番外編 009
○同・個室前の廊下
廊下で立って話す夏と孝一。
孝一「ここまで付き添ってくれてありがとう、立花さん」
「でも正直、今でもまだ本当に自分の子かどうか、という迷いは少し残っています……」
夏「さっきの癖の話ですが……」
孝一「良い方向に働くこともあるって?」
夏「(頷いて)救急車を呼ぶ時に、冬子さんの鞄の中を見たんです」
「……ビックリしました。だって同じ安産守りが、6つも入っていたんです」
孝一「僕が……買ったものです」
夏「冬子さんはきっと、そのお守りを……孝一さんの想いを大切にしていたんだと思います」
――ハッとする孝一。
夏「ウチはまだ若いから、孝一さんの迷いを吹き飛ばす『気の利いた言葉』なんて掛けられない……」
「でもきっと大丈夫」
「だから自分を信じて、孝一さんを信じてくれる冬子さんを信じてください!!」
孝一「(頷いて)……ありがとう立花さん」
○同・個室前の廊下~個室内
個室内から突然、冬子の苦しむ声が聞こえる。
孝一「冬子!!」
と、慌てて個室内に入る二人。
――痛みで苦しみ、必死に耐える冬子。
夏「ナースコール!!」
と、ボタンを押して。
孝一「大丈夫か冬子!! 冬子!!」
何度も呼びかける孝一。
が、苦しむ冬子には聞こえていない。
看護師「どいてください!!」
と、二人を押しのけて。
看護師「(触診して)少し破水しています!!」
「分娩室に移動します!! ご主人も来てください!!」
と、冬子を車椅子に乗せながら。
冬子とともに部屋を出ていく看護師。
――呆然と立ち尽くす孝一。
背中をポンと叩く夏。
不安な顔でゆっくりと振り向く孝一を、真っ直ぐ見つめる夏。
夏「ウチの記憶に、残っていることがあるんです」
「雲の上でウチの兄貴と二人、赤ちゃんの姿で話している」
「『あの家に先に行くから待ってるな?』って兄貴が降りて行くんです……そんな夢みたいな記憶」
「子供は親を選べない。でもきっと、子供は親を選んで生まれてくるのかもしれません」
孝一「(泣きそうな顔で)……うん」
夏「目に見えない、縁のような何かは必ずあります!!」
「……二人のために、強くなって下さい」
○同・分娩室~分娩室前~分娩室~分娩室前
冬子「もう無理、私には無理です!!」
と、分娩台で叫ぶ冬子。
――励ます医師と看護師。
必死に踏ん張る冬子。
――孝一が看護師に付き添われ、分娩室に入ってくる。
冬子の手を静かに握る孝一。
冬子「(涙目で)孝ちゃん……」
――強くうなずき返す孝一。
× × ×
分娩室前のロビーソファー、組んだ手を額に当て、目を閉じて祈る夏。
× × ×
分娩室から生まれた赤ちゃんの声。
――嬉しそうに顔を上げる夏。
看護師「元気な女の子ですよ」
と、毛布にくるんだ赤ちゃんを孝一に渡して。
孝一「(泣きながら)うん……このふくよかさ……僕の子だ……」
冬子「孝ちゃん、私にも見せて……」
――赤ちゃんを冬子に渡す孝一。
冬子「(微笑んで)……孝ちゃんにそっくり」
孝一「ありがとう冬子……今まで辛い思いをさせてごめんな……」
冬子「ううん。信じてくれてありがとう……」
「(泣きながら)そばにいてくれて……ありがとう」
× × ×
廊下の夏に、ガラス越しに赤ちゃんを見せる孝一。
――笑顔の夏。




