第二話 008
○同・玄関脇の通路
加奈、通路に座り、膝の上には鞄。
――鞄につけたお守りを見つめる。
夏「(隣に座って)お父さん、嫌いか?」
加奈「大っ嫌い……」
と、お守りを握りしめて。
夏「(夕焼け空を見上げて)そっか……」
加奈「(足元を見て)ハルちゃんのお父さんみたいに、冗談も言わないし」
夏「いや、ありゃただのエロ親父だろ……」
加奈「私、夏先輩が思っているほど良い子じゃないですから……嘘つきだし」
夏「加奈が良い子じゃなければ、ウチは何なんだよ? 毎日説教部屋に行ってさ」
加奈「それは……」
夏「今日のイチゴ狩りで、みんなと比べてたウチが言うのも変だけどさ」
「何でも人と比べてたらキリがないよな?」
「まずは自分に素直になって、一度お父さんとゆっくり話してみたら?」
加奈「それが出来ればいいんですが、私、夏先輩みたいに強くないですから……」
――夏、軽くため息。
夏「分かった!! 加奈にウチの秘密を教えてやるよ!!」
加奈「ふぇっ!?」
夏「誰にも言うなよ!? 二人だけの秘密だからな!?」
加奈「は、はい!!」
夏「こう見えてウチは、加奈が思っているほど強くない」
「学校では、一人で我慢しなければいけないことばかりだし……」
「だから不安な時や、嫌なことがあった時は、こうやってんだ」
夏、自分の太ももの横を、ポンポンと叩く。
加奈「え?」
夏「おまじない」
「大丈夫!! って自分に言い聞かせて、そしてまた前を向く」
加奈「夏先輩……」
夏「どうだ? 思ってたよりちっちゃい人間だろ!?」
「こうやって何度も自分を鼓舞しなければ、前を向けない……」
「(苦笑い)はたから見たらバカみたいだろ?」
加奈「そっ、そんなことないです!!」
夏「誰だって、前を見続けるのは怖い」
「隠れる場所は無いか、逃げ道は無いかって、必死に探してしまう」
「でもしっかりと前を向かないと、自分が歩く道……いや、走る道を見失っちゃうんだ」
加奈「……走る道」
夏「まぁウチが迷った時に、ちゃんと親にも相談しなって言ってくれたのが、音葉だったんだけどな」
加奈「なんだか夏先輩が羨ましいです。自分を分かってくれる人がいて――」
夏「分かってくれない人の方が多いけどな……同じ学年の生徒とか――」
加奈「一人でも分かってくれる人がいるからいいんですよ!!」
「(涙をこらえて)私には……誰も……」
夏「お前もどんどん甘えてこい。ウチに何でも相談しろ」
と、加奈の頭を、自分の胸に引き寄せて。
夏「ウチが全部、受け止めるから……」
加奈「夏先輩……(泣きながら)ありがとうございます……」
――夕日に照らされた二人。
夏「それに今日のイチゴ狩りみたいにさ、これから色々経験していけばいいんだよ」
加奈「……はい」
夏「へへっ、今だとちゃんとこの言葉が言えるな!?」
加奈「えっ?」
夏「加奈、一緒に楽しい思い出、作ろうぜ」
加奈「(軽く吹いて)よろしくお願いします」
と、涙を拭う。
夏「よっしゃ、戻るか!?」
加奈「はい!!」
夏「まあ、まだお父さんがいたら気まずいだろうから、その時は外から眺めとくか?」
加奈「えへへ……」
○同・リハビリルーム~リハビリルーム前の廊下
加奈の父と春香、歩行練習の音葉に、声援。
――ガラス越しに見守る、夏と加奈。




