番外編 008
○同・売店~中庭のベンチ
夏「お待たせしてすみません」
と、売店でカゴを持った孝一に合流。
孝一「いえ、お知り合いにでも会いましたか?」
夏「良くわかりましたね!? 大学の空手道部の先輩に偶然会いまして……」
孝一「すごい偶然ですね?」
夏「まぁ高校時代に色々あったけど、その先輩がいたから今のウチがあるって、少し感謝してます」
孝一「世の中には、目に見えない縁のような何かが、あるのかもしれませんね……」
と、焼きそばパンを6つカゴに入れながら。
○同・中庭のベンチ
ベンチの上には屋根があり、ベンチに雪は積もっていない。
ベンチに座り、お昼ごはんを食べる夏と孝一。
孝一「――冬子は母子家庭だったんです。でも先輩にフラれた後にお母さんを亡くして」
と、焼きそばパンをかじりながら。
夏「……どうして急にそんな話を?」
夏、のり弁を食べながら。
孝一「僕は、一人になった彼女がかわいそうで声をかけたのに……更に彼女を傷付けている」
夏「(神妙な面持ちで)……」
孝一「……もうどうしたらいいのか分からないんです!!」
と、焼きそばパンを詰め込んで。
夏「――焼きそばパン」
孝一「(夏を見て)え?」
夏「好きなんですか? そんなにいっぱい買って」
孝一「はは……同じものがいっぱいあると落ち着くんですよ」
「たぶん昔から、好き嫌いが激しい大食いだったせいで、偏ったものしか食べてなかったから」
「……ほんと、悪い癖です」
夏「ウチは一丸に悪い癖だとは思いません」
孝一「え?」
夏「場合によっては、その癖が良い方向に働くこともあると思います」
孝一「(少し照れて)ははは、そうかなぁ……」
× × ×
男A「おう、厚木じゃん!? 相変わらず『厚着』してるなー?」
孝一「え?」
夏「あーっ!! さっきカツアゲされてたサラリーマン!!」
男A「(汗)カツアゲって……」
孝一「先輩!? どうしてここに!?」
夏「先輩?」
孝一「冬子の元カレです……浮気相手の」
男A「はー? 浮気相手って何の話だよ?」
孝一「僕は見たんです。先輩と冬子が一緒にハンバーガーを食べているところを」
男A「ああ、あの時な。店で冬子を偶然見つけて、声をかけたんだ」
「じゃあ彼女、お前の子ができたってすっごく喜んでて」
「俺の今の奥さんも出産予定日が一緒の時期でさ、その話で盛り上がってたんだ」
孝一「……え? 本当に……?」
男A「おう。彼女を幸せにしてやれよ?」
「お前もこれから父親になるなら、しっかりしろよな?」
と、親指を立てて。
夏「ありがとうございますカツアゲ兄さん!! その真実が聞きたかったんです!!」
男A「え? よせやい……って、だからカツアゲされてないって!!」




