第十話 010
○駅までの道~駅前のコンビニ~駅までの道(20時過ぎ)
稲穂「おーさむっ、結構冷えるなー」
と、駅までの道を歩きながら。
――道の反対側に懐中電灯の明かりを見つけて立ち止まる。
稲穂「(ニヤリ)ふーん……」
と、歩き出す。
× × ×
店員の声「ありがとうございましたー」
稲穂、レジ袋を片手にコンビニから出てくる。
× × ×
懐中電灯で道を照らし、日記を探している夏。ジャージ姿。
稲穂「はい、プレゼント」
と、後ろから顔の横にコーヒーを差し出して。
夏「(振り向いて)え!?」
稲穂「あったまるよ?」
夏「(受け取って)あ、ありがとう……」
稲穂「がんばるね? ……ちょっと休もっか?」
と、縁石に座って。
夏「……ああ」
――並んで座る2人。
星空を写す。
稲穂「(コーヒーを飲んで)綺麗だね? 東京じゃここまで綺麗に見えないよ」
と、星空を見上げて。
夏「(コーヒーを飲んで)そうなのか?」
稲穂「うん」
夏「明日……何時に帰るんだ?」
稲穂「朝10時」
夏「何かごめんな?」
稲穂「何が?」
夏「今日は折角ウチを元気づけようと誘ってくれたのに……その、音葉との喧嘩に巻き込んじゃって……」
――周りの景色を写す。
稲穂「慣れてるから」
夏「え……?」
稲穂「家の両親さ、私がいないといっつも喧嘩ばかりしてるんだ」
夏「(稲穂を見て)……」
稲穂「ほら、お笑いに例えると両親がボケ役で私がツッコミ役って感じ?」
「だから私がいない休みの日なんて、朝からずーっと言い合いの平行線」
夏「ボケ役を支配するツッコミ役が必要なのか?」
稲穂「んー、ツッコミって相手を支配するんじゃなくて、愛情だと思うんだ」
夏「愛情……」
稲穂「うん。相手を理解しようと思っているからこそ、相手のボケに気付ける」
夏「……ツッコミも大変なんだな?」
稲穂「面白いよ? 相手を理解する事って――友達を理解する事と同じ」
夏「友達か……」
稲穂「でもさ、相手に100%依存しちゃってもダメなんだよねー。きっと分かってくれるだろうって」
夏「……難しいよな? 人付き合いって……」
稲穂「だって生まれも育ちも考え方も違うんだよ? (笑顔で)当たり前じゃん」
夏「へへっ、そう言われればそうだよな」
稲穂「喧嘩ってさ、勝ち負けじゃないんだよね……どっちも傷つくし」
「世間ではさ、喧嘩するほど仲がいいって言うけど、本人達はきっと辛いんだよね……」
――うつむく夏。
稲穂「私もね、むかし音葉ちゃんと喧嘩したことがあったんだ」
夏「ほんと?」
稲穂「確か些細なことだったと思う」
夏「些細なことって?」
稲穂「何だったっけー……忘れちゃった!!」
夏「へへっ」
稲穂「でも次の日に私が謝った!!」
夏「え?」
稲穂「ほら、音葉ちゃんああ見えてけっこう頑固で溜め込んじゃうからさ……」
「こっちも意地を張ってるとどんどん謝り辛くなるし……だから私が割り切った」
夏「(神妙な面持ちで)……」
稲穂「……自分にとって何が一番大切かって考えたら、意地を張るのもバカバカしく思えて」
「でもね、本当に大切な事を簡単に割り切れる人なんていないと思うんだ……そこは信じてあげて」
夏「……そうだよな。いや……分かってた」
――微笑む稲穂。
夏「あのさ、良かったら音葉の……中学のころの話を聞かせてくれないか?」
稲穂「いいよ」
「音葉ちゃんとは中学3年生の時に、同じクラスになって初めて知り合ったんだ」
夏「え? じゃあ音葉が変わるきっかけを作ったのって……?」
稲穂「あー、その話は確か……ナンパがどうとかって言ってたかなー?」
夏「(怪訝な顔で)……」
稲穂「で、剣道も昔やっていたって聞いたから、後少しだけどやってみなよ? って剣道部に誘ったんだ」
「そしたらさ、三年最後の大会でどんどん勝ち上がっちゃって!!」
夏「はは……」
稲穂「きっと部活が終わって家に帰っても、必死に練習してたんだと思う」
夏「口には出さないけど、人一倍努力する……音葉らしいや」
稲穂「そうだね……」
「あ!! 話が長引いてごめんね!? アイスコーヒーになっちゃったね!?」
夏「(笑って)ホットもアイスも両方好きだから」
× × ×
稲穂「――交換日記……大切なものだよね?」
夏「ああ」
稲穂「(小声で)分かるな、その気持ち……」
夏「え?」
稲穂「よし決めた!! 明日私も探すよ!! 帰る時間を遅らせて」
夏「そんな!? これ以上迷惑をかけられないし――」
稲穂「気にしない気にしない!! (ニコッ)大切な友達の為だから」
夏「……四季さん」
稲穂「かったいなー、呼び捨てで良いよ、タメなんだから」
夏「へへっ、よろよろしく!! 稲穂」
稲穂「よろよろしく!! 夏」
と、アイスコーヒーで乾杯。
稲穂「(立ち上がって)よーし今日はもう帰ろう? 続きはまた明日!!」
夏「(立ち上がって)おう、ありがとな?」
稲穂「こちらこそ、今日は凄く楽しかったから」
と、歩き出して。
稲穂「(振り向いて)あ、そうそう。私が音葉ちゃんと喧嘩した理由……」
夏「思い出したのか?」
稲穂「うん。目玉焼きに何をかけるかって話で喧嘩した!! おっやすみー!!」
と、大きく手を振って。
夏「(呆れ顔)ははっ……おやすみー」
と、小さく手を振って。




