表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ウチと彼女の約束事  作者: 畦道テツ
第一話 『ウチと彼女の約束事』
18/206

第一話 018

○同・音葉の病室内

夏「(扉を開けて)音葉ー!! 約束事ひとつ達成したぞー!!」

音葉「あら夏、何だかご機嫌ね?」

   冬月 音葉(18)。病衣姿。

   布団を掛けたままベッドに座り、教科書を読んでいる。

夏「あ、勉強中か……」

   と、ベッド脇の椅子に座って。

音葉「うん。担当の先生がね、来月から松葉杖で学校に通えるって。だから少しでも勉強しておこうと思って」

夏「もうすぐ学校に戻れるのか!?」

音葉「(うなずいて)順調にいけば夏には完治するって」

   と、教科書を閉じ、脇に置く。

夏「やったな音葉!?」

音葉「でも頭を強く打ってるから、激しい運動はできないけど……」

夏「やっぱりまだ変わりないか……?」

   と、教科書のそばに置いてある、富士山のパズルを見て。

[パズルは、富士山頂上のピースが、九つはめられていない状態]

音葉「うん……事故から三ヶ月後に意識が戻って、昔の記憶は思い出せたんだけど」

 「高校一年の六月から、事故にあった二月までの記憶は、少ししか覚えてないのよね……」

   と、パズルを見て。

音葉「(作り笑顔で)ダメダメだね……? 私」

夏「ほら!! 富士山の山頂で叶えたかったお願いごとは――」

   ――首を横に振る音葉。

夏「そっか……」

音葉「無理に思い出そうとすると頭が痛くなるし、その後に意識を失ったこともあったから……」

夏「でもさ!! また音葉と一緒に学校生活を送れるじゃねえか!?」

音葉「うん……でも私、事故から一年学校に行けてなかったから、二年生のクラスになっちゃうんだ……」

  ――脇に置いた教科書には『数学2』の文字。

夏「(神妙な面持ちで)……」

音葉「初詣の神様、私たちのお願い叶えてくれなかったね?」

 「――夏より一つ下の学年になっちゃった……私」

   と、作り笑顔で。

   × × ×

   グッと拳を握る夏。

   ――ポタッ、ポタッと、掛け布団に涙が落ちる。

夏「(泣きながら)何で……何で嫌われ者のウチじゃなくてお前なんだよ……」

 「お前の代わりにウチだったら――」

音葉「泣かないの夏!!」

 「(笑顔で)夏は何も悪くないんだから……」

   ――涙を腕で拭う夏。

音葉「でも、夏に近づいたら怪我をするってありもしない噂、皮肉なことに私が裏付ける形になっちゃった……」

 「(神妙な面持ちで)ほんと、世の中矛盾だらけ……」

   と、窓の外を見つめて。

   × × ×

夏「あっ、そうだ!! 約束事!!」

   と、交換日記を渡して。

音葉「(中を見て)ハルちゃんの他に友達ができたんだ!? 良かったね、夏」

夏「おう!! これでお前との約束、また一つ達成したな!?」

   と、音葉が見ている日記の、表3を開けて。

   日記の表3に貼られた、『夏を幸せにする約束事』の紙。

   達成した項目に、チェックが入っている。

   ○ステップ1

   ・一年に一人、友達を作る。[チェック二つ]

   ・イメージチェンジをする。[チェック]

   ・友達と交換日記をする。[チェック]

   ――残りの約束事は隠れている。

音葉「私、夏にこんなにいっぱい約束を押し付けてたんだ……身勝手ね」

夏「身勝手じゃねえよ!! ウチはこれのお蔭で少しずつ変われたし、お前に感謝してんだ!!」

音葉「ふふっ、もう三つも達成したんだね……」

   と、日記を開いたまま、脇に置いて。

   ――ハッとする音葉。

[高一の六月から八月までの記憶が、走馬灯のように流れる]

音葉「あーっ!!」

夏「どうした急に!?」

音葉「思い出した!! これは多分、六月から八月までの記憶!!」

夏「本当か!?」

音葉「うん。夏……いつもそばにいてくれてたんだね……」

   と、ピースを三つ、パズルにはめながら。

夏「あれ? でも今まで達成した時は何で記憶が戻らなかったんだ?」

音葉「んー。多分その時は私にまだ余裕がなかったのかな……?」

 「今は学校に戻れるって聞いて、少し余裕ができたから」

夏「じゃあもしかして、この約束事を全部達成したら、お前の記憶も元に戻るかもしれないな!?」

音葉「うん!!」

夏「よーし残り六つ、明日から頑張るぞー!!」

音葉「うふふ、ゆっくりでいいよ。ありがとう夏」

夏「へへっ、そうだな」

   × × ×

夏「でさー、加奈が町を一望したいって言うから、ウチ高いとこ苦手なのに頑張ったんだぜー!?」

 「流れ星は見れなかったし――」

音葉「うふふっ」

夏「あ、そうそうこれ」

   と、ラップに包まれた桜餅を、鞄から取り出して。

[三等分に大きく切られたものを、更に半分に切った、残りの一切れ]

夏「みんなで分けて食べたんだ、友達の証」

音葉「ありがとう」

   と、食べながら。

夏「あっ……実はそれ、地面に少し落としちゃって……」

音葉「ふふっ、ちゃんと言うところが夏らしいね。私、夏の素直なとこ好きだよ?」

夏「(照れて)へへっ」

 「それとこれ、音葉にやるよ」

音葉「えっ?」

夏「ガチガチ山の『うさきちみくじ』。今度は二枚とも、いいの引いちゃったから」

   と、大吉のおみくじを一枚渡して。

音葉「ありがとう。おみくじをもらう前に、私にもいいことがあったね?」

夏「そうだな!?」

二人「あはははは」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ