番外編 006
○同・個室内
孝一「僕の子じゃない」
――冬子と話す夏と孝一。
冬子「(うつむいて)……」
夏「(怪訝な顔で)……」
冬子「私トロいから、孝ちゃんからいつも『トロ子』って呼ばれて」
「孝ちゃんが私を信じてくれないのも、そういうものなんだって思ってた」
孝一「え……」
冬子「次はきっと『うん』と言ってくれるって、どこかで期待してた」
夏「冬子さんそれは当たり前の――」
冬子「駆けつけてくれて嬉しかったけど、やっぱり信じてもらえないんだね……」
――窓の外を見つめる冬子。
夏「冬子さん……」
冬子「私最近、何してるんだろうって段々思えてきて」
「だったら、一人で産んで、一人で育てようって……」
孝一「おい……」
冬子「(孝一を見て)新生児に必要なものって知ってる?」
孝一「それは……」
冬子「この子の肌着、おむつ、ミルクや哺乳瓶、綿棒やベビーバス……他にもいっぱいいっぱい」
「それを一人で揃えて……私バカみたい」
孝一「(手を伸ばして)とう……」
冬子「もういい!! 出て行って!!」
「(うつむいて)……もういい」
――静かに部屋を出ていく孝一。
部屋を出ようとする夏。
が、立ち止まって振り向く。
夏「冬子さん、大丈夫です。ウチを信じて、そして何より彼氏さんを信じてください」
「彼氏さんは立ち会います」
と、一礼して出ていく。
冬子「……立花さん」
○同・個室前の廊下~廊下~トイレの洗面台
孝一と話す夏。
孝一「……あんなに怒った冬子を見るのは初めてです」
夏「彼氏さん、一旦落ち着くために外の空気を――」
孝一「(うつむいて)いや、いいです……」
夏「(神妙な面持ちで)……」
「では気分転換にお昼ご飯でも食べましょう……」
孝一「だからいいです……」
――孝一のお腹が鳴る。
× × ×
廊下を歩く夏と孝一。
夏「(立ち止まって)あ、ちょっと先に売店に行っててください」
孝一「分かりました」
と、歩いていく。
――女子トイレに入る夏。
× × ×
夏「参ったな……さて、これからどうする? 立花 夏」
と、洗面台の鏡に話しかけて。




