第四話 011
○山梨県 甲府市 山梨学園大学・全景(夕)
――学生たちで賑わう広大な敷地内。
○同・駐輪場
武道場近くの駐輪場にKawasaki Z250 ABSが止まる。
ヘルメットを脱ぐ制服姿の夏と私服姿の恵介。
バイクに括り付けた鞄を持つ恵介。
○同・武道場~道場内
鉄筋二階建ての武道場。
夏「でっかい建物だなー」
と、武道場の前に立つ二人。
恵介「二階が道場だ」
× × ×
道場内はジョイントマットが敷かれ、男女50人の部員たちが組手の練習をしている。
入り口で押忍と輪受けをし、中に入る二人。
監督「軸がぶれてるぞー!! 腰を落とすなー!!」
と、武道場真ん中の壁際に立ち、指導する監督(男54)。黒帯の空手着姿。
恵介「お久しぶりです監督!!」
監督「おー!! 立花、久しぶりだな!?」
恵介「お元気そうで何よりです」
監督「今は実業団か?」
恵介「いえ、一年間造園業の修行に行ってまして、今後は父が勤めている会社にお世話になります」
監督「そうか、お前ほどの奴が勿体ない……。で、今日はどうした?」
恵介「はい、妹がここを受けたいって言い出しまして、それでオープンキャンパスに」
夏「えっ、いや……」
監督「そうか!! 立花の妹さんなら楽しみだな!?」
恵介「はい監督!! 期待していてください!!」
夏「(ヒソヒソ声で)おい兄貴!! どうすんだよ? 今ウチは空手やってないんだぞ!?」
恵介「またやればいいじゃん? 出たいんだろ? ほうとう杯」
夏「いや、それはまだ……」
恵介「監督、こいつ今は空手をお休みしてるんですが、五月下旬のほうとう杯に出場しますので、お時間がありましたら是非足を運んでください」
監督「ほうとう杯か……」
「そうだな、うちはAO入試もやってるから、もしうちを受けるなら大会の内容も踏まえて考慮するよ」
夏「えっ……」
監督「頑張って!!」
夏「は……はい」
監督「そうだ、今日は附属高校からレギュラーメンバーが合同練習に来ている」
「みんなインターハイ予選に向けて練習に余念が無い」
夏М「山梨学園附属高校……」
監督「特に三年生の柏原 縁。彼女は現在個人組手でインターハイを二連覇中。全日本の強化選手にも選ばれている」[練習中の柏原(黒帯)を写す]
「今年のインターハイも彼女の大会になるかもな……」
恵介「新しい世代がどんどん活躍して、全日本のレベルを上げてくれる。嬉しい限りです」
監督「お前もまだまだやれると思うんだけどな?」
恵介「(照れて)へへっ……」
監督「よーしみんなー!! 小休止だー」
みんな「はい!!」
監督「はいちょっと集まってー」
――監督の周りに整列する部員たち。
監督「みんなに紹介しよう。こちらはみんなも知っての通り、わが空手道部OBで全日本を二連覇した立花だ」
みんな「お久しぶりです立花先輩!! 本人だ、すげー!!」
と、ざわつく。
監督「お隣は妹さんで今日はオープンキャンパスに来られた」
「どうだ立花? 後輩たちに少し技を見せてやってくれないか?」
恵介「ええっ!?」
監督「頼むよー」
恵介「いや、そんな急に言われましても、(鞄をあさりながら)空手着も持ってきて――」
「あーっ!! 入ってたー!!」
と、空手着をかかげて。
夏「ワザとらしいぞおい……」
恵介「分かりました監督、それでは少しだけお手本を見せましょう」
× × ×
空手着姿の恵介(黒帯)。
――恵介の前に立つ三人の男子部員たち。
他の部員たちは恵介を中心に輪を作り見学。
恵介「よーし、じゃあみんなに少しだけテクニックを見せるなー。順番に攻撃してきてー」
三人「押忍!!」
三人を次々と蹴りや投げで決める恵介。
――その後に技の解説をして部員たちと談笑している。
柏原「お兄さん凄いね?」
と、輪の後ろに立っている夏に話しかける柏原 縁【かしわばら ゆかり】(18)。
夏「ん?」
柏原「(手を差し出して)山梨学園附属高校三年の柏原 縁です」
夏「(握手して)お花見女子高等学校三年の立花 夏です……どうも」
柏原「君も空手やってるんでしょ? 大会で見たことないけど」
夏「いや……中学までは習ってたんだけど、今はやってないよ」
柏原「えー、今はやってないのー? もったいなーい!!」
「(目を輝かせて)あんなに凄い人が身近にいるのに!!」
夏「うっ……。あ、でも五月下旬のほうとう杯だっけ?」
柏原「君も出るの!?」
夏「え?」
柏原「やっぱいいよねー!? なんてったって優勝賞品がほうとう一年分だよ!?」
「まさに食べ放題だよ!?」
夏「いや、ウチはまだ……」
南「なーに油売ってるんや? ゆかゴン」
と、柏原の肩に腕をまわす南 友江【みなみ ともえ】(18)。淵メガネ、黒帯。
柏原「友やん、この子もほうとう杯に出るんだって!!」
夏「ええっ!? ウチは……」
南「ほんまかー、どこの高校や?」
柏原「お花見女子だってー」
南「お花見かー……まぁ、ウチらと当ったら『お手柔らか』に頼みますわ」
「(手を差し出して)ウチはゆかゴンと同じ山梨学園附属高校三年の南 友江や」
柏原「友やんのかかとはガザガザだけどねー」
南「そうそう、ウチのかかとは柔らかくないでーって何でやねん!!」
夏「(握手して)ははは……」
南「(笑顔で)まぁ、ゆうても今のところ、山梨でウチらに敵う学校はおらへんけどなー?」
――南をドン!! と押しのける柏原。
南「(吹っ飛んで)おふぅ!!」
柏原「ほうとう一年分は絶対に譲らないからね!? 立花さん!!」
と、両手で夏の手を握って。
夏「え、ああ……」
南「ほなまたー」
――手を振り輪に戻る二人。
夏「またー……」
と、小さく手を振る。
× × ×
輪を背にして歩き出す夏。




