第四話 007
夏、一瞬だけ上半身を右斜め前に出す。
浅井М「馬鹿にして!! もう優加完全に怒っちゃった!! 遊びは終わり!!」
と、ツーステップで突っ込み、左手で刻み突き。
夏、浅井に対して真っ直ぐ突っ込む。
浅井の刻み突きを顔の前で内側にさばくと同時に、左腕を横に伸ばした状態で、浅井の上手にお尻をねじ込み左足を入れる。
――足を掛けられ、体をぶつけられた反動で後ろに飛ばされる浅井。
みんな「おおーっ!!」
北川M「あの動きは!!」
× × ×
[フラッシュ]
――市民大会中学生女子の部決勝戦での一コマ。
夏(メンホー着用/大会用の赤帯)が、相手(メンホー着用/大会用の青帯[顔は写さない])を同じ動きで倒す。
[この時の夏は、左手で相手の奥襟を掴み、相手が倒れると同時にお腹に突きを極める]
× × ×
浅井М「ゲ、ゲームで一度も倒されたことのない優加が……」
――バーン!! と仰向けに倒れる。
夏、すかさず浅井に駆け寄って。
浅井「ひっ!!」
と、身動き出来ずに。
浅井の顔面に突きを出す夏。
――口元にかすかな笑みを浮かべている。
ハッ!! と北川が気付く。
北川「止めえええーっ!!」
――浅井の下手のマットに拳を突き刺す夏。
浅井「(それを見て)ひやああっ!!」
北川「もう終わりだ!! こんなのは試合じゃない!!」
「(アゴで指示して)かえれ浅井。もう十分満足できただろう」
浅井「わ、分かったわよー」
と、立ち上がり制服のほこりを払って。
浅井「立花さーん、ほうとう杯で今日の続き、楽しみにしてるからねー」
拳サポーターを置いて靴下を持ち、空手道部を後にする浅井。
――マットを突いたままの夏。
北川「試合は終わったぞ立花!! 聞こえてるか!?」
夏「えっ? ウチは……?」
北川「私が試合を止めなければ、多分あんたは浅井の顔面を殴っていた……」
夏「そんな……ウチが? 何かの冗談だろ!?」
と、北川に詰め寄って。
北川「事件の時も先生にそう言ったのか?」
夏「(目をそらして)くっ」
北川「私たちはここで、一生懸命空手の練習をしている。喧嘩がしたいのならよそでやってくれ」
夏「(ため息をついて)……分かったよ。行こう音葉」
と、拳サポーターを外し、音葉と自分の鞄を持ち、帰ろうとする。
音葉「夏……」
春香「なっちゃんがやらないのなら、ハルが代わりに大会に出る!!」
夏「え?」
春香「大会までの期間限定だけど、空手道部に入部して、ほうとう杯に出る!!」
夏「はー!? 何言い出すんだよハル!? 素人が黒帯に勝てるわけないだろ!?」
春香「ハルは本気だよ!!」
「今なっちゃんは、部長にすっごく嫌われてるけど、それでも諦めずに頭を下げて、空手道部に入るなっちゃんをここで待ってるからね!!」
夏「なんだよそれ!?」
加奈「私も空手道部に入ります!! ハルちゃんと同じ期間限定ですけど」
夏「何言ってんだよ二人とも!? あーもう!! 勝手にしろ!! いくぞ音葉」
音葉「……うん」
と、空手道部を後にする二人。
――剣道部の横を通り過ぎる。
峰山「冬月ー!! マネージャーでいいから、いつでも待ってるぞー!!」
音葉「(会釈して)すみません、今はちょっと……」
峰山「おおぅ……」
と、白くなって。
峰山「立花もさっきの試合、かっこ良かったぞー!!」
夏「うっせぇ!!」
峰山「おおぅ……」
と、白くなって。
――二人の背中を見つめる北川。
教頭「立花さんはまた来ますよ」
北川「え?」
教頭「今日の悔しさをバネにして。今の試合で何が悪かったのか、本人も気付いたはずです」
「立花さんが自分をコントロール出来るようになれば、北川さんも受け入れるんでしょう? 彼女を」
北川「(ため息をついて)あくまでそれが出来るようになればの話ですけどね……」
○同・校門前(夕)
桜が舞い散る中、校門脇に立つ夏と音葉。
夏「音葉も剣道部のマネージャーをやりたかったら、やってもいいんだぞ?」
「ウチに無理に合わせる必要はないから」
音葉「大丈夫、無理なんてしてないよ?」
と、落ちてきた花びらを胸の前で掴んで。




