第八話 019
○同・ビーチ真ん中
――砂浜に座る夏と音葉。
夏「そういえば今日海で遊んで、12月の記憶は思い出せたか?」
音葉「うん、夏と一緒にクリスマスツリーを作ろうって、夏のおじさんも一緒になって――」
夏「うんうん、うちの親父が一番はりきってたよな!?」
音葉「(笑いながら)でもけっきょく飾った電飾が古くて点滅しなくって――」
夏「あの電飾を持って来たのは音葉だったんだぞー!?」
音葉「うふふ、ごめんごめん」
夏「……でもよく考えたら、(笑いながら)花火を見ながらクリスマスの話ってのも変だな?」
音葉「うふふ、そうね」
× × ×
音葉「夏……私ね、事故で失った記憶について前々から気付いていたんだけど……」
夏「え?」
音葉「今日記憶が戻ったことで確信が持てたから話すね?」
夏「……おう」
音葉「私ね、中学の頃は、昔の夏と同じで引っ込み思案な性格だったんだ」
「でも中学2年の終わりにある人からガツンと言われて、それで自分を変えたい、強くなりたいと思ったの」
夏「(神妙な面持ちで)……」
音は「それで中学3年から1ヶ月に1つ、自分で目標を立てて一生懸命達成してきたんだ」
夏「ええっ?」
音葉「そのあと山梨に転校して夏と出会って、夏も私みたいに変わって欲しくて『約束事』を考えたの」
夏「(ノートを見て)えーっとちょっとまって、整理すると……」
「音葉はウチと出会った6月から、ウチを変えようと1ヶ月に1つ『ウチを幸せにする約束事』を考えた」
音葉「うん。これは私が中3の時に達成してきた内容とほぼ同じ」
夏「で、ウチが約束事を達成すると、音葉が事故で失った高1の記憶、細かく言うと『音葉がウチのために約束事を考えたその月の記憶』が戻った」
音葉「うん、約束事は夏と過ごした6月から2月までの9ヶ月分だから9つ」
夏「今まで達成したのは、
・6月の記憶、ステップ1の1『一年に一人、友達を作る』
・7月の記憶、ステップ1の2『イメージチェンジをする』
・8月の記憶、ステップ1の3『友達と交換日記をする』
・9月の記憶、ステップ2の1『家族について考える』
・10月の記憶、ステップ2の2『峰山先生の悩みを解決する』
・11月の記憶、ステップ2の3『もう一度空手と向き合う』
・12月の記憶、ステップ3の1『友達と海で遊ぶ』
――ここまでか……」
「でもなんで、高1の記憶だけが思い出せなかったんだ?」
音葉「うん、その答えに確信が持てたから言うね。私ね、たぶん夏に約束事を通して変わって欲しくて……」
「(笑顔で)それで無意識に思い出せないだけなのかなーって」
夏「なんだそりゃあああ!?」
音葉「(笑顔で)振り回しちゃってごめんね?」
夏「(花火を見上げて)……まあでも、音葉との約束事がなければ、ウチもここまで変われていなかった……」
音葉「(花火を見上げて)うん」
夏「――ありがとう音葉」
音葉「(うなずいて)来年もこうやって、一緒に花火を見ようね」
夏「……うん」
× × ×