最終話 009
○お花見女子高等学校・校門~望美のクラス~体育館脇~館内(11時)
校門に立つ音葉の父。スーツ姿。
奥に見える校庭の桜はつぼみのまま。
× × ×
望美「ほんとだって!! それが高丘さん本人だったんだから」
と、教室で友達と話す望美。
黒板には『卒業式のライブまで自習!』の文字。
× × ×
武道場の横に体育館があり、扉は閉まっている。
体育館脇に立つ加奈の父。スーツ姿。
――館内壇上の横断幕には『第36回 お花見女子高等学校 卒業式』の文字。
1・2年生代表と書かれた席に並んで座っている音葉・春香・加奈。
座席に座り、ハンカチで涙を拭う卒業生や、後ろに座る保護者たち。
保護者席には夏の父。スーツ姿。夏の母の姿はない。
司会「以上をもちまして、第36回お花見女子高等学校卒業式を閉会致します」
――拍手。
音葉「(小声で)夏まだかな?」
春香「(小声で)もうすぐライブが始まっちゃうよー……」
加奈、後ろにある足下の小窓から顔を覗かせる父を見る。
――首を横にふる加奈の父。
加奈「(音葉を見て小声で)まだみたいです」
音葉「……夏」
× × ×
『第36回 お花見女子高等学校 卒業式』の横断幕が上がる。
替わりの横断幕がゆっくりと下りてくる。
――学園祭で使われた『高丘 景スペシャルライブ』の横断幕。
『スペシャル』が二本線で消され『高丘 景リベンジライブ』の文字。
1・2年生が入って来て床に座る。望美・真中・南の姿。
――体育館の扉が閉まる。
司会「それでは最後に、高丘 景さんのライブです!!」
ステージ脇からフォークギター片手に登場する高丘 景。
マイクスタンドがあるステージ中央で立ち止まる。
観客たち「キャー!! 景ー!!」
――笑顔で手を振る高丘。
音葉、スマホのバイブ音が鳴り、すかさず確認。
夏のメール『渋滞に巻き込まれた! 後少しで着くのに!』
音葉M「(立って)ええっ!? やばいやばい!!」
と、高丘にマイクを引き延ばすよう手で合図。
周りの観客に怪しまれて着席。
――うなずく高丘。
[以下、カットバックで]
高丘「ライブの前に、少しお話しがあります」
「卒業式に私のライブを提案してくれたのは、三年生の立花 夏さんです」
「学園祭にも呼んでいただきましたが、仕事の都合で来れなくなり、大変申し訳ございませんでした」
拓蔵「くそおお!! 全然動かない!!」
夏「ここまで来たのに……」
と、渋滞の中で。
高丘「立花さんとの出会いは、私が海で溺れているところを、彼女に助けてもらいました」
「彼女がいなければ、私は今ここに、皆さんの前に立てていませんでした」
夏「ここ、新聞配達で何度も通った道……おじさん、そこを左折して!!」
拓巳「(ハンドルを切って)ええっ!?」
高丘「更に彼女は、こうやって女装姿で歌う僕の背中を、何の偏見もなく優しく押してくれました」
拓蔵「こんな抜け道が!?」
夏「何としてでも、ライブが始まるまでに辿り着く!!」
高丘「私は立花さんの行動力に助けられました」
「少し強引で、少し負けず嫌いで、少しだけズカズカとものを言う……」
「でも彼女の言葉は、しっかりと的を得ています……それは人の中身を、しっかりと見れているからです」
拓蔵「うおおおお!!」
夏「通れたら何でもいい!!」
拓蔵「道が!! 舗装されていないいい!!」
夏「だから、間に合えええ!!」
× × ×
――そわそわする夏の父。
高丘「みなさんも相手の良い部分を見て、そして誰かの背中を押してあげてください」
「卒業してこれから辛いことがあっても、しっかりと自分を持って、進んで行ってください」
――音葉をチラ見する高丘。
音葉、肩を落としてうなずく。
高丘「お話が少し長くなっていまいましたが――」




