最終話 004
○同・校門前(夕)
門扉にもたれている北川。
その横を下校する生徒たち。
――羽村が友達と二人で歩いてくる。
北川「羽村さん、少し時間いいかな?」
羽村「(止まって)確か学園祭で副委員長だった……」
北川「北川だ」
羽村「私に……何か用ですか?」
友達A「(手をあげて)あ、咲良ちゃん、私バイトがあるから先に帰るね」
羽村「うん、また明日」
○同・敷地内~武道場裏
敷地内を歩く夏、背中には鞄。
夏「『武道場裏』と『いっこ下』……」
「へへっ、わざわざ来てくれるとはな……大学まで行く手間が省けたよ」
× × ×
武道場裏に立つ夏。
夏「何だ誰もいないじゃねえか、早く来すぎたか……」
鬼島「よう、いっこ下」
と、後ろから声をかける鬼島 典子。私服姿。
夏「(振り返って)やっぱりお前か」
鬼島「可愛い後輩に、お祝いの言葉を述べてこいって監督に言われてな」
「AO入試、うちに受かったみたいだな?」
夏「ああ」
鬼島「だったらもう一度確認したい」
と、夏の胸倉を掴み、武道場の壁に押し当てる。
夏「なっ!?」
鬼島「(見つめて)われはどうだ? あれから変われたっちゅうか?」
夏「(見つめて)――ああ、頭痛は治ったよ」
鬼島「(目を閉じて)……そっか」
――手を放す鬼島。
ゆっくりと手を差し出して。
鬼島「(優しい顔で)おめでとう立花。これから一緒に練習できるのを、楽しみにしている」
夏「(握手して)ありがとう鬼島」
○同・校門前
北川「先に言っておく。私は理事長の娘だ」
羽村「えっ!?」
北川「だからあんたが校長の娘だということも知っている」
羽村「……いつから」
北川「あんたに関わったやつが退学になった事件からだ」
羽村「(怪訝な顔で)……」
○同・武道場裏
夏「そういえば、お前に聞きたいことが二つあったんだ」
と、制服を整えながら。
鬼島「言ってみな」
夏「前に大学で空手と出会って変われたって言ってたけど、そのキッカケは?」
鬼島「何故それを聞きたい?」
夏「空手を自分から始めるやつは、大抵強くなりたいからだけど……」
「番長にまでなったお前が、何でいまさら空手を始めたんだ?」
――フッと笑う鬼島。
鬼島「話してやるよ……われに絡んだ後のことを」
夏「(怪訝な顔で)……」
鬼島「あれは、あたしが高2の11月だった……。取り巻きが二人いただろ?」
夏「ああ。挑発的なやつと、『そうらー』しか言わないやつ」
[不良B・Cのイメージ]
鬼島「(うなづいて)あたしのポジションを、二人でずーっと狙っていやがった」
夏「マジで!?」
鬼島「あたしがいつも手加減をするところに嫌気がさしたらしく、不意打ちで二人にやられた」
夏「あいつらにそんな顔が……」
鬼島「で、やつらは停学、あたしはもっと強くなりたくて空手に興味を持ったって訳だ」
夏「確かにウチが2年になる頃には、お前の噂も聞かなくなったけど……そんなことがあったのか」
鬼島「面白い話だろ? つるむ相手がいなくなれば、人ってのはコロッと変わるものだ」
「番長なんて肩書きもあっという間に無くなった……その分受験勉強に集中できたけどな」
夏「……話してくれてありがとう鬼島」
鬼島「で、二つ目は何だ?」
夏「校長の娘に関わったやつが退学になった事件、知っているか?」
○同・校門前
羽村「(うつむいて)私に関わった人が退学になった事件……」
北川「……ああ」




