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ウチと彼女の約束事  作者: 畦道テツ
第四話 『やりたいこと』
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第四話 005

北川「試合時間は2分、8ポイント先取。主審は私がやる」

   と、首から笛を下げて。

   北川の上手に春香・加奈・音葉が座り、下手に花束を抱えた教頭先生が座っている。

   北川と反対側の安全域から1m離れた位置に得点板。その横に立つ一年生3人。

   一人はストップウォッチ、もう一人は記録用紙を持っている。

   コート四隅の安全域には、赤と青の旗を持ち、片膝をついた二・三年生。

   真中も黒帯の空手着姿。

北川「念のため、何かあった時のドクター判断は真中がやれ」

真中「はい!!」

北川「本当にメンホーを付けなくていいんだな?」

浅井「はーい」

   と、青の拳サポーターを付け、上手の安全域に立ちながら。

夏「問題ない」

   コートを挟み浅井の反対側に立つ夏。手には赤の拳サポーター。

   二人とも制服姿。靴下は脱いでいる。

春香「(北川を見て)メンホーってなにー?」

北川「これだ」

   と、後ろの壁に掛けてあるメンホーを渡して。

春香「(前後反対に被りながら)前が見えなーい」

北川「反対だ……高校生までの大会では、安全確保のためそのメンホーや防具の着用が義務付けられている」

春香「(正しく被りながら)い、息苦しい……」

北川М「それにしてもあいつら、制服のままで試合をするなんて、どこまで空手を馬鹿にしている」

 「(教頭をチラ見して)教頭先生も何を考えていらっしゃるのか……」

教頭「Zzzz……」

北川「ではこれより試合を開始する!! お互いに礼!!」

   ――夏と浅井、その場で立礼。

   コート中央に3mの間隔をあけた開始位置がある。

   安全域から開始位置に移動し、輪受けをする二人。

北川「勝負、始め!!」

   ――左手を前に出し右手は胸の前、左足を前に出し半身に構える(左構え)二人。

   つま先で細かく上下運動のステップを踏む。

春香「(北川を見て)何で二人ともピョンピョンしてるのー?」

北川「組手の主流となっているステップだ」

 「かかとを地面につけず体をリラックスさせ、いつでも動き出せるよう準備をしている」

春香「それで格闘ゲームのキャラクターは上下に揺れてるのかー。武者震いしてるのかと思ってたー」

北川「うむ……」

北川М「互いにまずは様子見か……初めて手合わせする相手だからな」

浅井М「隙が無い……中々いい構えをしてるじゃん。後は早く優加に動き出しを見せてよー」

夏М「くそー、二年もあいだが空くと、感覚が思い出せない……」

   × × ×

   浅井が左手で一瞬小刻みに突き(刻み突きフェイント)を見せる。

   フェイントに合わせて後ろに下がり、直ぐ前に戻る夏。

浅井М「へー、いい反応してるじゃん」

   × × ×

   夏が一瞬左膝を上げ、蹴りのフェイントを見せる。

   左手を少し上げ、一瞬だけ上段をカバーする浅井。

夏М「一筋縄ではいかないようだな……」

   × × ×

   更にお互いフェイントを出し合い様子を伺う。

加奈「凄い緊張感ですね……音葉先輩」

音葉「Zzzz……」

加奈「って寝てるし!?」

真中М「そろそろどちらかが攻撃しないと……」

   ――ストップウォッチを持った一年生が手を挙げる。

北川「止め!! 赤、忠告!! 青、忠告!!」

   ――得点板がめくられ、赤と青のC2(カテゴリー2)の数字が1になる。

春香「ん? 何で忠告になったのー?」

北川「互いに長い時間攻撃がない場合は、不活動でカテゴリー2の違反ウォーニングが科せられる」

 「これらのウォーニングが四回で即試合終了だ」

春香「へー、確かに格闘ゲームで少し放置してたら、その間に負けてたってことあるもんねー?」

北川「うむ……そういう時は一時停止ボタンを押しておけ」

   ――夏と浅井、開始位置に戻り輪受け。

北川「続けて、始め!!」

   ――左構えでステップする二人。

浅井「もー、早く攻めて来てよー!? さっきの勢いはどこににいっちゃったのー? 立花さん!!」

夏М「くっ……」

北川「止め!! 青、警告!!」

浅井「あっ、しまった……」

夏「あはははは」

   と、指を指して。

北川「立花も警告にするぞ!! 真面目にやれ!!」

夏「うっ……」

   ――得点板がめくられ青のC2の数字が2になる。

春香「んん? 何で警告になったのー?」

北川「試合中に相手に話しかけることは禁止されている。これもカテゴリー2のウォーニングだ」

 「もちろん相手への挑発も禁止だ」

春香「へー、格闘ゲームでは挑発ボタンがあるのにねー?」

北川「うむ……私はあまり好きではない」

加奈「スポーツマンらしからぬ行為ってことですよね?」

北川「そうだな。開始前に立礼するのも、相手に敬意を払うという意味がある」

 「空手は礼に始まり礼に終わる」

春香「か、かっこいい……」

   ――夏と浅井、開始位置で輪受け。

北川「続けて、始め!!」

   ――左構えでステップする二人。

夏М「しゃあない、仕掛けるか!!」

   と、左足を一歩出し左手で刻み突き。

浅井М「甘い!!」

   浅井、夏の左足が着地する瞬間に右足で内側に払う(出足払い)。

真中「出足払い!!」

北川「狙ってたか!!」

夏「(体勢を崩して)くっ!!」

浅井「えいやー!!」

   と、すかさず顔面に前足と同じ右手で突き(追い突き)。

   突いた瞬間に少しだけ拳を引く(引き手)。

みんな「決まった!!」

   ――青の旗を45度に下げかける副審たち。

北川「いや、ガードしている!!」

   ――夏、右手の甲で顔面をガード。

   それを見て手を止める副審たち。

   夏、すぐに体勢を立て直し、後ろへ下がる。

浅井М「まだまだー!!」

   と、顔面めがけて突きを交互に出しながら。

夏М「くっ!!」

   ――浅井の攻撃を避け、後ろに下がり続ける夏。

北川「いったん後ろに下がると、そこから攻撃に転じるのは難しい……」

浅井М「(得意げな顔で)もう後がないよー!!」

   と、左中段前蹴り。

   ――夏、下がりながら体を折畳みかわす。

   浅井、蹴った左足を軸にして、右足で右後ろ上段回し蹴り。

   ――夏、下がりながら顔を反らして避ける。

春香「白!!」

加奈「(春香を見て)何が!?」

   ――近くで見ている野宮が赤い旗でコンコンコンと床を叩く。

北川「止め!! 赤、警告!!」

   ――得点板がめくられ赤のC2の数字が2になる。

夏М「(息を切らして)コートの感覚も思い出さないと」

 М「それにしても空手って、こんなにキツかったっけ……」

加奈「(春香を見て)夏先輩、場外を取られちゃいましたね……」

音葉「頑張れ夏ー!!」

加奈「(音葉を見て)ふぇえっ!? 起きてる!?」

   ――両者開始位置に戻り輪受け。

北川「続けて、始め!!」

   ――左構えでステップする浅井。

   左構えでステップをしない夏。

夏М「(息を切らして)さっきの出足払い……この短時間でウチの呼吸を読んだのか……」

浅井М「あれー? もう息切らしてるー。反応はいいけど大したことないじゃん」

真中М「立花先輩のステップが!? 二年のブランクで体力がもたないのか……」

浅井М「そろそろ潰しちゃおっかなー、立花さーん!!」

   と、前に構えた左足に右足を引きつけ(送り足)、左中段前蹴りを出す。

みんな「速い!!」

夏М「いける!!」

   と、後ろの右足を引いて体を右に転身させ、浅井の前蹴りをかわしながら左上段蹴り。

北川「前蹴りを避けてのカウンター!?」

春香「なっちゃんも白!!」

加奈「ふぇえっ!?」

浅井М「だから甘いって、ばあああー!!」

   と、夏の上段蹴りを右手の甲でガード。

   同時に右膝を上げ、横にひねった右のかかとで夏のお腹を蹴る(横蹴り)。

   引き足なし。

   ――驚いたみんなの顔を写す。

夏「うはっ!!」

   と、後ろに蹴り飛ばされ仰向けに倒れる。

音葉「夏!!」

   ――すかさずトドメを刺そうと駆け寄る浅井。

   ピピピピピー!! と北川が笛を吹く。

   ――青旗を前にして旗を交差させる副審たち。

北川「止め!!」

浅井「ちぇっ、惜しかったなー」

   と、開始位置に戻りながら。

北川「真中!! 立花の様子を見てやれ!!」

真中「はい!!」

   ――頭をおさえ、仰向けに倒れている夏に駆け寄る真中。

真中「(しゃがんで)大丈夫ですか!? 立花先輩!!」

   ――反応がない夏。

   × × ×

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