番外編 012
○鬼島の車~車内
トロトロ走る鬼島の『レクサス LS600hL』。
後ろには車がずらーっと連なっている。
――運転する鬼島、助手席に夏。
夏「意外に安全運転なんだな……鬼島」
鬼島「当たり前だ、法定速度は順守する。それに誰もあおってこないからな?」
夏「まあ確かに……こんな高級車をあおる馬鹿はいないわ」
鬼島「……不思議だな」
夏「ん?」
鬼島「あたしがわれの入学式に絡んで、でも今は同じ大学で空手をやってる」
夏「ああ、何かの縁かもな……」
鬼島「あたしが絡んだ時、われは『黒帯を取って変われた』って言ってたな?」
夏「(笑って)そんなこと言ったっけ? いちいち覚えてないや」
鬼島「おう。『何が黒帯だ』ってその時、あたしが心の中でバカにしたからよーく覚えてる」
夏「黒帯をとっても、心を鍛えなきゃ何も変わんねえよ……」
鬼島「確かにそうだけど、それは取るもんを取れたから言えるセリフだ」
「大学から空手を始めたあたしにとって、黒帯はまだまだ遠い」
夏「何が言いたいんだよ?」
鬼島「だから立花、われは本当に凄いわ」
夏「(赤面)何だよ急に!? 気持ち悪いな……」
鬼島「(鼻で笑って)なかなか二人になれる機会が無かったからな」
「世の中には同じ土俵に立って、それで初めて分かることってあるんだよ」
夏「確かに……先輩もまともなことを言うんですね?」
鬼島「今バカにしたか?」
夏「してないっす」
鬼島「もっとも、そういった土俵をあたしんちは、これからいっぱい経験していくんだろうけどな?」
夏「そうですね……今日の先輩の黒いトンカツのように」
鬼島「今バカにしたか?」
夏「してないっす」
鬼島「一応あたしはわれの先輩だからな?」
夏「分かってますっす」
× × ×
鬼島「そういえば『夏』に一緒に富士山に登った友達はどうなった?」
「仲良くやってんのか?」
夏「寮暮らしで離れちゃったけど、仲良くやってるよ……」
「音葉は大学に合格、春香は家の手伝い、加奈は受験勉強中」
鬼島「そっか……」
夏「あ……あと峰山先生は、登山の後に知恵姉と結婚した」
鬼島「(振り向いて)ええっ!?」
夏「あぶねーな前向けよ!!」
「どうやら登山の時に山頂でプロポーズをしたらしい」
鬼島「(笑って)そっかあのゴリラがね……」
夏「(笑って)その驚きはウチも否定しないわ」
× × ×
信号で止まる車。
夏「――桜の卒業式。もうすぐあれから一年か……」
鬼島「あっという間だったな?」
夏「うん」
――信号が青になり、トロトロと走り去る車。