第十話 005
夏「そもそも今日ここに来たのは、ウチを元気付ける目的もあったんだろ!?」
「なのにここまでの流れがおかしい!!」
春香「イジケないイジケない。たまたま絶叫系が先に来ただけだよー」
夏「ははーん、そう来たか……。よーし!! お化け屋敷に行こう!!」
春香「!」
稲穂「いいね!! ここのお化け屋敷は結構長いんでしょ!?」
加奈「確か『世界一歩行距離が長いお化け屋敷』としてギネス認定されましたよね」
春香「(青ざめて)!!」
音葉「お化け屋敷なら私も楽しめそう」
夏「ここは常連さんに是非、先頭をお願いします!!」
と、春香の後ろから両肩を掴んで。
ロボットのようにカクカクと振り向く青ざめた春香。
夏「あ、その前に――」
× × ×
夏「お化け屋敷でコケて貴重品とか落としたら大変だからな」
加奈「そうですね」
と、コインロッカーに鞄をしまいながら。
夏「よっし並びに行くか!!」
○同・お化け屋敷の病院・全景~入口前
廃墟の病院を再現したお化け屋敷全景。
加奈「確か所要時間は1時間だったような」
春香「!」
と、入口前で列に並びながら。
加奈「噂によると本物も出るみたいですよ? だから毎日営業前にお祓いをしているとか……」
稲穂「へー、加奈ちゃん初めて来たのに詳しいんだね?」
加奈「えへへ。昨日楽しみで眠れなくって、遅くまで色々と調べてました」
春香「(白目)か、かなちゃんって何気にS入ってるよね……?」
加奈「(赤面)ふぇえっ!? そんな、ほ、褒めても何も出ませんよ!?」
稲穂「うん……褒めてないと思う」
――入口の下手に出口がある。
出口から叫びながら走って出てくる客たち。
春香「……なっちゃんやっぱ止めようよ?」
夏「ウチがさっきまで味わってきた恐怖に比べたら大したことはない!!」
加奈「そうですよ!! 途中でリタイア扉もあるみたいですから大丈夫ですよ!!」
春香「(白目)かなちゃんってやっぱS入ってるよね……」
音葉「うふふ」
○同・お化け屋敷の病院・建物内
――薄暗い通路を歩く5人。
先頭の稲穂がペンライトで前を照らす。
その後ろに加奈と音葉に挟まれた春香。最後に夏。
春香「さっき見たストーリー映像だけでお腹いっぱいだよ……」
加奈「狂ったドクターによって無差別殺人が起きた病院の廃墟ですか……」
「小道具といい消毒液の臭いといい……さっきの映像の世界感が見事に再現されていますね」
と、死体の人形を見渡しながら。
春香「(泣きながら)感心してないでもうリタイヤしようよー……」
夏「真ん中で守られてるんだから文句言うなって」
稲穂「そうそう、一番怖いのは先頭なんだから」
音葉「うふふ」
と、上り階段を歩きながら。
――狭い通路で突然、叫び声やうめき声が聞こえる。
春香「ぎゃあああ!!」
と、稲穂を押しのけ猛ダッシュ。
4人「(追いかけて)ちょっとおおお!?」
――手術室内で立ち止まっている春香。
音葉「いた!!」
夏「ったく、心配するだろ!? 勝手に行くなよ!?」
春香「なっちゃん……あれ人形だよね?」
と、手術台に横たわる患者の人形を指差して。
夏「よく見たら分かるだろ? オバケったってどうせ人が脅かしてんだから大したことねえよ」
「それよりお前がこんな暗い所で走ってケガでもしたら、そっちの方が怖いよ」
春香「(泣きながら)ありがとうなっちゃん!!」
夏「もう走るんじゃねえぞ?」
春香「うん!!」
3人「うふふ」
――と、後ろから患者姿のオバケが奇声を上げて現れる。
夏・春香「ぎゃあああ!!」
と、二人で猛ダッシュ。
3人「(追いかけて)ちょっとおおお!?」」
――悲鳴とともにお化け屋敷の病院全景を写す。
[車椅子のオバケに追いかけられる夏と春香]
[下り階段の先、細い通路で隙間から顔を出すオバケにビビる夏と春香]
[ロッカールームでロッカーを叩く音にビビる夏と春香]
× × ×
膝を抑えて息を切らす音葉・稲穂・加奈。
音葉「やっと追付いた……」
夏「おい……前に誰か立ってるぞ」
――通路の奥に立つ白衣姿のオバケ。
稲穂「(ペンライトで照らして)あいつの横を通れっていうのね……?」
音葉「行きましょう」
加奈「はい」
夏・春香「ははははいっ!!」
白衣姿のオバケの横を通り過ぎようとする5人。
オバケ「ここでペンライトを回収しまーす」
5人「……へ?」
稲穂「あ、どうも」
と、ペンライトを渡して。
オバケ「(見送って)それでは頑張って下さーい」
× × ×
薄暗くて長い一本道を歩く5人。
春香「(夏の腕を掴みながら)ライトがないと不安調味料が倍増だよー」
夏「だからってくっつくなよ!? ったく、後ろを一人で歩く加奈がたくましく見えるよ」
加奈「あ、私、何かありましたら皆さんより走るの速いですから!!」
夏「うん……そこを褒めたわけじゃないんだけど」
と、前を歩く二人をチラ見する。
――手をつないで歩く音葉と稲穂。
夏「(咳払い)なーんだ、ただの長い通路じゃねえか――」
加奈「来ましたよ!!」
4人「(振り向いて)えっ!?」
――後ろから白衣姿のオバケが奇声を上げて追いかけてくる。
みんなの声「ぎゃあああああああ!!」
お化け屋敷の病院全景を写す。
× × ×
――出口から叫びながら走って出てくる5人。
先頭の加奈に続いて夏。
が、夏がつまずき、後の3人が次々に覆い被さる。
夏「(下敷きになりながら)お前ら怖がりすぎだろ……」
春香「(魂が抜けて)オバケが一匹オバケが二匹……」




