第四話 014
○お花見女子高等学校・校門(午後)
音葉の鞄を持ち、下校する夏と音葉。
夏「音葉、今日はこの後ちょっと武道場に寄ってくわ」
音葉「分かった。行ってきていいよ、私はお母さんを待つだけだから」
夏「ありがとう。鞄ここに置いとくな? また明日!!」
と、走っていく。
○同・武道場内
奥の真ん中でイスに座る北川の前に立っている夏。
――腕組みをしたまま夏を睨む北川。後ろの壁には松葉杖。
北川の横には他の部員たちが並んでいる。
夏「ウチが暴力事件を起こした時も、このまえ浅井と試合をした時も、自分の感情を抑えることが出来なかった」
「……それはウチの心が弱かったから」
――武道場の隅に座り、寝ている教頭先生。
夏「空手を馬鹿にしていたのはウチの方だった!! (お辞儀)ごめんなさい」
――夏を睨んだままの北川。
夏「(顔を上げて)でもウチは、今の自分を変えたい!!」
「山梨学園大学に受かって、大学でもう一度空手をやりたいって目標が見つかったんだ!!」
北川「そうか、でもその心の弱さがある限り――」
夏「『君子の拳』」
北川「え?」
夏「空手道の教えの通り、もう一度真剣に空手と向き合う」
「だからウチを空手道部に入れてください!! よろしくお願いします!!」
と、目を閉じてお辞儀。
春香「なっちゃん……」
加奈「夏先輩……」
真中「私からもお願いします!! 北川先輩!!」
春香・加奈「お願いします!!」
と、お辞儀する三人。
――ため息をつき、松葉杖を片手に立ち上がる北川。
北川「あんたから『君子の拳』という言葉が出るとは思わなかった。……分かった」
――ハッ!! とお辞儀したまま目を開く夏。
北川「だから冬月さんも頭を上げて」
夏「え?」
と、後ろを見る。
――お辞儀をしている音葉。両脇に松葉杖。
夏「うわっ!? いたのか音葉!?」
北川「あと、峰山先生も……」
――音葉の後ろで音葉の鞄を持ちながらお辞儀をしている峰山先生。
夏「って何でゴリ山まで!?」
峰山「いや……この流れだと、俺も頭を下げるべきなのかなーっと思って……」
音葉「北川さん、私も期間限定だけど、マネージャーとして空手道部に入れてください!!」
北川「ええっ!?」
夏「えええっ!?」
峰山「えええええっ!?」
夏「だからゴリ山は早く剣道部に戻れよ!!」
峰山「おおぅ……。鞄、ここに置いていくな? 冬月……」
――肩を落として剣道部に戻る峰山。
音葉「ありがとうございました先生」
と、峰山に向かってお辞儀。
北川「(ため息をついて)分かった、二人とも空手道部への入部を認めよう」
――顔を見合わせる夏と音葉。
夏・音葉「ありがとうございます!!」
春香「やったー!!」
加奈「よかったですね、夏先輩!?」
と、夏に駆け寄る二人。
夏「ハル、加奈、ありがとな。それからごめんな、ウチのために無理をさせちゃって」
春香「何言ってんのなっちゃん!! 無理なんかしてないよー?」
「ハルも空手が少し出来るようになったんだよ!? えいっ!! えいっ!!」
――中段逆突きを見せる春香。
夏「ははは、もっと腰を入れろ!!」
と、春香の腰をポンと叩いて。
真中「ありがとうございます、北川先輩!!」
北川「(夏を見て)もう一度だけ、あいつを信じてみようと思っただけだ」
真中「もう一度?」
北川「いや……何でもない」
音葉「あーっ!! 今気付いたけど」
「(笑顔で)お揃いだね? これ」
と、北川に松葉杖を見せて。
北川「今気付いたのか!?」
音葉「うふふっ」
みんな「あはははは」
夏「ほんと音葉は場を和ませる天才だな!?」
北川「誰かさんとは大違いだな?」
夏「はー!? 何だとこらー!?」
北川「おいおい、さっきまでの謙虚さはどこにいった?」
夏「お前が――」
恵介「遅くなってすみませーん!!」
と、武道場に入ってくる恵介。空手着姿。
夏「兄貴!?」
みんな「え?」
恵介「えー、本日から期間限定でこの空手道部を指導します、(夏の頭に手を置いて)こいつの兄、立花 恵介です」
「あ、ちなみに過去に全日本を二連覇しましたー。よろしくお願いしまーす」
みんな「うおおおお!!」
恵介「あー、それと学校には事情を説明して、(教頭先生を見て)教頭先生からも許可を得てありますので」
夏「でもどうして兄貴が?」
恵介「(咳払いをして)ここではコーチと呼ぶように」
「ほうとう杯は団体戦だ、お前一人だけが頑張っても仕方ないだろ?」
夏「確かに……」
恵介「よーしみんなー!! みんなで強くなって、ほうとう杯、絶対に優勝するぞー!!」
みんな「おおー!!」
恵介「で、早速だけど、みんな今週末からGWだよなー?」
みんな「はい!!」
恵介「みんな予定がびっしり詰まってるよなー?」
みんな「はい!!」
恵介「よーし分かった。じゃあGWに合宿を行う!!」
みんな「はいいいい!?」
恵介「いいですよね!? 教頭先生!?」
ハッ!! と、全員で一斉に教頭先生を見る。
隅っこでぷるぷると体を震わせ、笑顔で親指を立てる教頭先生。
みんな「えええええーっ!!」
――みんなの声が空に響く。
――終わり――




