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ウチと彼女の約束事  作者: 畦道テツ
第十話 『トラウマさんさようなら』
169/206

第十話 013

○路地裏~船津登山道歩道橋

   雨が降る中、路地裏にうつむいて立つ音葉の後姿。

夏「(息を切らして)お前、こんなところ探してもある訳――」

音葉「(背を向けたまま)ここにはもう二度と来たくなかった……」

 「でも私にとってここは、夏と初めて出会った場所だから……」

[以下、音葉はうつむいたまま。表情は濡れた髪の毛で隠す]

   ――夏、ため息をついて。

夏「傘、忘れたのか? 朝の予報で、夕方に通り雨があるって言ってたのに」

   と、手提げ鞄から取り出した赤い折り畳み傘を広げ、音葉の隣に立つ。

音葉「私、夏と喧嘩したから……また一からやり直したくてここに来たのかな……?」

夏「もういいんだ……日記、見つかったぞ」

音葉「……ありがとう夏」

   と、振り返って歩き出す。

夏「(追いかけて)おい音葉!?」

音葉「むかしむかし、あるところに、中学2年生の内気な女の子がいました――」

夏「どこ行くんだよ!?」

   と、音葉に傘をさしながら追いかけて。

音葉「3月も終わる頃、女の子はお婆ちゃんの家に遊びに来ており、1人で買い物に出かけました――」

夏「(神妙な面持ちで)……」

音葉「そこで女の子は知らない男性からしつこくナンパをされ、どうしたら良いのか分からなくて、その場で泣いてしまいました――」

夏「それって……」

音葉「するとそこに、赤い折り畳み傘を持った女の子が現れ、彼女は強引に手を取り、2人はその場から必死に逃げました――」

   ――歩道橋を上る2人。

音葉「歩道橋の真ん中で、女の子を助けた彼女は涙をこらえてこう言いました……」

   と、真中で立ち止まって。

音葉「『泣いちゃダメなんだ』」

   ――優しい表情で振り返る音葉。

夏「……音葉」

音葉「それ以来、助けられた女の子はどんなに辛い時でも涙をこらえ、自分を変えようと目標を立て、少しずつ変わって行きました――」

 「剣道ともう一度向き合ったり、誰かのために行動したり……」

夏「じゃあ音葉が変わるきっかけを作ったのってやっぱり……」

音葉「うん。中学2年生の立花 夏」

夏「……そうだったのか」

音葉「不思議ね……またこうやって2人で同じ場所に立ってる」

夏「ごめん音葉」

音葉「え?」

夏「ウチがあの時、『泣いちゃダメだ』なんて無責任な言葉を押し付けたから……」

音葉「(首を振って)あの言葉があったから私は変われたの……」

 「夏が私たちにとって、本当に本当に大切な日記を諦めなかった」

 「それなのに私は、終わったことだからもういいって……」

夏「(首を振って)ウチこそひどいことを言ってごめん……」

音葉「(震えた声で)……なつ」

夏「……ん?」

音葉「(涙をこらえて)私……、もう我慢しなくてもいいよね?」

 「強くならなきゃってずっと我慢してきたけど……」

 「(泣きながら)もう泣いてもいいよね……?」

   ――うなずく夏。

音葉「夏!!」

   と、夏の胸に飛び込んで。

   赤い折り畳み傘が後ろに落ちる。

   ——夏の服をギュッと握り、泣き叫ぶ音葉。

   音葉の背中を優しくさする夏。

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