第一話 003
○立花家・全景~夏の部屋(四月・夕)
夕焼けに染まる立花家。
夏の部屋。ドアを開けると、正面に窓。
窓の下手に、パソコンデスク、オフィスチェア。
上手に、収納ベッド、その脇にカラーボックス。
――ドアには、拳分ほどのくぼみが数ヶ所。
夏「おいハル、明日の夕方に流れ星見れるってよ!?」
と、椅子に座り、机の上に開いたノートを見ながら。
立花 夏(高三・18)。ジャージ姿。
前髪を、髪ゴムでバツに結び、ふちメガネはかけていない。
――ノートの真ん中は、横線で区切られている。
上のスペースに『音葉』の名前。
名前の下に『4月11日 土曜日』の日付。
その下に『明後日、天気が良ければ、夕方に流星群が見れるよ!』の文字。
――下のスペースには、夏の名前だけが書いてある。
春香「あれー? 流れ星を見たら、始めに住所と氏名と電話番号を言うんだっけー?」
霧島 春香【きりしま はるか】(高二・17)。
私服姿。
ベッドで転がりながら、漫画本を読んでいる。
夏「いやそりゃおかしいだろ!?」
春香「(静止)そんな事よりなっちゃん!! 明日だよ!? 作戦決行の日!!」
と、『4月13日 月曜日』が、丸で囲まれたカレンダーを指差して。
夏「(交換日記を見つめて)ああ、音葉も他人事だと思って勝手だよなー?」
春香「勝手ねー……なっちゃんにも素直じゃないところがあったかー」
と、再び転がる。
夏「ったく……お前ちょっとは落ち着けよ?」
春香「だって明日が大一番だと思うとー、何か落ち着いていられないんだもん」
「(ニコッ)第二の犠牲者が出るかもしれないんだから」
夏「(呆れ顔)犠牲者って……」
春香「冗談冗談。ハルは、なっちゃんと出会えて良かったって思ってるよ?」
と、ベッドから降り、漫画本をカラーボックスの上に置く。
カラーボックスには『数学3』の教科書。
――春香、カラーボックスに置いてある、金メダルを首にかけて。
春香「なっちゃん、このキラキラなにー?」
夏「あー、空手の市民大会で優勝した時のやつな」
春香「あれ? なっちゃんが習ってたのって空手だっけー?」
と、シャドウボクシング。
夏「ああ、暴力事件で道場に迷惑をかけちゃったから、もう辞めたけど」
春香「(息を切らして)せっかく優勝したのに勿体ないねー?」
夏「まぁ事件で墓穴掘っちゃったから、仕方ないよな……」
春香「絡まれたなっちゃんだけが、停学処分になったんだっけー?」
夏「ああ。道場の先生にも言われたよ、相手が手を離した隙に、逃げるべきだったなって」
春香「(足踏み)ハル、逃げ足だけは速いよー?」
夏「あはは、それが正解だな!?」
「(神妙な面持ちで)ほんと、世の中矛盾だらけだよ……」
と、窓の外を見つめて。
○同・玄関
春香「おじちゃんおばちゃーん!! お邪魔しましたー!!」
夏の母の声「(家の中から)はーい、またいつでも来てねー」
夏「じゃあまた明日な、気をつけて帰れよ」
春香「気をつけマッスル!!」
と、手を腰に下ろし、マッチョポーズ。