第一話 017
○お月見総合病院・全景~療養型病棟の玄関脇~病院の廊下~音葉の病室の扉の前(夜)
――スギやマツに囲まれた病院。
一般病棟と、療養型病棟が並ぶ。
夏「通り雨で助かったよ」
と、療養型病棟の玄関脇にバイクを止めて。
× × ×
廊下を歩く夏。
音葉の母「あ、夏ちゃん」
と、奥から歩いてくる、音葉の父(42)と母(44)。
夏「おじさんおばさん、こんばんは!!」
音葉の母「毎日ありがとね。音葉も凄く喜んでいるわ」
夏「(笑顔で)いやー、ウチが会いたくて来てるだけですから」
音葉の母「(会釈して)じゃ、私たちは先に」
夏、会釈し、歩いていく。
――見送る音葉の父と母。
音葉の父「あれから一年が過ぎて、お見舞いに来る友達もあの子だけになったな……」
音葉の母「そんなものよ、あなたにも親友と呼べる人は少ないでしょ?」
音葉の父「……まあな」
音葉の母「ほんと、夏ちゃんの笑顔は私たちに希望を与えてくれるよね……」
「辛いのは私たちだけじゃないんだって」
× × ×
個室病室のプレートに、『冬月 音葉』の文字。
――神妙な面持ちで、扉の前に立つ夏。
○夏の回想・通学路の下り坂~丁字路(二月・夕)
降っていた雪は止み、夕焼けが広がる。
傘を持ち、並んで歩く夏と音葉。
音葉「まずは一年に一人、自分で友達を作ってみて? 同じ学年で作り辛かったら、新入生でもいいんじゃない?」
「(笑顔で)だって、夏の変な噂を知らない子たちなんだから」
夏「ええっ!?」
音葉「それと約束事なんだけど、全部で九つあるからまとめてみたの」
と、紙を渡して。
夏「うわ!? マジかよ!?」
音葉「夏が卒業するまでゆっくりでいいよ?」
「約束事は『ステップ1から3』の中に、三つずつ分けてあるから。もちろん同じことを何回達成してもいいけどね?」
夏「無理無理!! こんなにいっぱい――」
音葉「だよねー? だから別に無理にやれとは言わない。それは夏に任せる」
夏「何だよそれ……」
――丁字路の角で立ち止まり、後ろを向く音葉。
建物の奥、夕焼けに染まる富士山。
音葉「私……ここから見える富士山が一番好きかなー?」
「(振り向いて)なぜだか分かる?」
夏「……え?」
音葉「(微笑んで)それはね、夏と毎日いっしょに見ている景色だから」
夏「……音葉」
音葉「夏、私ね、今は部活で忙しいけど、いつか夏と一緒に富士山に登ってみたいんだ」
夏「何だよいきなり!?」
音葉「あのね、富士山のご来光に向かってお願いごとを叫んだら、そのお願いが叶うんだって」
夏「ホントかよ? そんなの聞いたことないぞ?」
音葉「うふふ、だってそれ、私が考えたんだもん」
[ホワイトアウト]
[以下フラッシュ]
× × ×
○立花家・夏の部屋(夜)
スマホを耳にあて、驚いた顔の夏。制服姿。
× × ×
○通学路
横断歩道に落ちている、音葉の壊れた傘。
雪が積もった路面を照らす、パトカーの赤い光。
× × ×
○お月見総合病院・廊下
急ぎ足の夏。
酸素マスクをつけ、ICUで治療を受ける音葉。
――廊下で話す夏と音葉の母。
音葉の母「(涙をこらえて)夏ちゃん……音葉ね、意識が戻るか分からないの……」
夏の回想終わり。
○元の音葉の病室の扉の前
――ポンポンと、太ももの横を叩く夏。




