番外編 003
○お月見総合病院・外観~廊下
雪に覆われた三階建ての病院。
入口に横付けされた救急車。
× × ×
看護師「患者さん通ります!!」
――病院の廊下をストレッチャーで搬送される冬子。
夏「ひっひっふー!! ひっひっふー!!」
と、付き添いながら。
看護師「まだ破水していませんので大丈夫ですよ!! こちらでお待ちください」
と、病室前のロビーソファーを指して。
夏「(立ち止まって)あ、はい……」
――病室の扉が閉まる。
○同・中庭~個室内
雪が止み、中庭のベンチに日が差す。
――個室内のベッドに冬子、そばに座っている夏。
冬子「お陰様で何とか落ち着きました。立花さんがそばにいてくれて本当に良かった」
夏「え? 名前……」
――脇に置かれた夏の鞄を指す冬子。
スポーツバッグに『立花』の刺繍。
夏「(頷いて)ああ」
「ウチは山梨学園空手道部の一年生レギュラー!! 立花 夏です!!」
冬子「まあ!! 夏さんってステキな名前」
夏「あ、レギュラーじゃなくてそっちっすか?」
冬子「はい!! 名前通りの熱いオーラがビュンビュン伝わってきます」
夏「あはは、暑苦しい名前ですみません……ビュンビュン……」
冬子「きっと名前に深い由来とかがあるんだろうなー?」
夏「ところがどっこい、夏に生まれたから『夏』って付けたみたいで」
冬子「うふふ、私も冬に生まれたから『冬子』」
夏「ホント、はーっ!? って感じですよね?」
――笑う二人。
冬子「でも子供の名前を考えるのって意外と難しいのよ?」
夏「そういえばお腹の赤ちゃんの名前は?」
冬子「それがまだ決まっていなくて」
「しっかり歩いていって欲しいから、『歩【あゆむ】』って漢字は使いたいんだけど……」
夏「あゆむかー……」
「あ……あゆ子!! ありきたりかー」
冬子「ですねー」
夏「あ……あ、あゆ虎!! あー、男になっちゃうかー」
冬子「うふふ。子供の名前は生後14日以内に提出すればいいから大丈夫ですよ」
夏「そうなんですか? 良かったー」
――窓の外を見つめる冬子。
冬子「でもさっき、もう子宮口が開いてきているから今日生まれるって言われたの」
夏「ええっ!? そう言えば旦那さんは!?」
――ガラッと病室のドアを開ける厚木 孝一【あつぎ こういち】(26)。
スーツ姿、手にはコート。
ふくよかな体形。
孝一「(汗だくで)トロ子!!」
冬子「(肩をなでおろして)孝ちゃん……」
夏「(二人を見比べて)え? ええっ!?」




