第一話 016
○夏の回想・曇り空を見上げる夏~冨士御室浅玄神社・表参道~拝殿~社務所前~表参道(一月・夕)
曇り空を見上げる夏。
ふちメガネ姿。コートにマフラー。
音葉「あれ? 夏、傘忘れたの? 朝の予報で夕方に通り雨があるって言ってたのに」
と、後ろから。着物姿、手には閉じた傘。
夏の下手には、大鳥居と『冨士御室浅玄神社』と彫られた石碑。
周囲は、傘をさした大勢の参拝客。
地面には、5cmほどの雪。
夏「(振り向いて)う、うるせー!!」
音葉「混む時間帯をさけたんだけど、やっぱり三が日はいっぱいだね?」
――バサッと傘を広げ、夏の隣に立つ音葉。
夏「あ、ありがとう……」
× × ×
表参道の先、松明に火が灯った拝殿。
拝殿の鈴を鳴らし、手を合わせ、お願いごとをする二人。
音葉「夏は何をお願いしたの?」
夏「ん? 餅ばっかりで飽きたから、今日の晩飯カレーにしてください!! って」
音葉「すごく現実的ー」
夏「音葉は何をお願いした?」
音葉「うふふ、ひ・み・つ」
夏「何だよそれ……」
音葉「雨、上がったね」
と、傘立てから、傘を取って。
夏「おう、これだと傘いらなかったな!?」
音葉「(歩き出して)じゃあもう入れてあげなーい」
夏「(追いかけて)えっ、冗談だって!?」
音葉「うふふ。夏、あれやろう?」
と、社務所前のおみくじを指して。
――おみくじを引く二人。
音葉「やったー!! 大吉!! 夏は?」
夏「凶……」
と、社務所の壁に片手をついた、白い夏。
夏「(百円を入れて)私、もう一回引いてみる!!」
音葉「ちょっと夏!?」
夏「また凶……」
と、白い夏。
音葉「どんまい……」
夏「あーあ、ついてねーなー」
と、みくじ結び所のヒモに、おみくじを結びながら。
音葉「(大吉みくじを見せて)これ、夏にあげる」
夏「いいよ、全然気にしてないから」
音葉「(笑顔で)遠慮しないの」
× × ×
音葉「夏、あのね……さっきのお願いごとだけど」
――参道を歩く二人。
音葉「二年生になっても、夏と同じクラスになれますようにって」
夏「えっ!?」
と、立ち止まる。
――笑顔の音葉。
夏「音葉!! ちょっと待ってて!!」
音葉「えっ!?」
拝殿に走っていく夏。
――汗だくで戻ってくる。
音葉「……どうしたの!? 忘れ物!?」
夏「(息を切らして)……おう」
「カレーの……お願い……取り消して、私も音葉と同じお願いにしてきた」
音葉「……夏」
○夏の回想・立花家・玄関(夜)
夏「ただいまー」
夏の母の声「(家の中から)お帰りなさーい。夏ー、今日の晩ごはんカレーねー」
夏「うへっ!?」
夏の回想終わり。