第四話 006
――ぼんやりと写る真中の顔。
[周りが暗くなっていく]
夏の幻影が横に現れ、夏を覗き込む。
夏の幻影「やっちゃおうよ? 私を作り出したあの時みたいに」
――ハッとする夏。
× × ×
[フラッシュ]
――うつ伏せに倒れた鬼島の前でしゃがむ夏。
× × ×
夏の幻影「売られた喧嘩はきっちり買わないと、どんどんつけ込まれちゃうよ?」
と、微笑み消えていく。
× × ×
浅井「あーあ、優加ゲームオーバーになっちゃったかなー?」
× × ×
夏「……真中」
真中「良かった先輩!! 意識が戻って」
「立花先輩……このまま起き上がらないでください……」
夏「何言ってんだ!? こんな攻撃大したことねえよ」
「それにワザと起き上がらなければ、こっちの失格負けだ」
真中「確かにそうですが、今は私が仮のドクターです」
「このまま先輩が10秒以上起き上がることが出来なければ、浅井の反則負けです」
夏「へへっ……ウチがそんな勝ち方をして喜ぶと思うか?」
真中「でもこれ以上続けたら、次は立花先輩まで――」
夏「(神妙な面持ちで)……」
真中「だからこのまま立ち上がらないでください……」
夏「(優しい顔で)……そうだな」
――ホッとする真中。
夏「まぁでも、そんなわけにはいかねぇ……」
と、立ち上がって。
夏「(据わった目で浅井を見て)売られた喧嘩はきっちりと買わなきゃな……」
浅井「おーっ!? そうでなくっちゃ立花さーん!!」
「組手がおさわりゲームじゃないってところ、優加にちゃーんと見せてよー?」
真中「先輩!!」
音葉「夏……」
北川「青、反則注意!!」
――得点板がめくられ青のC1の数字が3になる。
春香「おおー!? C1が一気に3になった!?」
「(北川を見て)て……C1って何?」
北川「Cはカテゴリーだ」
「ウォーニングはカテゴリー1とカテゴリー2に分かれている」
「さっきまでの立花や浅井のウォーニングはカテゴリー2の警告だ」
春香「そうなんだー?」
北川「だが今回はカテゴリー1の『過度の接触技』、しかも立花が危険な状態だった」
春香「うんうん」
北川「この場合にドクターストップがかからず、立花が10秒以内に立ち上がれば、浅井は深刻な違反をしたと判断され、ペナルティーで一気に反則注意になる」
春香「んん? ウォーニングのカテゴリー1とカテゴリー2は一緒にならないってこと?」
北川「そういうことだ」
加奈「つまりカテゴリー1が3回、カテゴリー2が3回までは、ウォーニングを取られても大丈夫。ただしペナルティーもあるってことですね?」
北川「(うなずいて)悪い言い方をすればそうなる」
春香「空手の試合って過度じゃなければ相手に当ててもいいのー?」
北川「高校生までは上段突きは一切の接触禁止。上段蹴りはスキンタッチまで」
「逆に中段の突きや蹴りは、しっかり当てないとポイントにはならない」
春香「痛そー……」
北川「もちろん引き手・引き足が無い攻撃は、ポイントとして認められない」
「そして攻撃をする時の綺麗な姿勢や、キメた後に相手から目を離さない残心も必要になってくる」
加奈「ただ速いだけじゃダメ、正確な技術も必要ってことですね?」
北川「(うなずいて)試合は真剣勝負だが、相手を傷つけるのが目的ではない」
「正確な技術を身に着けるのもまた、鍛錬のうちだ」
春香「か、かっこいい……」
北川「行けそうか立花!?」
夏「ああ……」
と、開始位置に戻り浅井を見たまま。
――両者開始位置で輪受け。
北川「続けて、始め!!」
――左構えでステップする浅井。
左構えでステップをしない夏。
浅井М「さっきの恐怖が残っているうちに、どんどんいっちゃうよー!?」
と、ツーステップで前に出て刻み突きフェイント、さらに右膝を上げる。
加奈「また中段蹴り!?」
――夏、すかさず左膝を上げ、中段蹴りをガードしようとする。
浅井М「かーらーのー!! 上段でしたー!!」
――右中段蹴りの軌道を変える浅井。
浅井「えいあー!!」
と、夏の膝の下手に蹴り足を通し、右足の甲でアゴを蹴る(引き足あり)。
――副審全員が青の旗を斜めに上げる。
北川「止め!! 青、上段蹴り、一本!!」
浅井「へへーん、また中段が来ると思ったでしょー? 残念でしたー」
「どうせウォーニングを使うなら、上手く使ってゲームに勝たないと意味が無いでしょー?」
――浅井を無視して開始位置に戻る夏。
浅井「ちぇーっ、折角いいのが決まったのにリアクション無しー? 穏やかじゃないなー」
と、開始位置に戻りながら。
――得点板がめくられ、青の得点ポイントが3になる。
春香「ええっ!? 一気に3点入った!!」
北川「上段蹴りは大技だからな、一本として3ポイントが入る」
「他にも相手を地面に倒した後の極め技も一本だ」
春香「へー、格闘ゲームでいうところの最終奥義みたいなものかなー?」
北川「そうだな。ついでに言うと、中段蹴りは技ありで2ポイント、上段・中段突きは有効で1ポイントだ」
加奈「そうなると、点差が開いて残り時間が少なくなった時には、どうしても大技を狙うしかないですね?」
北川「そうだな。だからそうならないよう、技を組み立てていくのもまた、組手の面白さだ」
春香「け、けっこう頭使うのね……」
北川М「それにしても立花は、浅井に蹴られてからずっと目が据わっている。何か引っかかるな……」
――両者開始位置で輪受け。
北川「続けて、始め!!」
――左構えでステップする浅井。
左構えでステップをしない夏。
浅井М「さーて、次は上段に見せかけた中段蹴りで、さらに翻弄しちゃうよー?」
と、ツーステップで前に出て刻み突きフェイント、そこから右膝を少し高めに上げる。
加奈「また上段蹴り!!」
北川「いや、見え見えのフェイントだ。だが翻弄されている今の立花だと、それに気付けない……」
浅井М「上段蹴りフェイントからのー」
――上げた膝を少し下げて中段蹴りを狙う浅井。
浅井М「中段け――えふぇっ!?」
夏、浅井に真っすぐ突っ込み右手で中段逆突き(引き手なし)。
みんな「速い!!」
北川「迷いのない突きだ……でもあれは――」
「止め!!」
浅井「え……」
と、自分のお腹にめり込んだ夏の拳を見て。
――赤い旗を前に出し、旗を交差させる副審たち。
浅井「痛ーい!!」
と、その場でお腹を押さえ転げまわる。
北川「赤、忠告!!」
――得点板がめくられ赤のC1の数字が1になる。
夏「(据わった目で)立てよ浅井。負傷を誇張したらカテゴリー2のウォーニングになるぞ。もっとゲームを楽しもうぜ」
北川「あいつ……」
浅井「くっそー、少し油断しただけなんだからー」
――両者開始位置に戻り輪受け。
北川「続けて、始め!!」
――左構えでステップする浅井。
両手を下ろしノーガードでステップをしない夏。
真中「ノーガード!?」
× × ×




