第九話 008
○北川家・敷地内~玄関前
車が立派な門と庭園を抜け、玄関前に停車する。
飛鳥井「奥様は既に帰っておられます」
と、助手席のドアを開けて。
北川「(降りながら)ありがとう飛鳥井」
飛鳥井「お足下にお気を付けください」
と、後部座席のドアを開けて。
夏・音葉「(降りながら)ありがとうございます!!」
× × ×
――三階建ての北川家。
音葉「お庭も凄かったけどお家も凄いね!?」
夏「中に象とかいそうだな!?」
音葉「うんうん」
北川「いないいない」
夏「じゃあきっと武装した特殊部隊とか――」
飛鳥井「(笑いながら)お嬢様がいらしたら警護なんて必要ありませんよ」
と、駐車場から戻って来て。
夏「それもそうだな!?」
北川「自分でいうのも何だけど、うちの母は芯がしっかりとした人だ。周りの雰囲気にのまれるなよ?」
夏「おう、分かってるって!!」
○同・理事長の書斎前のリビング~書斎~書斎前のリビング~書斎
腕組みでソファーに座っている北川。
怪訝な表情で書斎の扉を見つめる。
飛鳥井「きっと大丈夫ですよ」
と、運んできた紅茶をテーブルに置いて。
北川、飲んで一息。
北川「ありがとう飛鳥井」
× × ×
書斎のソファーに座っている夏と音葉。
テーブルを挟んで座っている理事長(女56)。
周りには高価な置物が多数。
理事長「話は分かりました……学園祭のことも約束事のことも」
「わざわざ来て頂いたその行動力は高く評価します」
「ですが学校行事に関しては、私がよく吟味してから判断します」
夏・音葉「(一礼)よろしくお願いします!!」
理事長「冬月さん、少し外してもらってもよろしいですか?」
音葉「はい、失礼します」
と、書斎を出る。
× × ×
北川「(立ち上がって)冬月さん!? 終わったのか!? 立花は!?」
音葉「理事長が夏と二人で話がしたいって」
北川「そっか……」
音葉「(笑顔で)夏ならきっと大丈夫」
北川「……ああ」
と、書斎の扉を見つめる。
× × ×
書斎内、オジロワシのはく製を写す。
理事長「立花さん」
夏「はい」
理事長「あなたの噂は私も色々な人を通して聞いています。良い噂も、悪い噂も」
夏「……はい」
理事長「あなた2つ、質問があります」
「1つ、学校には今まであなたを傷つけてきた生徒たちも沢山いるでしょう……それでもみんなを笑顔にしたいんですか?」
夏「(怪訝な顔で)……」
理事長「2つ、あなたにとって学校とは何ですか?」
――少しの間。
夏「1つ目」
「――どんなに辛い思いをしてもブレない心」
[学校の敷地内、鬼島に頭を踏まれる音葉]
「――そしてそのことを笑い飛ばせる強さ」
[夏(ふちメガネ姿)の隣の席で微笑む音葉]
「――その笑顔が周りの人達をも笑顔にする」
[雪かきがされた道路を笑顔で下校する夏と音葉]
「……ウチはそういう人になれたらと思っています」
理事長「(怪訝な顔で)……」
夏「2つ目」
「――辛い事も」
[教室に一人ポツンと残る夏(ふちメガネ姿)]
「――嬉しい事も全部ひっくるめて成長していく場」
[屋上のドアの前でお辞儀をする加奈に対して、慌ててお辞儀を返す夏と春香]
「それが学校だと思っています」
――少しの間。
理事長「分かりました」
「(優しい顔で)ライブの許可書を書きましょう」
夏「ありがとうございます!!」
「あ……、それともう1つだけお願いがあります」
理事長「もう1つ?」
夏「はい」