第四話 009
○公園~階段~立花家への帰り道
階段を下りた窪地に、遊具が揃った公園がある。
恵介「そっか……それでお前の口調も変わってたんだ」
と、ブランコを立ちこぎ。
買い物袋はベンチに置いてある。
夏「昔とだいぶ変わっただろ!?」
「まあ……今もいじめられてるってか避けられてるけど……」
と、ブランコに座りながら少し揺らして。
恵介「うーん……暴力事件に関していうと、黒帯を取ってそれで満足しちゃいましたって奴の行動だな」
夏「ええっ!?」
恵介「浅井との試合に関しては、お前も空手を馬鹿にしているからだ」
夏「はーっ!? かわいい妹に対してそこまで言うか?」
恵介「空手をやっている人が素人に手を出したり、試合でわざと相手を傷付けるなんて論外だ」
夏「だって相手が先に――」
恵介「小学校から毎週のように遠い道場に通って、同じ練習を繰り返して、お前はそこで何を学んだ?」
と、ブランコから前に飛び降りて。
夏「まあ……喧嘩は強くなったかな?」
――ブランコを足で止める夏。
恵介「(振り向いて)喧嘩に強くなったらいじめがなくなるとでも思ったか?」
夏「それは……」
恵介「空手は心・技・体を鍛えるが、一番重要なのはここだ」
と、夏の胸元に人差し指をつける。
夏「(顔を赤らめて)えっ!? ちょっ!!」
恵介「久しぶりに会って見た目や口調は変わったけど、肝心なここが変わっていない」
夏「いや、でも前よりは――」
恵介「俺もお前みたいに他人を傷付けた時期があった……」
夏「ええっ!? 全日本を二連覇したチョー真面目な兄貴が!?」
恵介「ああ。俺も黒帯を取ってすぐのころ、強くなったと勘違いして喧嘩に明け暮れた」
夏「兄貴にもそんな時期が……」
恵介「あれは確か俺が小学六年生のころだったかな?」
「いじめられているお前を絶対に守ってやるからって」
夏「でもあの時は、ウチを守るために仕方なかったんじゃ!?」
恵介「もちろんお前を絶対に守るという強い心もあった。でも同時に、相手を傷付けてもいいという弱い心もあった」
夏「それじゃあウチらは何のために空手をやってきたんだよ!?」
恵介「『君子の拳』」
夏「え?」
恵介「お前も空手を習っていた時に、先生から教わっただろう?」
夏「……うん」
恵介「むやみに暴力をふるうな、常に紳士でいろってな」
「不良に絡まれたら素直に謝ればいいし、相手があきらめるまで謝ればいい。それで事なきを得られるなら、やっすいもんじゃないか」
――ハッとする夏。
× × ×
[フラッシュ]
――鬼島に踏まれる音葉。
× × ×
恵介「変なプライドにすがって、それで喧嘩になるよりずっとマシだ」
と、夏の胸元から指を離して。
恵介「まあ、それでも相手が許してくれない時には、逃げるのが一番だけどな?」
夏「ウチは黒帯になって、友達もできて、少しでも強くなったと思っていた心が、まだまだ弱かったのか……」
恵介「空手道部の部長も、おそらくそれを指摘したんだろう」
夏「(うつむいて)そうだったのか……」
恵介「夏、自分をコントロールできる自分になれ!!」
と、夏の前でしゃがみ、顔を近づけて。
夏「(顔を上げて)え!?」
恵介「そのためにはまず謙虚になれ。それから変なプライドは捨てろ」
「(優しい顔で)それが出来るようになれば、相手の対応もおのずと変わってくる」
と、立ち上がり夏に手を差し伸べる。
× × ×
階段を上る夏、後ろに買い物袋を持った恵介。
恵介「もうお前も大人への階段を上り始めている。だから昔と違って厳しく言ったつもりだ」
夏「(うつむいて)でもウチは、一度事件を起こしてるから……」
と、立ち止まる。
恵介「(夏の横で)誰にだって間違いはある。その間違いを教訓に、次に繋げていけるかどうかが重要だろ?」
と、夏の頭に手を置き、髪の毛をグシャグシャにする。
夏「(照れながら)分かったよ!! 分かったってば!!」
× × ×
恵介「よし!! じゃあ都合のいい日にさ、俺の母校、山梨学園大学のオープンキャンパスにでも行くか!?」
と、立花家への帰り道を歩きながら。
夏「はー!? 何だよいきなり!?」
恵介「どうせ行きたい学校も決まってないんだろ?」
夏「うっ……」
恵介「あそこは形も組手も強いぞー?」
夏「空手は、もう……」
恵介「諦めがついたのか?」
夏「それは……」
――夏の背中をパン!! と叩く恵介。
夏「いってーな!! 何だよ!?」
恵介「(優しい顔で)あれこれ悩むより行動しろ」




