北川「野宮は相変わらず良いスタートを切る……」
夏「ああ……あんなに飛ばして大丈夫か?」
北川「私の分析範囲内だ。チームのんべえはスタートは速いが、おそらく後半に失速する」
「チーム七三は、先輩に気を使って力を出し切れない面がある」
夏「なるほど……お前凄いな!?」
北川「当たり前だ、私は部長だからな。みんなの特長くらいしっかりと把握している」
「このレース、出遅れはしたものの、まだ焦るほどではない」
[顔アップ終わり]
夏「だったら一緒に漕げよ!? さっきから分析してないでよ!?」
――のろのろと進む北川組のボート。
北川「私はケガ人だぞ!?」
夏「はー!? 左足は動かせるだろ!? そのためにそっちに座らせたんだからよ!!」
北川「片方だけに負担を掛けると、関節のバランスが悪くなる」
夏「だったら後で右足だけ動かせば良いだろ!?」
恵介「おいお前ら……。どうでもいいから早く行け……」
× × ×




