第三話 008
○富士・河口湖さくらの祭り・全景
河口湖畔へ繋がる川の両脇に桜並木。
川を挟んだ上手には、二階建ての河口湖楕円形ホール。
下手ではクラフト市が開催されている。
○同・下手のクラフト市
手作りの商品を販売するお店が、道の両脇に30店舗ほど出店している。
――並んで歩く峰山と知恵。
二人から少し離れて夏と湖太郎、その後ろに春香と加奈が並んで歩く。
会場には大勢の見物客。
加奈「わー、すごーい!! 今がちょうど見頃ですね!?」
夏「本命はあっちだろ?」
と、河口湖畔の奥に見える富士山を指差して。
加奈「わー、桜富士だー!! 夏先輩、ありがとうございます!!」
夏「いいっていいって」
春香「それにしても今日が最終日だけあって、人がいっぱいだねー?」
湖太郎「しかもカップルが目立つよねー?」
「(髪をかき上げて)僕らも周りからカップルに見られてるんじゃない? 夏ちゃん?」
夏「(胸ぐらを掴んで)んなわけねーだろ!! なに勝手に妄想してんだよ!?」
峰山「ん? 今の声は……」
と、振り向く。
――四人が二人に背を向け、組体操の要領で手をつなぎ、扇の形を作っている。
下手から加奈・夏・湖太郎・春香。
峰山「気のせいか……」
と、向き直って。
知恵「どうしたの先輩?」
峰山「いや、何でも無い」
夏「(ヒソヒソ声で)お前なー、おっきな声出させるなよ!? 知恵姉に見つかったら生きて帰れないぞ!?」
と、プルプルと耐えながら。
湖太郎「(ヒソヒソ声で)ごめん夏ちゃん……」
夏「二人に気づかれないように気を引き締めないとな」
と、体勢を立て直して。
春香「(出店を指して)あーっ!! なっちゃん可愛いのがいっぱい売ってるよー!!」
夏「おっ、いいねー。ちょっとだけ見に行くか!?」
「湖太郎、後は任せた!!」
と、出店を見にいく三人。
湖太郎「えっ、あ……。ちょっと夏ちゃん!?」
× × ×
湖太郎「もー、仕方ないなー。でもこれも夏ちゃんのためだ!! 頑張れ湖太郎!! おー!!」
と、小さく拳を上げて尾行。
× × ×
加奈「これ可愛いですね!? お父さんとお母さんに買って帰ろう」
と、桜のアクセサリーを手に取って。
春香「ハルもハルもー!!」
夏「ウチも音葉に何か買って帰るかー」
「あ、それとあいつにもこれのお返しを買わなきゃな」
と、カメのキーホルダーを見て。
× × ×
湖太郎「さっきから会話が弾んでないなー……。一年半のブランクは大きすぎたか?」
峰山「仕事の都合で遅くなってしまって、すまなかったな……?」
知恵「ううん。もうすぐライトアップされるから、夜桜が見れて丁度いいんじゃない?」
峰山「そ、そうだな……」
× × ×
夏「えーっと、音葉は確か可愛い動物が好きだったよなー……?」
と、動物のキーホルダーが並んだ出店を見ながら。
夏「湖太郎のは……適当でいいや」
× × ×
峰山「か、可愛い服だな……それ」
知恵「うふふ、ありがとう」
「でもそろそろこういう服も、私には無理があるのかなー? って最近思っちゃう……」
「(笑顔で)私も先輩みたいに大人びた服を選ばなきゃね?」
峰山「そ、そんなことは無い!! すごく綺麗だ!!」
知恵「えっ?」
峰山「あ……いや、夕日に染まった河口湖が……」
知恵「うふふ、そうね」
× × ×
夏「お待たせ湖太郎!! 何かウチの仕事をすっかり押し付けちゃって悪かったな!?」
湖太郎「気にしない気にしない。何かいいものあった?」
夏「おう、おかげさまでゆっくり選べたよ。そっちの様子はどうだ?」
湖太郎「んー。それがさー、さっきから会話が全然弾んでないんだよねー……」
夏「何やってんだよゴリ山……桜の木のように堂々と構えろよなー」
湖太郎「でも夏ちゃん!! 僕の心は今すっごく弾んでるよ!!」
「だって、夏ちゃんが僕のところに戻って来てくれたんだから!!」
と、夏に抱きつこうとする。
夏「ん? 何だあの人だかり?」
とっさに走り出す夏。
湖太郎「あれっ?」
夏に抱きつき損ない、春香と加奈の手前に顔から突っ込む湖太郎。
春香「太郎ちゃん情熱的ー」
湖太郎「うるへー」
と、地面に顔をうずめながら。




