最終話 012
○夏の回想・船津新聞販売店・店内(日曜日・午前)
座敷に座る夏の父・拓蔵・音葉の父・加奈の父・恵介。
みんな「卒業式に桜を!?」
夏「(うなずいて)理事長には許可を取ってあるし、お金もみんなで貯めている」
「だから卒業式に桜を咲かせる方法って無いかな?」
拓蔵「そう言われてもここは寒いからなー、満開を迎えるのも四月の中旬だし」
「万が一気温が上昇して奇跡が起こったとしても、それは国士無双より難しいぞ?」
夏「やっぱり……」
恵介「例えば学校の桜が、寒冷刺激を充分に受けた後に、温室を作って温度管理をすれば、卒業式までには開花するだろうけど……」
夏「本当か兄貴!?」
恵介「でも工事費や設備維持費を考えると、お前らのバイト代だけじゃ厳しいぞ?」
夏「ダメか……」
夏の父「ようは卒業式に桜が咲いてりゃいいんだろ?」
夏「何か策があるのか親父!?」
夏の父「(恵介を見て)2月上旬から3月中旬くらいまで咲いてるじゃねえか、お前の修業先、静岡県河津町の『河津桜』!!」
恵介「河津桜か!! だったら卒業式のシーズンに咲いてるな!?」
夏「おおお!!」
恵介「ただし剪定された河津桜でも3mはあるからなー?」
「それを運ぶとなると大型トラックが必要だ」
夏の父「さすがにそれを運ぶ大型トラックは無いな……」
夏「無いのか……」
拓蔵「うちの倉庫にありますよ? アコーディオン幌の4tトラック」
夏「本当ですか!? さっすがハルのおじさん!!」
拓蔵「荷台の長さが6mだから、桜を横にしたら余裕で積めるぜ」
「あ、でも最近使ってないからメンテが必要かも……」
夏「メンテナンスか……」
音葉の父「車のメンテなら任せて下さい!! 本業ですから」
夏「おお、ありがとう音葉のおじさん!!」
拓蔵「じゃあついでに車の揺れも見てもらおうかな?」
夏「是非そうしてもらってください!!」
加奈の父「あのー……私も何か手伝えませんか?」
「立花さんには加奈がいつもお世話になっていますから」
夏「んー……大型トラックに飾り付ける『大きな紅白幕』を用意できますか?」
加奈の父「分かりました、病院の創立記念式典で使ったものを探してみます!!」
夏「よろしくお願いします!! 先生」
夏の回想終わり。
○元の体育館内
峰山「立花……お前……」
と、涙があふれ出る。
わーっ!! と立ち上がり、峰山の横を上履きのままで駆け出す生徒たち。
校長「戻りなさい君たち!! 何がどうなってるんだ!?」
――次々に外に出る生徒たち。
校長「(桜を見て)これ……は……」
理事長「私がすべて許可しました」
校長「理事長!?」
理事長「いいじゃないですか? 楽しい卒業式になって」
「学校の主役は私達ではなく、彼女たちですから」
校長「ですがこんな無茶苦茶な――」
理事長「やり方はどうであれ、生徒たちの心に響いたようですね?」
「――娘さんの心にも」
ハッ!! と羽村を見る校長。
体育館に残り、桜を見て微笑む羽村。
羽村「(小声で)バカでしょ……」
校長「笑っている……」
「事件以来、笑わなかった咲良が……」
「(うつむき声を詰まらせて)笑っている」
理事長М「……ありがとう、立花さん」
――桜を見つめる理事長。




